第1章 21 (……ちょっと童心に帰ったら、この緊張も紛れるかな?)

 海星うみほし児童公園は先日、道瑠と灯夜が話をした公園。あの時は夕方だったため人気ひとけが無かったわけではなく、土曜日の午前であっても子供の遊ぶ姿は一人たりとも見掛けない。

(ちゃんと来てくれるよね……?)

 先に到着したのは道瑠だった。本当にあるては来てくれるのか――緊張と不安が、彼の胸中をグラグラと揺さぶる。


しじみ

公園に着きました

急がなくても大丈夫なので、待ってます


 取り敢えずベンチに座った道瑠はあるてに到着の一報を送る。

(滑り台、鉄棒、ブランコ、ジャングルジム、あの球形の回すのは……グローブジャングルだっけ?)

 そしてスマートフォンをしまうと、園内の遊具を見回した。

(この前は見回す余裕も無かったけど、改めて見ると懐かしいな)

 かつては子どもたちが駆け回り遊んでいた公園も、今では遊具の塗装が所々剥落し、剥き出しになった鉄の棒が錆びている。それだけでは無く、単純に外で遊ぶ子どもが減少傾向にあることもあり、尚更時代の流れを感じる。

 道瑠も昔は時々ここで遊んでいたため、それが等身大に感じられた。

(……ちょっと童心に帰ったら、この緊張も紛れるかな?)

 そう考えた道瑠は立ち上がるとジャングルジムを登り始め、頂上まで達するとそこで腰掛ける。風は僅かに吹き、冬の澄んだ青空に陽光を感じる気候。1月にしては暖かく、外出日和と言っても良い。

(こんなにも緊張するのは多分……まだ仲直りしたわけじゃない、後ろめたさがあるんだろうな)

 頂上に座って一息つくと、このように自分の胸中を分析することが出来た。座っていると言うのはベンチの上と何ら変わりないが、地上よりこの快適な気候を感じられ、心なしか道瑠に平穏をもたらしてくれた。

「ん……?」

 しかしそれも束の間、見下ろすとあるてらしい姿がこちらに向かっているのが見えた。その瞬間、再び道瑠に緊張が走る。しかし意識し過ぎると落ちかねないのでなるべく無心を心掛けながら、ジャングルジムを降りた。


「あの……お待たせしました」

 あるてと道瑠は再会した。

「う、うん……あ、そんな待ってないから大丈夫」

 しかしいざ対面すると互いに合わせる顔が無さそうで、気まずい雰囲気になる。


 ………………。


(に、逃げるな私……ちゃんと謝らなきゃ……!)

(僕が元凶なんだから、僕からちゃんと謝らなきゃ……!)

 無言の中、あるてと道瑠は己にこう言い聞かせる。そして――

「「ご、ごめんなさい!」」

 2人の『ごめんなさい』が重なった。

「…………えっ?」

 この事態にお互いキョトンとするが、声を出したのは道瑠だった。

「いやその、あるてさんは被害者なんだし、何も悪くなんて……」

「で、でも冷静になったら私も大概失礼だったから」

「いやいや。あれは当然の報いと言うか」

「私はもう気にしてないから。それより私からもちゃんと謝らないとって思って、今日だって……」

「いやいや――――――」

「ぃゃぃゃ――――」

「ぃゃ――」

 互いに罪悪感を取っては取られの応酬が続き、続いていく内に、

「くっ……あっははは――」

 あるてが唐突に笑い出した。

「えっ、あるてさん……?」

「ごっめん。何かこのやり取りが楽しいと言うかおかしくて」

「う、うん……。そうだ、お互い様ってことにしないかな? このままだと多分日が暮れても続きかねないし」

「それが一番なのかな。ここに来るまでにああ謝ろうこう謝ろう考えてたから、何だか拍子抜けしちゃった」

「僕もだよ。あはは……」

 困ったように笑う道瑠の前に、あるてが手を差し出した。

「じゃあさ……仲直りの握手、しない?」

「……うん、良いよ」

 あるての要望に応え、道瑠があるての手を取り握手する。

「あったか。すべすべしてるし」

 その瞬間にあるてが道瑠の手の感想を述べる。

「あるてさんはちょっとひんやりしてるけど、僕には丁度良いかも」

「そ、そっか……。ねえ。さっき、ジャングルジム登ってなかった?」

「あれ、見られてたんだ」

 この間もお互いに手を離さない。

「童心に帰って体を動かせば、緊張も紛れるかなって思って」

「そうなんだ。久々に私も登ってみたいかも」

「じゃあ……登る?」

「ん。そうしよっか」

 ここで漸く手を放し、2人はジャングルジムを登り始めた。


「あー、これはなかなか……」

 頂上まで登った2人は隣同士で座る。

「落ちないように気を付けてね?」

「アンタもね」

 言いながら、2人は解放感に身を委ねる。そんな中、あるてが道瑠に尋ねた。

「あ、そう言えばそろそろ知りたいんだけど、私たちってほぼ初対面だよね? どうしてあんな茶番をしてまで私のことが気になったの?」

 それはあるてがずっと気になっていたことで、

「そうだよね。話さないと」

 その質問に、道瑠は答え始めた。

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