第2上話ドキドキ♡初めての列車強盗 上

トオルは夢を見ていた。女性に優しく抱かれている夢だ。トオルは人肌の温かさに包まれて、その女性の腹辺りで蹲って寝ている。その姿はまるで胎児のようでありその女性が母親のように、そんなトオルに聖母のような微笑みを向け、頬や頭を撫でている。こんなに暖かく安堵の出来る事等今までの人生でありえなかった、もうずっとこのままでいたいと夢だと分かっていながらも夢に溶け込んだ。







窓から差し込んだ朝日の眩しさで目が覚める。トオルが寝ていたのはふかふかとした柔らかいベッドなんかではなく、冷たく固いフローリングである。それはそれは大変寝心地が悪かったなんて思い返していると、隣にはすぅすぅ、と寝息をたてて安らかに寝ている女がいた。

彼女の名前は鏡恋きょうれん。つい先日トオルは彼女から告白を受けて今では共に旅をしている、トオルにとって大切な人物だ。

トオルは嗚呼今日も綺麗だな、と鏡恋を見つめていたらあくびをたてて腕を伸ばし、瞼を擦りその瞼をゆっくりと開き眠たそうな目が出現した。その目と視線が合い鏡恋はふにゃ、っという効果音がよく似合いそうな笑顔を見せ

「おはようございます、とおるさん」

と起きたばかりで舌が回らないようで、舌足らずにそう言った。

「おっ、おはようございます! 鏡恋さん! 」

挨拶を返そうと立ち上がろうとしたら、ふと違和感に気づく。

昨日、寝た記憶がないのだ。稀にあるつい睡魔に負けてしまい寝てしまった、とは違いその心配のない環境なのになぜだと考えていると、鏡恋の白いワンピースにべっとりと大量の血液が付着している事に気づいた。そしてトオルのボロ服と化したスリーブレスにも血液が同様に付着していた。見たところ鏡恋に付着している血液は返り血であると推察した。

「……鏡恋さん、昨日刺しましたね」

「ええ、刺しましたよ。ちゃんと貴方を出血死させました」

夢で見た女性のように優しく微笑みながらとんでもない発言をする彼女。

この時点でトオルと鏡恋の関係が普通の恋人関係ではないと理解出来るだろう。実際普通の恋人ではないのだ、先述した通り彼女に告白され旅に同行しているのだが、その前にトオルは交通事故に遭い生死を彷徨っていたが彼女から臓器移植等された後、生死を彷徨っていたのが嘘のように五体満足の健康体となっていたのだ。その後彼女に告白された際に包丁で刺さされてしまった。その時も確かに死んでしまった。嘘や夢ではなく、包丁の冷たさも、血の温かさも、あの自分を見つめる綺麗な瞳も、全て覚えている。まるで昨日のようだ。確かに死んだはずなのにトオルは息を吹き返し彼女と旅をしている。鏡恋曰く、

「私には変な血が流れているんですよ。貴方の生まれた国の言葉で分かりやすく言えば、モンスターの血が流れているんです。お父様がモンスター、お母様が人間なんです」

と言うことらしい。

その事についてお父様に言ったら怒られるので言わないで下さいね、と釘を刺された。

聞いた時はファンタジーじゃあるまいしにわかに信じられなかった。嘘つきであるか、頭が少しおかしいのかと最初は考えたが、自分は生きてるし、彼女がそんな嘘をつかないと思い、彼女の話を信じる。

それにトオルは惚れた女が人間だろうと例えモンスターだろうと気にしないが、問題は別にある、その問題とは鏡恋は自分を殺しにくる事だ。しかも毎日だ、その殺害方法は決まって白い刀身と黒い柄の、トオル・ミラーと名入れされた洋包丁で刺して出血死させるというものだ。

最初は訳が分からずに理由を尋ねると、

「だって今日のトオルさんはもう終わりだから、明日のトオルさんと早く会いたいからですし、私だけのものになって貰いたいのです」

と意味不明な回答をしてきたのを思い出す。

鏡恋はトオルを殺害した後に一緒に眠る事が好きだと聞かされた際は、以前の自分と変わらないぐらいどうかしてる奴かと思ったがそれでも好きなのは変わらなかった。



「……まあいっか」

「そうですよ、1度死ぬぐらいですからね」

「普通は1度でもあったらいけないんですよ」

「あらまあ、脆いんですねえ人間って」

ふふと笑う鏡恋にトオルはやっぱりこの人はモンスター側だなと畏怖の念を抱きつつ、そんなところも好きだと更に惚れ直していた。

2人共々ゆっくりと立ち上がり、服を叩き埃を落として、

「これからどうします? 」

と訊いてみた。鏡恋は数少ない所有物の1つである片手で持てる大きさの折り畳み鏡で前髪を整えながら、

「食べる物でも見つけましょうか」

と答えた。

今トオル達が居る場所は建物ではなく、レイクブルー号というユーラシア大陸を横断する大陸横断列車である。地面からそれなりに離れていて上から見た景色が綺麗だと評判だし、がっしりとした大きさの青を基調とした車両は、特に子供に人気な車両で、幼い頃1度でも乗ってみたいと夢に見てた、そんな列車なのだ。

まあ正規の方法で乗車した訳ではない為誇れないのだが。かと言うのも北アメリカからアジアに渡るまでは、少量ながら旅行費があったもののその旅行費が底を尽き、これからどうするかと話し合っていたら、滞在していた駅にこのレイクブルー号が到着したと聞き、トオルが彼女に興奮混じりでレイクブルー号について解説をしていると、

「なら乗りましょうか」

と言い出したのだ。だが賃金が底を尽きて1文無しだから乗れるはずないとトオルが答えると、

「普通に乗車するならそうですよね、ですけど無賃乗車ならお金なんて必要ないですよ」

鏡恋の口から出るはずではないと思っていた、無賃乗車を提案するという言葉が出てきて唖然とした。が、トオルも幼い頃からの夢であった列車に乗りたくて乗りたくてたまらなかった為、欲望に負け鏡恋の提案に乗り、出発する前に無人の貨物列車に入り込んだ。

それだけならば良かったのだが、入り込んだ直後からの記憶が途切れている為、その後刺されて殺されたらしい。


貨物列車には食品から、生活必需品まで列車での生活に欠かせない品物が所狭しと置かれていた。そばにあった麻袋を鏡恋がいつの間にか持っていた和包丁で切り裂く。するとこれでもかと敷き詰められていた林檎が、ゴロゴロと転がりながら床に零れ落ちた。その林檎を6つ程拾い集め、その内3つを鏡恋へと手渡す。

トオルは林檎の艶めいた赤い皮に歯を立て齧る。口内に林檎特有の甘酸っぱい果汁が広がっていく。シャリシャリ、シャリシャリと食べ進め、芯を除いた箇所を全てを食べ終えた後、鏡恋がどのようにして林檎を食しているかが気になり彼女に視線を向ける。

綺麗に皮を剥いてから切り分けて食べているかもしれない、なんて頭で想像をしている。

だが現実は違った、皮を剥いているようだが、上手とは言えず無駄に身ごと皮を持っていき不格好に切られた林檎を小さな口の中に運ぶ。嬉しそうに口角が上がっていく様はこちらも同じような顔になってしまう。

切り終え、切り裂いた麻袋の布で刃を拭き、所有物の1つである折り畳み鏡を取り出しそこにさっきまで使っていた和包丁を向けた。だが鏡は割れることもせず、まるで鏡が液体になったかのようにただただ抵抗なく和包丁を受け入れていき、ずんずんと手を折り畳み鏡に完全に入り込む程手を突っ込んで和包丁は見えなくなった。収納した後折り畳み鏡から手を抜き出した鏡恋に言葉も出せない程驚いてるトオルに鏡恋は緩やかに笑い

「『自分や物を鏡の中に出入りさせる事が出来る』、これが私の持つ能力なんですよトオルさん。最初にあった時にあなた達を撒く時にもこの能力を活用したんですよ」

「あっ……あの時の…、すぐ姿消したからどうやったんだと思ったらそういう事か…」

「ええ、私以外の生物は基本入れないのですが例外として死んだ生物なら入れる事が出来るのです。これを利用して殺した後は一緒に鏡の中で眠る事も出来るんですよ」

そう楽しそうに語る鏡恋にトオルは冷や汗を流しぎこちない笑顔を見せ苦笑いをしていた。




「ところで鏡恋さん、今から何をするつもりなんです?もし見回りとか車掌とかに見つかったら無賃乗車がバレちまうし、金もないし食べもんだってこっから盗み続けてりゃバレる可能性があるし」

そうトオルが問いかけるとトオルの両手を優しく包み込むように握りしめ、屈託のない笑み、天使のような微笑みを浮かべこう言った。

「なら列車強盗をすれば見回りも車掌も脅せれるかもしれないですしお金も食料も得られて一石二鳥ですよ」















レイクブルー号は昔ながらの木製の内装に、前に2つ後ろに2つの席が備え付けられており、席には座り続けやすいように柔らかい青いクッションが設置されている。そんなレイクブルー号は少しレトロな雰囲気が人気を博し常に乗客がいるのだが、最端の客室車両にはある2人を除いて乗客が居なかった。

1人は窓際の席に座り窓から注がれている光を浴び窓から見える風景を頭を空っぽにして何も考えずに見続け、列車の揺れに身を任せている少年だ。だが一見してみたらそれはそれは少女のように可愛らしい容姿をした少年である。少し眠たげな橙色の眼、青い髪は桃色の髪留めで所謂ツインテールにし、服装はピッシリ糊がよく効いた白シャツに黒いネクタイ、子供らしい膝小僧がよく見える程短いズボン、白い靴下に黒く光るよく磨かれた靴。圧倒的に少年のサイズには足りないであろう白衣を肩に掛けている姿はまるで、裕福な家の子供が医者や科学者の真似事をしているかのようだ。そんな彼の名前はそう・スマート・宮島みやじまといい日本人とフランス系アメリカ人の血を引いているクォーターであり、弱冠13歳でとある名門大学で飛び級入学どころか、そこで准教授として教鞭を執る程の妙妙たる頭脳を有している。


──が教鞭を執っていたのも数日前までの事であり現在はこうやってレイクブルー号から外の景色を眺め列車に身を任す事しか出来なかった。



「創さん、リンゴ剥けましたよ」

と創の向かい側の席から爪楊枝が1つ刺さった形良く切られている皮の剥かれた林檎が5、6個程入っている容器を差し出された。容器を受け取り爪楊枝が刺さっている林檎を選び口に運ぶ、果実らしい瑞々しさと林檎の甘酸っぱい果汁が口の中に広がり創の表情もどこか嬉しそうである。

「ん…美味しい」

向かいの席にいる林檎を剥いた相手は、創の言葉を聞いて嬉しそうに笑い、綺麗に剥いた林檎の皮を小さめのサイズのポリ袋に入れている。

その相手は眼が上が桃色、下が青色と色が二層に分かれ、桃色の髪を橙色のシュシュで2つ結びにした体つきが非常に良い桃木ももきかなめという名前のボディーガードの女であった。上は黄色い襟とスカーフにノースリーブで臍が見える程短い丈の紺色の水兵服、下ダメージが入っているホットパンツにところどころ破れた黒タイツといった服装。胸も大きめであり年頃の少年にとっては刺激が強すぎるものであった。


「それにしてもヒマですね〜窓からの景色は海しか見えませんし目的の場所まではもっと先ですし」

「そうだな」

林檎を全て食べおいた後桃木に容器を返し相槌を打つ創であったが、暫くは沈黙が続きお互い気まずい空気が立ち込めたが気を決した桃木が

「あの名門モズドログ大学で准教授の座も得ていたのに他の教授達に蹴落とされて、失脚させられて、左遷されるなんて可哀想ですね」

とずっと話せずにいた話をした。この事は創にとって辛いのではないか、この事に触れたらいけないのではないか、と考え続け言うのを堪えていたが流石にもう話すネタが無くなってあんな空気になるのならもう厄ネタであろうと使ってやる。そう意気込んで話し始めたのに話した後は創の顔を直視出来ず、 窓の方に顔を向けている。今、彼は悲しんでるのであろうか、或いは憤怒しているのであろうか、考えるたび桃木の胃が少し痛くなる。こんなに深く考えるのであれば話さなければ良かった…、など1人反省していると、創は桃木の予想とは違いフッ、鼻で笑うと

「蹴落とされた事も、失脚させられた事も、 左遷の事も別に気にしてないよ。寧ろアイツらの方が可哀想さ、だって仮にも天才って事を除いたらただの子供にあんなにムキになっちゃってあんな嫌がらせやこんな嫌がらせした挙句わざと僕を失脚させる行動した奴らなんて子供以下じゃん。自分で証明してて面白いったらありゃしないよ」

本当に面白いのか分からないが、怒っても悲しんでもいない創にホッ、と桃木は一息をついた。



「ほんと暇だよね〜客室乗務員が全く来ないから食事も来ないから事前に買っておいた林檎しか食べてないし、もちろん新聞なんかも来てないからそういう暇つぶしも出来ないし」

「こちらに全く乗務員さんが来ないのはもしかして……列車強盗がこの列車に乗り込んでて皆さん人質に取られてるからいない…とか!」

桃木が冗談交じりに言うと創はプッ、と笑いをこぼし

「ないない、だってここ有名なレイクブルー号だし、前の駅も今通ってるとこも治安が悪くないどころか良くて厳しい場所だよ?それなのに列車強盗しようとするなんて馬鹿がする事だよ」

「ですよね〜」

2人っきりの車両で他の客室車両がどうなっているかと話し合い談笑をする桃木と創。



だが次の瞬間この車両に2人増える事となった。












─────────ドンッ!!!!!!!!!!


勢いよく最端の客室車両と貨物列車を繋ぐ道のドアが開く音がした。その音に2人共々驚きドアの方に視線を向けると、林檎の入ってたであろう林檎の模様が施されている麻袋を逆さまに被った2人組がこの車両に侵入してきていた。1人はどちらもダメージがかなり入っている黒のスリーブレスとデニムパンツを着用した恐らく男性であり、もう1人は真っ白なスリーブレスのワンピースを着用し麻袋の下から長い黒髪が出ているこちらは恐らく女性であろう人物だ。2人に共通してる事は服に血痕が付着してる事だ、男はまだらまだらに血が付着し女の方は一点にべっとりと血が付着している。この客室車両は客室としてた最端で後方には貨物列車しかない為この列車に乗っていた客の血ではないと推測出来るが得体の知れない服に血痕を付着させた男女が突然侵入して来たこの状況は全く理解出来ていない。



「──…え、何……あれ?」

「列車強盗でしょうか〜?」

創と桃木は麻袋を被った男女に気づかれぬようか細い声で話し合っていたが、周りを見渡していた男の方に見つかってしまい男はズンズン、ズンズン、と威圧感を醸し出しながらこちらへとやってきた。

何をする気だ…?そう不安になっていると男は耳を劈くような大声でこう言った


「食糧!金品!服!とりあえずなるべく売れそうなのを黙って出せ!!!さもないと殺すぞ!!!」

麻袋を被った男は折りたたみナイフを見せつけまるで「言う事聞かなきゃ本気で殺すぞ」と言わんばかりの鬼迫を見せつけている。そんな事をしている男と、 対照的に入ってきた扉の傍を1歩も動かずに服に付着している血痕とのギャップが生まれそうな程優雅にお淑やかに待っている女を見て2人は目を丸くしていた。まさかさっきまで話していた妄想が本当になるなんて、と信じられないように互いに視線を送ったりキョロキョロしている。そんな2人の態度が頭にキたのか創が座っている座席目掛け、折りたたみナイフを突き刺した。刺された場所は元々割れていたのもあったが刺された事により更に割れが広がり創は内心脅えていた。

「…オレもさあ、ここ好きだからあんまここの物壊したくないんだよ。だからさっさと金になりそうな物寄越せよ」

座席から折りたたみナイフを抜き創の目の前で見せびらかし脅している。

(ここは素直に物を渡した方が良さそう…)そう考えたのが早いかいなや創に向けアイコンタクトをとろうとする桃木であったが、なにやら創の様子がおかしい。ああ、これはもしや……と悪い予感がしたがその予想が的中する事となった。



「─────だっ、だ〜〜〜れがお前らみたいなチンピラ如きの為にそんな事しなきゃならないんだよ!!!!」

創さんがやってしまった、桃木は顔を顰めた。創は天才だ、だがそれ故に人一倍プライドが高く基本相手が命令した事はやりたがらないのだ。だが普段はそれを抑えているのだが激しく動揺している場合、自分に危機が迫っている時程それをやってしまうのだ。だからある意味蹴落とされ失脚したのも他の教授達の所為が半分なら後の残りは本人の気質の所為だと薄々桃木は感じていたが、恐らく正しいだろうと確信した。

創の反抗的な発言に女の方は上品におほほほ、と笑っているのに対して男の方は無言なのだが血管が切れたかのような音が聞こえてきた為恐らく憤ってるのであろう。男は創を乱雑に持ち上げ首筋に折りたたみナイフを当てた。

「おい女ぁ……!!!さっさと金になりそうなの寄越しな、じゃねえとコイツ殺すぞ!!!」

男は怒号で捲し立て、折りたたみナイフからの反射によって映し出された創の顔は青ざめ半泣き状態となっている。男は本気らしくどんどん創の首と、折りたたみナイフの距離が近しくなっていく。もうすぐで創の首の皮に差し掛かるであろう数秒前で桃木は行動に移した、別に金になりそうな物を急いで渡した訳ではない、創に当たらないようにかつ男に大ダメージを与えるよう男の横腹に重い一撃を与えた。男はよろめき他の客室車両への道に繋がる方の扉に創を持ち上げながら倒れる。男が倒れているうちに創を助けなれば、そう考え創の元に駆け寄ろうとしたその時、先程まで貨物列車との道がある側の扉に居たであろう女が音もなく急接近し、いつの間にか携えていた刃こぼれした刺身包丁で桃木目掛けて襲ってきた。なんとか重症を避けようと掌で刺身包丁を受け止める、だが見た目に反して力がかなり強く刃は掌を貫通し上から更に体重を乗せられた刺身包丁はどんどん掌へと圧力をかけて行きあともう少しで桃木の目を刺してしまうのではと思える程の距離となってきた。

「桃゙木゙!!!!」

泣きっ面になり桃木の方へと手を伸ばしている創を見るとハッキリ言ってこうなった原因は創の所為だがボディーガードなのにこんな状況にまでなってしまった事への申し訳なさが立ってしまった。そう思ってるうちに創を持ち運んでいた男の方はある程度回復したのか再度創を運びやすい持ち方に変え、 他の客室車両へと続く道の扉に入って言ってしまった。桃木も後を追おうとしたが女の方に邪魔され桃木は麻袋女と1対1で戦う事になった。














一方別の客室車両行きの道の扉から出てきた2人創の方は運ばれてる最中だが必死に暴れて抜け出そうともう1人の方、トオルはさっき女に殴られた横腹を撫でながら創の方を横目で見つめている。

「離せ〜〜離せよクソ野郎〜〜〜!!!!」

「うっせえよクソガキ!!お前を今から人質として使って他の客どもからも食糧、金品、服とか片っ端から奪う目的だから被害者ぶってろよ」

創も創でダメージを与えようとするも力が弱い為全く入っていないようでトオルは邪魔だとは思いつつ鏡恋さんが提案した作戦を自分で絶対成功しなければならないと意気込み最端車両から隣の車両へと行くための道の扉を開けようとしたが、トオルがドアノブを触る前にガチャりと誰かが向こう側から扉を開いて来た。客室車両側から出てきたのは皆黒い目出し帽を被っていてそれ以外は統一感のない集団だった。



「お前らの仲間かよぉ………」

目の下に黒々しい泣き跡を浮かび上がらせ、ひっぐひっぐと泣きべそをかく創に対してトオルは首を傾げ

「いや仲間は1人だけだから……誰だお前ら」

トオルがそう問いかけるやいなや目出し帽の集団はトオルと創に襲いかかってきた。









一方女2人はどうなっていたかというと現在進行形で戦闘を行っていた。鏡恋の素早くトリッキーな動き華麗な刃物捌き、桃木も負けずに風のような速さにそこから繰り出される一撃一撃が重い拳それらを繰り出し避け、隙が出来たら反撃し繰り出し避けを続けてばかりである。お互い致命傷と呼べる程の傷は無いものの細々とした傷は絶えず作り作られ続ける終わりの見えない戦いとなっていた。鏡恋からしたら恋人であるトオルが自分がこうやってこの女性の足止めをしている間に列車強盗を円滑に進めてくれさえすればよいと考えている為この状況は彼女にとっては良い状況だ、一方桃木にとってはとても悪い状況であった。このままだと創さんの身に何が起きてしまうか最低でも無事に返して貰う事はないだろうと簡単に推測できる。別に桃木にも何か秘策が無いという訳でもないがそんな事をしたら創が、このレイクブルー号に乗っている乗客達にも被害が及ぶ為使えずにいた。

そんな緊迫状態が続くなか、その状態を打ち破るかのように黒の目出し帽を被った集団が先程創とトオルが向かったであろう方向から入ってきたのだ。これには桃木も鏡恋も大変驚いた。桃木は麻袋を被っている鏡恋に対して、「あなたの仲間ですか?」とアイコンタクトをとると鏡恋はすぐ否定し首を横に振った。お互い何も分からず呆れていると目出し帽の集団の1人がこう言った。

「この麻袋被ってるって事はさっき捕まえた男と関わりがあるのか」

その言葉を聞いた瞬間鏡恋は、先程まで戦っていた桃木にも目もくれずにその言葉を発した相手に一直線に向かって行き例の刺身包丁を致命傷にならない範囲で抑えられそうな場所を無数突き刺した。その様子を見た他の目出し帽の奴らは怯え来た道を戻ったり、貨物列車の方へ逃げたりと一体感が無くなったようで散り散りになっていた。桃木はその光景に先程まで戦っていた相手なのに関心してしまっていた。

「いいですか?要らない事は訊きません。あなた達の目的は?何故トオルさんまで連れされてたのですか?」

負傷させた目出し帽の人物へ馬乗りになり首襟を締め上げて、さっきまでの優雅でお淑やかな雰囲気とは真逆のおどろおどろしい雰囲気となった鏡恋が淡々と問い詰めていた。






「まず私達以外にも列車強盗を企ててた相手が いた事、そして私達とは逆ルートから客室列車の多い方から行い、最後にこの貨物列車に近いところを狙おうとしたらトオルさんと創さん?と鉢合わせてしまってまだ人がいたという理由から今拘束してるって事は分かりましたね」

桃木は麻袋を外した女性、鏡恋が引き出してそしてまとめてくれた情報を聞いて一つ一つに相槌を打ち納得をする。アジア系の顔に炭のように真っ黒な眼それは可憐でお淑やかさもありつつどこかおどろおどろしい印象も持たせさっき感じた雰囲気は間違えではなかったなと思い返していた。

さっきまで情報を聞き出していた相手は一応命は取り留めたもののもう少しで危なかったので2人がかりで大急処置を施し今は大きめなオブジェクトのようになった。




創さんを助けに行かなくては、 そう思い立ち上がろうとする桃木を鏡恋が掴み引き止めた。

「?」

「あの……かなめさん?先程まで戦い…殺し合っててなんですけど、協力しませんか?」

「協力」

「そう、私はトオルさんを助けたい、あなたは創さんを助けたい。そしてその2人は同じ場所にいる…そう考えたら利害が一致しませんか?」

「そうですけど…創さんが巻き込まれたのは鏡恋さんとトオルさんのせいじゃ……」

そう言うと鏡恋は仕方ないと言いたげに深いため息を吐き、膝をパンパンと叩き埃を落とし立ち上がり折り畳み鏡を持ち悲しそうにこう言った、

「仕方ないですね…私なら列車強盗さんも助けたいお二人、なんなら皆さん死なずに助けられる方法を思いついたのですが残念です」

皆を死なせずに助けられる方法、その言葉を聞いて列車強盗達のいる場所へと行こうとする鏡恋をワンピースを掴み引き止める

「どうしたんです?何がしたいのか言わないと分かりませんよ」

「うう……酷い人ですね…皆死なせずに助けられる方法があるならやりますよ……」

桃木のその言葉を聞き鏡恋は微笑んだ、だがその微笑みは天使のようでもなく聖母のようでもなく寧ろ真逆の存在、悪魔の微笑みのようであったが桃木はその表情を確認しなかった。














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