第2.5話 力を合わせました

 後ろから複数の不細工が追ってくる。

 それを横目に、恩人の女性が顔をしかめる。


「まずいな。この先には町がある。このまま引き連れる訳にはっ。」


にゃっ!?


 ええっ!?

 ど、どうするのさっ!


 逃げれる道は一ヵ所だけだ。

 少しでも逸れれば、後ろの不細工とぶつかり合う事になるだろう。

 つまり、このまま不細工を引き連れたまま町へと進むしかないのだ。


「こうなったら…どうしようか。」


にゃ!


 知らないよ!


「いっその事、町に押し付けるか…。」


にゃにゃっ!?


 ちょっ!?

 とんでもない事口走ったんだけど!?


「はっ! い、いや、今のなしっ! ちょっと混乱してしまっただけだ! うん!」


にゃー…。


 ちょっとどころじゃないんだけど…。


「ぐうっ。そ、そんな眼で見るなっ。えーと、えーとだな。」


 こうしている間にも、町へと少しづつ近づいていく。

 その事に焦りつつも、必死に打開策を考える。

 すると、何かを閃いたかのように恩人の女性が眼を見開く。


「はっ。そ、そう言えば。」


にゃっ?


 何かあるのっ?


「ふっ、安心しろ。こんな事もあろうかとっ。」


 そう言いながら、腰のポーチへと手を伸ばす恩人の女性。

 そして、その中から小さな玉のような物を取り出し俺へと見せる。 


「煙玉だ。これを奴らに投げればっ。」


にゃっ!


 おおっ!


「身を隠せっ…。」


 恩人の女性が自慢気に玉を掴み直した時だった。

 その拍子に、煙玉がこぼれて地面へと落っこちた。

 無慈悲にも煙は出てこない。


「…すまんっ! 落とした!」


にゃーーーーーーっ!


 あほーーーーーーっ!


 あまりにも残念な出来事に、嘆くような叫び声を上げる俺。

 そんな声をあげつつも、俺達は不細工から逃げ続ける。

 しかし、いつまでもこうしている訳にはいかない。


「仕方ないっ。こうなったら最後の手段だっ。」


にゃ?


 最後の手段?

 何それっ。


「最後の手段っ。それはっ!」


 ブレーキをかけながら振り向く恩人の女性。

 そして、迫り来る不細工へと剣を構える。


「全部まとめてぶっ倒す!」


にゃっ!?


 ちょっ!?


 恩人の女性に合わせて、俺もまたブレーキをかけながら振り向く。

 そんな俺達に驚きながらも、不細工達が向かってくる。

 それに対して、恩人の女性が剣を振るうが…。


「のおっ!?」


 お互いが接触する前に、残念にも大きく剣がからぶってしまう。

 どうやら、距離感を見誤ってしまったようだ。

 そんな恩人の女性へと不細工が迫る。


ふぎーーーーっ!


 隙だらけと思ったのだろう。

 にやけながらも手に持った棍棒を振り下ろす一匹の不細工。

 しかし、そんな不細工の顔を俺が蹴り飛ばす。


にゃ!


 させるかっ!


 そのまま蹴り飛ばした不細工が仲間へと突っ込んでいく。

 どうやら、不細工達の動きは止められたようだ。

 それを見送った俺は、後ろの恩人の女性へと振り向く。


にゃっ!


 このポンコツめ!

 何が全部倒すだよっ!


「す、すまんっ、助かった。」


 倒すにも、剣を当てないといけない。

 しかし、残念ながら当てる事など叶わない。

 これでは倒すどころではない。


「ぐぬぬぬぬ。おのれ。私の剣から逃げやがって。」


 あなたが勝手にすかしただけですよ。


「せめて相手の動きが止まったら狙えるというのに。」


 そうしてくれたら苦労なんてしてないよ…。


 相手は生きているのだ。

 当然、立ち止まったままでいる筈もない。

 そうして、立ち上がろうとする不細工を見ていた時だった。


「動きを…動きを止める?」


 その光景に先程の光景を思い出す恩人の女性。

 不細工達は、蹴り飛ばされて動きを止めていた。

 それに気づいた彼女は、俺の横へと並び立つ。


「なぁ。さっきのまとめて蹴り飛ばすやつ、出来るか?」


にゃ? にゃあ。


 え? 出来ると思うけど。


 あの攻撃の感覚は掴んでいる。

 やろうと思えば出来る筈だ。

 頷く俺を見た彼女は、満足そうに頷き返す。


「じゃあ頼む。なるべく集まっているところでな。」


にゃ、にゃっ。


 わ、分かったよ。

 こうなったらやけだ!


 覚悟を決めて構える俺達。

 向こうもまた動き出す。

 それを向かえるように俺達も動く。


 先手は貰うよ!


 迫る不細工へと突っ込む俺。

 それと同時に、不細工達に浮かぶ点へと飛び込む。


にゃ!


 食らえ!


 まずは先頭にいる不細工を蹴り飛ばす。

 そして、そいつを足場に次の相手へと飛び込む。


にゃにゃっ!


 コツは完全に掴んだ!

 そんじゃもういっちょ!


 更に、そいつも蹴って次の不細工へ。

 それを繰り返しながら、群れをまとめて蹴っ飛ばす。

 それを受けた不細工達が一気に仰け反る。

 

「跳べ!」


うにゃ!


 っ…おらっ!


 後ろからの声に合わせた俺は、最後に蹴った奴を足場に高く跳ぶ。

 それと同時に、入れ替わるように前に出る彼女。

 蹴った事により空いた空間へと飛び込み剣を振るう。


「これならぁっ!」


 そう叫びながら振るった剣は、不細工の群れをなぎ払う。

 あれだけすかしていた剣が遂に当たったのだ。

 それを見た俺達は、歓喜の声を上げる。


「やった!」


 やった!


 吹き飛ぶ不細工達。

 その中心で、彼女が剣を構え直す。

 そして、その横に俺が着地する。


「私が合わせる。先導は君に任せる!」


にゃ!


 あいよ!


 状況の好転に気分が乗った俺達は、次の不細工へと向かう。

 そうして、先程のように蹴りを与えていく。

 そうして作った隙に彼女が斬り飛ばす。


にゃっ!


 次っ!


「次っ!」


 そうして斬り飛ばすのを確認すると、次の不細工へと向かう。

 蹴っては斬る、蹴って斬るの繰り返し。

 決して動きは止めない。


 この世界がどんな世界なのかは分からない。


 蹴り飛ばしながらも、自分に起きている事を振り返る。

 そうしながらも、次の不細工を蹴り飛ばす。

 そうして生まれた隙を彼女が斬る。


 何でこんな動きが出来るのかも分からない。


 明らかに以前の自分が出来る限界を超えている。

 そう思いながらも、そんな力を目の前の不細工へと叩き込む。

 それに続いて彼女が斬る。


 自分がどうなっているかも分からない。


 何もかも分からない事だらけだ。

 だからといって、足を止める事は無い。


 それでも俺はっ。


 頭に浮かぶ言葉は一つ。


 絶対に生き延びてやる!


 くたばってなるものか。

 こんな奴らにやられてなるものか。

 そんな強い思いを一撃に込めて蹴り飛ばす。


にゃああああああっ!


「うおおおおおおおおっ!」


 そうしながらも、俺達は雄叫びを上げながら突っ込んでいく。

 そんな俺達を止められるものは誰もいない。

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