第3話 町に行きました

 俺達は、森の真ん中を通る道に出た。

 というか、あんな森の中で何していたんだろうか。

 真っ直ぐ道を歩いていく。


「にゃんすけは、二足歩行なんだな。珍しい。」


 言われてみればその通りだ。

 猫なのに。

 確かに、猫の動きをしているときは四足歩行のが良い。

 けど、歩くとなるとこっちのがしっくり来るのだ。

 人間の頃の癖なのか。


「そもそも、何の生き物何だ?」


 猫です。

 言っても通じないか。

 言葉が通じないのがもやもやする。

 まぁ、ご飯の事が通じたからいいか。


「言葉が通じてるようだし、不思議なやつだな。」


 そこの所もよく分からん。

 元いた場所とは違うのなら言語が違うはず。

 なのに言っていることが理解できる。

 そもそも、同じ言葉を使っているかも分からないけど。


ぐぅーーー。


 考えようにも空腹が邪魔をする。

 頭が回らない。


「あははっ。よっぽどお腹が空いていたんだな。」


 なんでそんなに楽しそうなのか。

 考えるのは空腹を満たしてからにしよう。

 えぇい、町はまだか。

 なんて言っていると、森を抜けた。

 その先には、大きな壁が立っている。


「見えてきたぞ。にゃんすけ。」


 町か。凄い厳重だ。

 いったい、何から守っているのだろう。

 恐らく、町ごと覆っているのだろう。

 まぁ、食べ物があればどうでも良いけどね。


「おっと、待ったにゃんすけ。」


 え、なんで?

 呼ばれて振り向くと女性が止まっている。

 こっちは、今すぐにでも町に行きたいのに。


「そのままだと、魔物扱いされて入れないぞ。」


 そりゃそうか。

 さっきも化け物扱いされてたからね。

 でも、それならどうすれば。


「ほら。」


 女性が首に巻いていた布を、俺にかけた。

 ふわふわだ。

 きっと上質な物だろう。

 でもなんでこれを?


「私と君との契約の証だよ。身に付けてある物を与える事で、生き物と契約が出来るんだ。それなら問題なく入れる。まぁ、偽造だけどね。」


 契約したパートナーという事なら大丈夫というわけか。

 でも、偽造なんて大丈夫なのかな。

 責任を取るのは俺じゃないからいいか。


「そのかわり、周りに迷惑をかけては駄目だ。守れるかい?」


 当然だ。

 ご飯の為なら、忠猫にでもなってやる。

 綺麗な振る舞いぐらい任せたまえ。

 どうすれば良いか分かんないけど。

 取り合えず、了解と返事をしよう。


にゃー。


 この、まごうことなき純粋な鳴き声を聞きたまえ。

 これが、躾の悪い猫の鳴き声に聞こえるかい?


「まぁ、良いだろう。じゃあ、頼んだよ?」


 もちろん。さぁ行こう。

 再び歩いて門の前へ。

 すると、門番が奥から出てきた。


「おや? 随分遅かったね。」

「えぇ、ちょっと拾い物をしてね。」

「拾い物ってそこの獣か?」


 猫です。

 背筋を伸ばして立つ。

 どうでしょうか。紛れもなく躾のなった猫です。 

 あぁ、結構辛い。


「なんか変な奴だな。」

「にゃんすけだ。契約したばかりなんだ。」

「確かに、契約の証を身に付けているな。」

「通っていいよな?」

「まぁ、そういう事なら。」


 了解を得たので町に入る。

 早速あちこちから食べ物の匂いが。

 待ちきれない。


「さっきの約束覚えてるな?」


 釘をさされてしまった。

 そわそわしたのが伝わったのかな。

 気持ちが早まるが、じっと我慢。


「それじゃあ、商店に行こうか。」


 匂いの強い方に歩いていく。

 その先にあったのは食べ物の楽園。

 涎がたれてしまう。


「にゃんすけ。何が欲しい?」


 と、言われても、何があるのか分からないんだけど。

 ワガママは言わないからお任せします。


「なんだ、私に選んで欲しいのか? まぁ、どんなのがあるか分からないもんな。じゃあ、適当に買っていくか。」


 とにかく、目についた物を買っていく。

 肉、肉、野菜、魚にフルーツ。

 女性も、自分用の味付けがされた物を買っている。


「こんな物か。さぁ、行こうか。」


 待ってましたっ。

 早速行こう。


「さてと、どこで食べようか。」


 食べ物を抱えた女性が道を歩く。

 その後をついていく。

 あそこにあるのは噴水かな?

 女性が、そこにある一人の椅子に座った。


「ここでいいよな。ほら、にゃんすけも座って。」


 女性のとなりに座る。

 あぁ、風がひんやりしてて気持ち良い。

 水で冷えた風が来ているのかな?

 良い場所かもしれない。


「ほら、ご飯だぞ。」


 女性が俺との間にご飯を置いていく。

 さて何から食べようか。

 よし、魚からだ。


 魚を取ってかぶりつく。

 もう一口。

 更に、もう一口。

 もう我慢できん。

 やけ食いだ。


 ただひたすらに食べていく。

 やばい止まらん。

 もう、行儀とか知ったものか。

 ってもうなくなった。


 あっという間に一匹の魚を食べ終えた。

 先程より、お腹が満たされているのが分かる。

 幸せだ。


ふにゃあっ。


 幸せすぎて、間抜けな声が出てしまった。

 空腹からの解放。何て素晴らしい物なんだ。


「ふふっ。ゆっくり食べなよ?」


 女性が笑っている。

 女性も、満足そうに自分の分を食べている。

 構うものか。

 今度は肉を手に取った。

 今は、お腹を満たすときだ。


 それから無言でご飯を食べていく。

 主食を食べ終え今度はフルーツ。

 女性はもう食べ終えて寛いでいる。


「はぁ、こうして人と食べるのはいつぶりだろうか。いや、人じゃないけど。」


 猫です。

 フルーツが美味しいです。

 今まで一人で食事をしていたのか。

 猫と食べるのも良いもんでしょ?


 特に返事を求めていないのか黙ってしまう。

 水に冷やされた風を堪能している。

 確かに、この風は良いものだ。

 ずっとこうしていたいものだ。


「ん? そこにいるのはクリスフィアか?」

「なっ。お兄さ、エルヴィルド様。ごきげんよう。」


 いきなり男性が声をかけてきた。

 女性が立ってお辞儀をする。


「よろしい。お前はもう、うちの者では無いからな。」

「はい。エルヴィルド様。」

「それにしてもまだこの町にいたんだな。罪悪感ですでに出たと思っていたよ。」


 要するに早く出ていけと言うことだな。

 不快な気配がして気持ちが悪い。

 って、今お兄って言った?


「旅費を稼いだのでこれから出るつもりです。」

「聞いたぞ。ハンターをしているそうだな。汚らしいハンターに汚らしい獣をつれてをつれて、落ちこぼれにはぴったりだ。」

「はい。その通りです。」


 酷い言い様だ。

 口振りからするに、元家族らしいけど愛着とかはないのか?

 自分とは関係ないのに腹が立つ。


「ではな、用事がすんだら早く町を出ていきなさい。」

「はい。」


 建前はどうした。

 女性は酷く落ち込んでいる。

 男性も言うだけ言って去っていく。

 何が何やら。

 取り合えず、フルーツの皮を剥いて男性に投げる。


 帽子の上に乗ったが気付いていない。

 これが後の、フルーツ領主誕生の瞬間だった。

 たぶん。

 まぁ、それは良いや。


「はぁ、これだからこの町に来るのは嫌だったんだ。」


 女性は椅子に座ってうなだれている。

 良い感じの空気が台無しだ。 

 最後のフルーツをパクリ。

 

「そういう訳だ。私は、この町を出なくてはならない。それで旅に出ようって思ってな。」


 居場所を無くしたって事か。

 そういえば、俺にも居場所が無い。

 これから何をすれば良いかが分からない。

 空腹でお腹を満たす事しか考えてなかったからね。

 お腹を満たした今だから分かる。

 これからどうしようか。


「なぁ、良かったらにゃんすけも来ないか?」


 一緒にか。

 居場所が無いものどうしの放浪旅。

 それも良い事かもしれない。


にゃー。


 鳴いて答える。

 通じてる?


「おぉ。一緒に来てくれるのか。」


 通じたらしい。

 結局、獣の自分一人では出来ない事が多いからね。

 一緒にいた方が色々便利かも知れない。

 移動とか。


「決まりだな。じゃあ、出発は明日。目的地は不明。一緒に頑張ろう。」


 がんばろー。

 はてさて、これからどうなるのか。

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