第3話 町に行きました
森を駆けた俺達は、森の真ん中を通る道に出た。
すると、それと同時に立ち止まり後ろを振り向く。
そこにゴブリンの姿は無い。
「何とか逃げきったか。」
にゃー。
なんとかねー。
走って疲れた俺達は、その場で息を整える。
全力で駆けたので体力も限界だ。
空腹もさっきよりも感じている。
「二足歩行なのに早いじゃないか。獣なのに。」
言われてみればだね。
猫なのに。
確かに猫の動きをしているときは四足歩行のが良い。
けど、歩くとなるとこっちのがしっくり来るのだ。
人間の頃の癖なのか。
「そもそも、何の生き物なんだ?」
にゃ。
猫です。
って、言っても通じないか。
言葉が通じないのがもやもやするよ。
「言葉が通じてるようだし、不思議なやつだな。」
にゃー。
そこの所もよく分からないんだよね。
元いた場所とは違うのなら言語が違うはずだけど。
そもそも、同じ言葉を使っているかも分からないけど。
ぐぅーーー。
考えようにも空腹が邪魔をする。
頭が回らない。
「ははっ。よっぽどお腹が空いていたんだな。」
にゃっ。
走ったからだよっ。
って、なんでそんなに楽しそうなのさ。
「そう睨むな。安心しろ。ほら、町だ。」
にゃ?
え?
フィーが指差す方を見る俺。
すると、樹の先に人工物があるのが見える。
明らかに、そこにあるのは町だろう。
おぉ、町だーっ。
美味しい食べ物あるかな。
「ここまで来れば、もう大丈夫だろう。さ、行くぞ。」
にゃー!
行こー!
未知なる食べ物に期待は膨らんでいく。
その期待に、町へと向かう足も弾んでいく。
しかし、少し前を歩く女性が立ち止まる。
「おっと、待った。えーと、獣?」
猫です。
てか、何で疑問系?
女性が悩んでいる。
獣と呼ぶのに違和感があるのだろうか。
「うん、よし、にゃんすけだ。これからお前の事をにゃんすけと呼ぶ事にした。」
にゃ!?
勝手に名前をつけられた!?
まぁ、獣扱いよりましかな?
でも、にゃんすけかー。
「さて、にゃんすけ。残念だが、そのままだと魔物扱いされて入れないんだ。」
あ、そりゃそうか。
さっきも化け物扱いされてたからね。
でも、それならどうすれば。
「ほら。」
女性が首に巻いていた布を俺にかけた。
ふわふわな質感が首を覆う。
きっと上質な物だろう。
でもなんでこれを?
「私と君との契約の証だ。身に付けてある物を与える事で、生き物と契約が出来るんだ。それなら問題なく入れる。まぁ、偽造だけどな。」
契約したパートナーという事なら大丈夫というわけか。
でも、偽造なんて大丈夫なのかな。
まぁ、責任を取るのは俺じゃないからいいか。
「そのかわり、周りに迷惑をかけては駄目だ。守れるか?」
にゃ!
任せてくれたまえ!
食事の為だもんね。
綺麗な振る舞いぐらい朝飯前だよ。
「良い返事だ。じゃあ、頼んだぞ?」
もちろん。
さぁ行こー。
再び歩いて門の前へと向かう。
すると、門番が奥から出てきた。
「お、戻ってきたか。無事だったか?」
「もちろん無事だが、何かあったのか?」
「それが、先程来た馬車からゴブリンが大量に現れたと聞いてな。心配してたんだ。」
先程のゴブリン達の事だろう。
どうやら、あの場所以外にも現れていたようだ。
それを聞いた女性は、首を横に振って俺を見る。
「問題無いよ。ちょっと拾い物をしただけでね。」
「拾い物ってそこの獣かい?」
猫です。
背筋を伸ばして立つ。
紛れもなく、躾のなった猫です。
「うん、なんか変な奴だな。」
「にゃんすけだ。契約したばかりなんだ。」
「確かに、契約の証を身に付けているな。」
「通っていいよな?」
「まぁ、そういう事なら。」
了解を得たので町に入る。
早速あちこちから食べ物の匂いが漂ってくる。
食事できる所が近くにあるのかな?
あぁ、待ちきれないよ。
「にゃんすけ、さっきの約束覚えてるな?」
釘をさされてしまった。
そわそわしたのが伝わったのかな。
気持ちが早まるが、じっと我慢。
にゃ!
「よし。それじゃあ、商店に行こうか。」
匂いの強い方に歩いていく。
その先にあったのは食べ物の楽園。
この匂いには、涎がたれてしまうのも仕方ない。
「にゃんすけ。何が欲しい?」
にゃー。
と言われても、何があるのか分からないんだけど。
ワガママは言わないからお任せします。
「なんだ、私に選んで欲しいのか? まぁ、どんなのがあるか分からないもんな。じゃあ、適当に買っていくか。」
とにかく、目についた物を買っていく。
肉、肉、野菜、魚にフルーツ。
女性自身も、自分用の味付けがされた物を買っている。
「こんな物か。さぁ、行こうか。」
待ってましたっ。
早速行こう。
「さてと、どこで食べようか。」
食べ物を抱えた女性が道を歩く。
その後をついていく。
あそこにあるのは噴水かな?
そこにある一人の椅子に女性が座る。
「ここでいいよな。ほら、にゃんすけも座って。」
そんな女性の隣に座る俺。
すると、どこからか流れてきた風が俺の頬を撫でる。
あぁ、風がひんやりしてて気持ち良い。
水で冷えた風が来ているのかな?
「ほら、ご飯だぞ。」
女性が俺との間にご飯を置いていく。
さて何から食べようか。
よし、魚からだ。
魚を取ってかぶりつく。
もう一口。
更に、もう一口。
そして、残った物を一気に口へと放り込む。
やばい、美味しい。
味付けもばっちし。
そうして、あっという間に一匹の魚を食べ終えた。
先程より、お腹が満たされているのが分かる。
ふにゃあっ。
おっと、幸せすぎて間抜けな声が出てしまった。
空腹からの解放。
何て素晴らしい物なんだ。
「ふふっ。ゆっくり食べろよ?」
女性が笑っている。
女性も、満足そうに自分の分を食べている。
それを見た俺は、今度は肉を手に取った。
ゆっくりなんて出来ませんとも。
お腹と舌が許してくれないもので。
それから無言でご飯を食べていく。
主食を食べ終え今度はフルーツを手に取る。
「はぁ、こうして人と食べるのはいつぶりだろうか。いや、人じゃないけど。」
猫です。
フルーツが美味しいです。
今まで一人で食事をしていたのかな。
でも、猫と食べるのも良いもんでしょ?
特に返事を求めていないのか黙ってしまう。
そんな女性は、食事をしながら水に冷やされた風を堪能している。
すると、俺達の後ろで足音が止まる。
「ん? そこにいるのはクリスフィアか?」
「なっ。お兄さ、エルヴィルド様。ごきげんよう。」
いきなり男性が声をかけてきた。
女性が立ってお辞儀をする。
「よろしい。お前はもう、うちの者では無いからな。」
「はい。エルヴィルド様。」
「それにしてもまだこの町にいたんだな。罪悪感ですでに出たと思っていたよ。」
要するに早く出ていけと言うことだな。
不快な気配がして気持ちが悪い。
って、今お兄って言った?
「旅費を稼いだのでこれから出るつもりです。」
「聞いたぞ。ハンターをしているそうだな。汚らしいハンターに汚らしい獣をつれてをつれて、落ちこぼれにはぴったりだ。」
「はい。その通りです。」
酷い言い様だ。
口振りからするに、元家族らしいけど愛着とかはないのか?
自分とは関係ないのに腹が立つ。
「ではな、用事がすんだら早く町を出ていきなさい。」
「はい。」
建前はどうしたのさ。
妹なんだよね?
女性は酷く落ち込んでいる。
男性も言うだけ言って去っていく。
何が何やらで理解が追い付かない。
取り合えず、フルーツの皮を剥いて男性に投げる。
帽子の上に乗ったが気付いていない。
これが後の、フルーツ領主誕生の瞬間だった。
たぶん。
「はぁ、これだからこの町に来るのは嫌だったんだ。」
女性は椅子に座ってうなだれている。
良い感じの空気が台無しだ。
最後のフルーツをパクリ。
「そういう訳だ。私は、この町を出なくてはならない。それで旅に出ようって思ってな。」
居場所を無くしたって事かな。
そういえば、俺にも居場所が無い。
これから何をすれば良いかが分からない。
空腹でお腹を満たす事しか考えてなかったからね。
お腹を満たした今だから分かる。
さて、これからどうしようか。
「なぁ、良かったらにゃんすけも来ないか?」
一緒に?
確かに、居場所が無いものどうしだもんね。
それも良い事かもしれない。
にゃー。
良いよ。
って、通じてる?
「おぉ。一緒に来てくれるのか。」
通じたらしい。
結局、獣の自分一人では出来ない事が多いからね。
一緒にいた方が色々便利かも知れないもんね。
移動とか。
「決まりだな。じゃあ、出発は明日。目的地は不明。一緒に頑張ろう。」
がんばろー。
はてさて、これからどうなるのか。
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