第4話 旅に出ました

 翌日、ベッドの上で目を覚ました。

 夢・・・、じゃないな。

 今までのは夢でした、何て思ってたりしたんだけど。

 まぁ、二度目の人生をくれただけでも感謝だよね。


 目をこすって起き上が、あがー、れない。

 全く動かない。

 そういえば、後ろが布の感触じゃない。


「すぴーー。」


 昨日の女性にがっちりホールドされている。

 何故こうなったっけか。

 昨日の事を思い出す。


 そういえば、一晩宿で休んだんだっけか。

 仕方なく、同じベッドで寝る事になったのは覚えている。

 それからえーと、そうだ、ベッドの隅で丸まって寝たはず。

 それが何故こんな事になっているのか。


 たぶん、俺を引っ張って来たんだと思う。

 それでこの有り様か。

 よく起きなかったな俺。

 そんな事よりこの体勢色々やばい。

 オスですから。

 さっきからドキドキがやばい。


 もう少し女性という自覚を持って欲しいものだ。

 女性。たしか、クリスフィアって呼ばれていたっけ。

 あの会話だと、どこかのお偉いさんってだったって感じだよね。

 いや、元か。

 何があったか気になるけれど聞けないしな。

 猫だから。


「ん、朝か。」


 当人起床。

 早く離して欲しいんだけど。

 とりあえず、もがいて伝えてみるか。


「にゃんすけ、起きてたのか。」


 離してくれたのでそこから離れる。

 当の本人は、優雅に背伸びをしている。

 さて、何があったか教えてもらおうか。


「なんか、不服そうな顔をしているな。言っておくが、君を助ける為にやったんだぞ? 昨日の夜に起きたら、君がうつ伏せで苦しそうにしてたから助けたんだ。」


 まさかの自分のせいだったのか。

 もしかして、人間の頃の癖で体が伸びたのか。

 丸まって寝るのは、まだ早かったという事だな。

 疑って申し訳ない。


「さてと、ご飯でも食べに行くか。」


 ご飯っ。

 よし、行こう。

 俺のお腹が待っている。 


「現金な奴だな。」


 何とでも言うがいい。

 昨日の事で、ご飯のありがたみに気づいたのだ。

 これからは、心を込めて食べますとも。


 ベッドから飛び降りた俺に、クリスフィアがついてくる。

 扉を開けて外に出る。

 階段を降りていくと、良い匂いが漂ってくる。

 それだけで幸せだ。


「慌てると落ちるぞ?」


 心配ご無用。

 猫ですから。

 落ちる心配は無い。

 むしろ心配するのはそちらでは?


「ふぎゃあっ。」


 やっぱり。

 片足を滑らして尻餅をついている。

 痛そう。


「・・・。さて、朝ご飯は何かなっと。」


 あっ、ごまかした。

 まぁ、正直頭の中はご飯で一杯だ。

 気にしてる余裕がない。


 席に座って注文を取る。

 もちろんお任せ。

 何があるかは分からないので。


「あら、可愛らしいお客様ね。」

「契約獣です。昨日、契約しました。」

「あら、そうなの? ゆっくりしていってね。」


 分かる人には分かるもんだ。

 魅力してしまって申し訳ない。

 さて、ご飯。


「お待ちどうさま。獣ちゃんには味を薄めにしておいたわ。」

「ありがとうございます。」


 目の前には、肉と野菜を挟んだパン。 

 思いっきりかぶりつく。

 あぁ、旨い。

 本当は、胡椒がしっかりかかったのを食べたかったけどね。


「この町での最後の食事か。」


 一口一口、大事に食べている。

 この町に戻って来る気は無いようだ。

 それだけの事があったのだろう。


「ふぅ。」


 食べ終えて、目を閉じている。

 俺も食べ終える。

 いい食事だった。


「行こうか。」


 席を立って、離れる。

 会計をして宿を出る。


「にゃんすけ。これから、馬車に乗る。揺れとかは平気か?」


 言われても分からん。

 猫って別に揺れに強いって訳じゃないよね?

 人間だった頃は大丈夫だっだけど。

 なるようにしかならないと思う。


「まぁいいか。それじゃあ、行こう。」


 宿屋を離れて馬車乗り場へ。

 沢山の馬車が並んでいる。

 それぞれ行き先が違うのだろう。

 って、行き先が分からない俺達はどうすれば。

 いや、さすがに決めているよね?


「うーん。悩むなぁ。」


 切符売り場の前で考えている。

 決まってなかったのか。

 行き当たりばったりがすぎる。

 別に急ぐ旅では無いんだけどね。


「よし、決めた。」


 どうやら決まったらしい。

 早速馬車に行こう。あれ?

 足音が止まった。

 振り返ると町を見ている。


「あぁ、すまない。つい離れるとなるとな。」


 どんなに辛い町でも、生まれ故郷。

 今まで過ごしてきた町だ。

 愛着ぐらい湧くってものだ。


「今までお世話になりました。」


 町に向かって頭を下げて別れを告げる。

 満足がいったのか、馬車に向かった。

 乗り込んで座る。


「ほら、水だ。念のため持っておいて。一気に飲むなよ?」


 水が入ったボトルを持たされる。

 ありがたい。

 これで、途中で喉が乾いても問題ないね。


 出発までの、しばしの休息。

 椅子にもたれて体の力を抜く。

 まだ朝だ。

 眠気はまだ残っている。


「実は私、領主の娘だったんだ。」


 眠らないように話を始めた。

 そうか、どこかの貴族かと思ったらまさかの領主。

 でも、追い出されたんだよね。


「うちの家系は、代々芸術に秀でた家庭なんだ。そのお陰で、王様に気に入られてこの町を貰ったんだ。」


 なるほど。王様御用達ね。

 そりゃあ厳しい訳だな。


「兄だった人も、姉だった人も、絵や音楽の才能を発揮していちやくスターさ。すごいでしょ? でも、私にはなーんにもなかった。全然のダメダメ。そのせいで、家を追い出されたんだ。」


 落ちこぼれってそういう事ね。

 才能がないクリスフィアは、一家の恥だと。

 だからあんなに冷たかったんだね。

 てっきりポンコツの方だと思ったよ。


「でも、これで解放。今日から私は自由だ。」


 家族の冷たい視線から逃れられるって事だね。

 でも、嬉しそうではない。

 慣れ親しんだ町を出るのだ。

 不安で仕方がないのだろう。

 せっかく自由になれるのだ。

 思う存分楽しんでやればいい。


「おっと、動き出したか。」


 馬車が動き出した。

 馬車に合わせて俺も揺れる。

 お尻が痛い。

 酔いませんように。


「にゃんすけ。これから、遠い町に向かう。そこから、私達の旅が始まる。」


 旅か。少し楽しみかもしれない。

 この世界の事を知りたい。

 この世界には何があるのか。

 自分が何故この世界に来たのか。

 放浪旅を通して何か分かるのだろうか。

 そしてなにより、美味しいご飯が食べたい。


「せっかくの旅だからな。楽しまなきゃ損だろう。」


にゃー。


 その通り。

 鳴いて同意を示す。

 つらい事なんて忘れて楽しもう。


 竜車が門を抜けた。

 あっという間に町から離れていく。

 外を流れる景色も早い

 さぁ旅立ちだ。


「そういえば、名乗って無かったな。私はクリスフィア。家を出る際、この名前だけ使う事を許された。」


 知っている。

 いかにも、貴族っぽい名前だ。

 どう、貴族っぽいと言われると答えられないけどね。

 でも、その名前を使うと目立つんじゃ?


「でも私は、この名前を名乗るつもりはない。そうだな、これからはフィーと名乗ろうか。 うん、そうしよう。にゃんすけは、どう思う?」


にゃー。


 良いんじゃない?

 最後の方を取ったのか。

 呼びやすくて良いと思う。


「良いって事だよな? じゃあ、私の名前はフィーだ。名前も決まった事だし、改めてよろしくな。」


にゃー。


 こちらこそ。

 美味しいご飯、お願いします。

 お金払えないので。

 別に財布として見ている訳じゃ無いよ?


 町を見るがもう見えない。

 もう戻れない。

 気持ち新たに、行き先のない放浪旅の開始の町に向かうのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る