第5話 襲撃に合いました

 馬車に揺られてからしばらくの事。

 あまりもの退屈さに、俺は心を空っぽにして天井を見る。


 暇だ。する事がない。

 景色を見るしかないけど、代わり映えが全くない。

 どうしろと言うのか。


 隣のフィーもだれている。

 どうやら、俺と同じ気持ちのようだ。

 何の代わり映えもない時間が進む。


 うむむ。

 いっその事、寝てしまおうかな。


 今出来る事と言えば寝るだけだ。

 今寝たところで、誰も困らない。

 そんな事もあり、目を閉じた時だった。


「可愛い子がいるわね。何かしら?」


 その言葉と共に揺れる座椅子に目を開ける。

 すると、いつの間にか横の席に一人の女性が座っていた。


「この子は私の契約獣だ。」

「へぇ、名前は?」

「にゃんすけだ。」

「へぇ、変わった名前の魔獣? なのね。」


 猫です。

 名前に関しては、名付けた人に言ってもらいたい。


「ねぇ、撫でても良いの?」

「どうだ? にゃんすけ。」


にゃー。


 まぁ、撫でるだけなら。

 減るもんじゃないし。


「良いって事らしい。」

「じゃあ、お言葉に甘えて。」


 俺の頭を優しく撫でる。

 やっぱり悪いもんじゃないかもね。

 猫だから?

 こういう所も、実際の猫と同じなのだろうか。


「あなた達ってどこに行くの?」

「分からない。放浪旅だからな。いうなれば、たどり着いた場所が目的地になるのだろうな。」

「へぇ、なんかかっこ良いわね。」

「どうだろうな。旅に出たばかりだから、まだ何にも分からん。」


 どうも新旅猫です。

 右も左も分かりません。

 そして、なぜか持ち上げられました。


 持ち上げた女性がそこに座る。

 俺は、その膝の上に乗せられる。


 まさかのマスコット扱い?


「ちなみに私は、これから学園に向かうところよ。学年も上がって、新学期を迎えるの。さっきの町で一泊してね。」

「遠い所から来ているんだな。大変じゃないか?」

「大変だけど、一年に一回だし問題無いわ。」


 この世界にも学校があるのか。

 まぁ、文明があるならそれを教える場所もあるのは当然か。


「それにしても、この馬車の旅は慣れないわね。」

「確かに、寝るぐらいしかする事が無いからな。」

「そうなのよね、勉強してたら酔っちゃうし。」


 まさにその通り。

 暇で仕方ないんだよね。

 ぐぅ。


「まぁ、こうやって話相手が見つかって良かったわ。」

「それは何よりだ。思いがけない所に出会いってあるんだな。にゃんすけに会ったのもそうだし。だよな? あれ、寝てる。」

「本当だ。可愛い。」


にゃー。


 結構居心地がよくて

 でも、まだギリギリ起きて…ぐぅ。

 お休みなさい。


 人の温かみに、眠気が増していく。

 もう、起きているのも限界だ。

 そうして、意識が無くなろうとした時だった。


がたんっ。


ふにゃっ!?


 突然の揺れに、意識が呼び起こされる。

 驚いたのはフィー達も同じようで、周りを見回している。


「何だ!?」

「さぁ。いきなり馬車が止まったみたいだけど。」


 急いで外を見ると、馬車が止まっているのが分かる。

 先程の揺れは、急に止まった事で起きたものだろう。


 何が起きたの?


 なにもなく急に止まる筈はない。

 つまり、必ず何かが起きたという事だ。

 原因を探るべく、フィーが運転席へと向かう。


「おい。何があった?」


 馬車の運転手に詰め寄るフィー。

 俺も後に続く。

 そんな運転手は顔を青ざめている。


「ゴブリンだ。」

「えっ?」

「ゴブリンが先にいる。」


 ちょいとお邪魔を。


 馬車の窓に飛び乗って先を見る。

 すると、森で見たのと同じものがそこにいた。


 あの不細工か。

 どうしてここに?


「確かに、ゴブリンだな。」

「どうしよう、こんな所に出るなんて一度も無いのに。」

「違う道から行くしかないか。」

「そ、そうですね。ってこっちに来た!?」


 ほんとだ、確かにこっちに来てる。

 様子見かな?


 近づく程に不細工な顔が鮮明になる。

 しかし、襲いに来ているような感じはしない。

 恐る恐る、こっちを確認しているようだが…。


ぶぎゃー。


 いきなりゴブリンが叫んだ。

 すると、他のゴブリンもこっちを見た。


 ばれた!?


「群れを呼んだか。急いで引き返せ!」

「そんな事を言われても無理です!」

「くっ。仕方ない。」


 そんな器用に、馬車は方向転換出来ない。

 逃げるとなると、ゴブリンの群れとぶつかるだろう。

 すると、フィーが座席の剣を持つ。


「行くの?」

「あぁ、これでもハンターだからな。」


 あーあ、馬車から降りちゃったよ。

 仕方ないね、俺も行こう。


 フィーの後をついて降りる。

 自然の風が気持ちいい。

 それを確認したフィーは、扉から運転手へと呼び掛ける。


「運転手、私達が引き付ける。その間に、近くの町に逃げてくれ。」

「分かった。けど、大丈夫なのかい?」

「あぁ、頼もしい相棒がいるからな。」


にゃー。


 こっちを見ても困るんですが。

 あんな数、相手にしたこともないし。

 まぁ、やるしかないんですけどね。


「さぁ行って。」

「は、はいっ。」


 馬車が方向転換。

 ぐるりと大きく周る。

 それと同時にゴブリンが来る。


「ぶつかる前に追い払う! 行くぞ! にゃんすけ!」


にゃー!


 こうなりゃやってやる!

 目の前にいるゴブリンを蹴り飛ばす。

 後ろの奴らを巻き込んで吹っ飛んだ。

 そうして、馬車が逃げるスペースを確保する。


 決まった。


 殺意が飛んでくる。

 目の前から四体。

 その四体のお腹に点。


にゃ!


 待ってましたっ!


 そのお腹を順番に蹴っていく。

 すると、蹴られたゴブリンが吹き飛んとんでいく。


にゃ!


 名付けてポイントダッシュ!

 中々良い名前だね。

 ……たぶん。


 点に沿って、ゴブリン達を蹴っていく。

 それだけで、ゴブリン達は簡単に飛んでいく。

 その横で、フィーが長剣を空振る。


「おりゃっ。くぅ、当たらない。」


 向こうは相変わらずか。

 さっきまでかっこよかったのにね。

 って、ゴブリンにも笑われているし。


「わ、笑うなっ!」


 やぶれかぶれに斬りかかる。

 それでも、フィーの攻撃は当たらない。


 仕方ないか。

 ゴブリンの足に点。

 そこを蹴って膝を曲げさせる。


「っ!? そこだっ!」


 俺の意図に気づいたフィーが斬りかかる。

 すると、見事に直撃する。


「助かった。すまないな、にゃんすけ。」


にゃー。


 その通り。感謝しても良いんだよ?


 流石のフィーでも、止まった相手には当てられる。

 ならば、する事はただ一つ。

 俺とフィーが並び立って構える。


にゃっ!


 行くよっ!


「頼んだぞ!」


にゃあ!


 任せて!

 さぁ戦いはこっからだっ。


 目の前の一匹がこん棒を振りかぶる。

 華麗に回避。

 こん棒、顔にポイントダッシュ。

 顔を踏みつけ視界を奪う。


にゃ!


 今だっ!


「てやぁっ!」


 見事に真っ二つ。

 フィーと俺の連携は上手く決まった。


 行けるっ。

 今度は二匹行ってみようか。


 丁度、二匹の真ん中に着地。

 攻撃を誘ってかわす。

 二匹の足にポイントダッシュ。

 よろめいた所を二匹まとめて真っ二つ。


「よし、残りはあいつだけだっ!」


にゃ!


 そんじゃラスト!

 行ってみよう!


 こん棒を避けて回り込む。

 ゴブリンも視線で追いかけてくる。

 真後ろでストップ。


 えっ、何もしませんが何か?


 俺の目的は、ただ引き付けるだけ。

 すると、ゴブリンが後ろから斬られる。

 背中を見せたら避けれないよね。


「やった、倒したぞっ。」


 嬉しそうだなぁ。

 今まで倒したことが無いんだろうな。

 なんて言っている内に増援か。


「増援か。にゃんすけ、また頼む!」


にゃっ。


 仕方ないねっ。


 新たに四匹が現れる。

 その内の、目の前の二匹を蹴り飛ばす。

 そのまま地面へと華麗に降り立つ。


 ナイス着地。


 そんな俺へと、端の二匹がこん棒振りかぶり迫ってくる。

 それを、俺は斜め後ろに下がって避ける。


 さて、代わりに剣をどうぞ。


「はあっ!」


 下がった俺の代わりに剣が前に出る。

 振り下ろす体勢では避けれまい。

 まとめて真っ二つ。

 それを確認した俺が再び前に出る。


にゃ!


 ご用心、だよっ!


 起き上がった二匹の顔を爪で斬る。

 顔を押さえてもがく所を真っ二つ。


「よしっ次っ。」


にゃっ。


 気分が乗ってきたのかな?

 実は俺もだけど。


 次は、六匹まとめて来た。

 他にはいない。

 これで最後だろう。


 こん棒をかわして、前の二匹の足にポイントダッシュ。

 よろけた所を順番にフィーが斬っていく。

 今度はまとめて四匹が迫る。


 何匹来ても同じだよ!


 ゴブリンの間の地面をポイントダッシュ。

 ジグザグに蹴って奥の奴の足元に。

 そいつの足から、他の奴の腰、お腹、と戻るようにポイントダッシュ。

 一番手前だった奴を蹴って道を作る。

 無理矢理作った空間に、フィーが飛び込んだ。

 四匹まとめて真っ二つ。


「おぉ、倒したっ。やったぞにゃんすけ。」


 おめでとう。

 俺もおめでとう。

 まさかここまで出来るなんて。


「もしかしたら、私達、最高のコンビじゃないか?」


 それはどうかな?

 出来れば、フィー一人で倒せるようになって欲しい。


「あのー、にゃんすけ? 何で黙ってるんだ? 戦闘中はあんなに返事してくれたのに。」


 つーん。

 猫には猫のタイミングがあるのです。

 まぁ、精進したまへ。


 会ったばかりで馴れ馴れしくなるのは慣れないものだ。

 そんな風に、フィーを無視している時だった。


ずしーん!


にゃっ!?


 なにごと!?


 何処からか、大きな音と揺れがする。

 さらには、揺れに耐える俺を覆うように影が落ちてくる。


「にゃんすけ、上だっ!」


 え?

 ってうわっ、なんか無茶苦茶大きいのが立ってるっ!?


 フィーの声に従い見上げると、ゴブリンを大きくしたような何かと目が合う。

 その何かは、右手にこん棒を持ち左手にカンテラを持っている。


 カンテラ?

 今、昼だよね?


「随分な大きさだな。これでは家の扉も潜れないだろう。」


にゃあ…。


 その前に、家貫くと思うよ?

 ってか、こいつらの家に扉なんてないでしょ。


 こんな魔物が、扉のある家に住んでる筈もない。

 突っ込むのも野暮な話だ。

 そんな大きな体が持っているこん棒が振ちてくる。


「って、まずいっ。避けろーっ!」


 こん棒が!?

 あわわわわ。


 俺達へと棍棒が迫ってくる。

 それから逃げるように、フィーと俺は全力で後ろへと飛び込む。


「うおおおおおおおおおおっ!」


にゃーーーーーーっ! 


 間一髪で何とか回避。

 そのまま、二人揃って地面へとダイブする。

 その直後、周りにずしーんという音と振動が響く。

 

「にゃんすけ、無事か。」


にゃっ。


 無事だよっ。

 あんなのかすっただけでも駄目だろっ。


 棍棒だけでも、軽く俺達をまとめて潰す程はある。

 そんなのを受ければ、一瞬の撃ちに潰されてしまうだろう。

 そんな棍棒が、再び俺達へと落ちてくる。


「ちょっ!?」


 また来るの!?


 気づいた俺達は、すぐさま前へと駆ける。

 それにより、何とか回避する。

 その直後、再びの震動と音が響く。


 避けるのも一苦労だよ。

 遅いから何とかなってるけどっ。

 

げひゃひゃひゃひゃ。


「ぐうっ。好き勝手にしやがるな。良い気になりやがって。」


 楽しんでるんだよ。

 こっちの苦労も知らないでさっ。


 一方的な攻撃に満足をしているのだ。

 そんな大きな何かは、カンテラを振りだした。


「カンテラを? 何をする気だ?」

 

 何が起きるの?


 いきなりの行動に対し、俺達は様子を伺うしか出来ない。

 しばらくそうしていると、大きな何かの周りに火の玉が浮かんでいく。


 ひ、火の玉!?

 幽霊!?


「思い出したぞ。あれは、魔法を作り出すカンテラだ。」


 ま、魔法?

 そこまでいくと、もう本格的なファンタジーじゃん。


 カンテラが振られる度に火の玉が増えていく。

 それらの火の玉は、作られただけとは思えない。


「にゃんすけ、嫌な予感がするんだが。」


にゃ。


 同じく。


 その予感通りか、大きい何かがカンテラを振り下ろす。

 すると、作られた火の玉が一気にこっちへと降ってくる。


「ぬおっ!?」


にゃあ!?


 危なっ!?


 迫りくる火の玉を避けていく。 

 幸いにも、一つ一つは小さいから避けれる。

 しかし、迫るのは火の玉だけではない。


「危ないっ!」


にゃっ!?


 ちょっ!?

 

 火の玉を避ける俺達へと、再び棍棒が迫ってくる。

 火の玉は、こちらの足を止める為のものだろう。

 それでも、何とか回避する。


「ぐっ。無茶苦茶しやがるなっ!」


にゃ!


 全くだよ!

 って、またカンテラを振りだしやがったっ。


 恨むような目で見る俺達に構わず、再びカンテラが振られる。

 しかもさっきより早い。

 その分、早く大量の火の玉が出来上がる。


「よし、逃げよう。にゃんすけっ、撤退だっ!」


にゃーーっ!


 言われなくてもーーっ!


 我先にと逃げ出す俺達。

 とにかく、今の俺達には逃げるしか選択肢がない。

 そうして逃げていると、カンテラを振る音が止む。


「音がやんだかっ。来るぞっ!」


 振るのを止めて、先程のように振りかぶったのだろう。

 後ろを見ると、沢山の火の玉が空を埋め尽くしている。


にゃ!?


 なんなのあの数はっ!?


 数えれる程の量ではない。

 あれだけ沢山だと、避けるスペースも生まれない。

 そんな大量の火の玉を、大きい何かが降らす。


 避けられないっ!


 迫りくる大量の火の玉。

 逃げる俺達には、どうする事も出来ない。

 その時だった。


「土よ来たれっ!」


 その声と共に、視界が盛り上がった土で塞がる。

 それが火の玉を防いでいく。

 土で出来た壁が削れていくが、見事防ぎきる。


「な、なんだっ!?」


にゃ!?


 また魔法!?


 突然の出来事に、足を止めて後ろを見る。

 そこには、間違いなく不自然な土の壁だったものがある。

 それを見ている俺達の後ろに誰かが現れる。


「間に合ったようね。」

「あんたっ、さっきの。」


 馬車で出会った女性だ。

 さっきの土はこの人が?


「どうしてあなたが?」

「話は後よ。次、来るわっ。」

「くっ。」


 後ろを見ると、大きい何かがまたカンテラを振っていた。

 それに対して、女性が杖を向け先を回し始めた。

 女性の周りにも火の玉が浮かび上がる。


「私が一部落とす。後は任せたわ。出来るわよね?」


 向き合って頷くフィーと俺。

 火の玉さえ来ないなら、何とかなるだろう。

 いや、そこまでされて出来ないなんてありえない。


 やってやろうじゃん。

 猫舐めんなっ。


「そう言われたらなっ。行くぞっ。にゃんすけ!」


にゃっ。


 もちろんっ!


 大きい何かに向かってダッシュ。

 そんな俺達へと炎が向かってくる。

 それでもダッシュ。


「火よ来たれっ!」


 その声と共に、火の玉が飛んでいく。

 そして、前から迫る火の玉を打ち消していく。

 それと共に、火の粉が舞い降りる。


 火の粉が熱いっ。

 でもっ!


 それでも、一瞬の隙は生まれた。

 撃ち漏らした火の玉の下に潜り込む。

 そこからさらにダッシュ。


「にゃんすけっ。」


にゃっ。


 分かってるよっ。

 こん棒だね。


 フィーが右へ、俺が左へ避ける。

 そして、俺は見えない所からこん棒をよじ登る。

 そのまま上に到達。

 しかし、見つかってしまった。


「来るぞ!」


にゃっ!


 分かってるよっ!

 その前にっ。


 こん棒を引いたと同時にお腹にジャンプ。

 さらによじ登る。

 爪たててやるぞっ。爪っ。

 

 爪を刺す度に、大きな何かはもがきだす。

 手が迫って来たので、さらに腕に移って登る。

 そして、胸、肩にポイントダッシュ。

 そこから顔に向けてジャンプ。


にゃ!


 もらった!


 勢いをつけてのキック。

 受けた相手の顔が逸れる。


「よしっ。後は任せろっ!」


 フィーが足を斬ると、大きな何かが傾いた。

 その傾いた体をかけ上がる。

 そして、首へと斬りつけるが。


「ここだ…あっ!?」


 途中で滑って落っこちる。

 持ち主を失った剣も、大きな何かの首に残される。


 こんな時に!?

 ほんと、世話のかかる相棒だよっ!


 フィーの代わりに剣を蹴って切り裂いた。

 大きな何かは、そのまま倒れて動かない。

 俺達の完全勝利だろう。

 そして、落っこちたフィーの横に前足から着地。


 決まった。

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