第2話 恩人を助けました
まだお腹は空いている。
やはり、一個では無理だったようだ。
こうなれば、自分で取るしかないか。
でも何を?
なんて言っている内に鳥が降りてきた。
それを見ていると、以前の記憶が呼び起こされる。
そういえば、よくうちの猫が鳥をくわえて持って来ていたような。
よし、あれを食べよう。
・・・えっ、本当に?
無理でしょ。
だって中身は人間だよ? 俺。
見た目が猫とはいえ、中身は人間なのだ。
生肉を食べる度胸はない。
そんな風に考え事をしている間に、鳥が去っていく。
あぁ、さようならご飯。
まぁ、生で食べれないから仕方がない。
この手で火なんておこせないしね。
あぁ、お腹が減ったなぁ。
食べれないなら、捕まえても仕方ない。
そう自分に言い聞かせ、飛んでいく鳥を見送る。
しかし、未練がましくお腹がなる。
やっぱり無理だ。
こうなったら生肉でもいい。
生き物にとって空腹に勝るものは無いのだよ。
そうと決まれば、早速鳥を探す。
わがままを言っている場合ではない。
出てこい鳥っ。
うおーーーっ!
鳥を探して、森の中を駆け回る。
すると、鳥が地面に集まっている光景が目に入る。
それを見た俺は、急いで足を止める。
って、いたっ。
のんきに集まってやがる。
食べられるとも知らないでな。
って事でいただきます!
構えて、鳥に向かってダイブ。
目の前に迫る鳥。
まだこちらには気付いてはいない。
いけるっ。いや、いくんだ!
目当ての鳥を見ていると視線が上に向かっていく。あれ?
ぐはぁっ。
そのまま地面に落ちた。
ものすごく痛い。
寸前で気づかれたようだ。
情けなく倒れる俺の上に、鳥が一匹乗ってきた。
おーい。
お前を食う存在なんだぞ、こっちは。
あぁ、泣けてきた。
にゃーーー。
情けない声しか出ない。
声を出しても逃げる素振りはない。
完全になめられているのだろう。
そうか、そういう事なのか。
・・・。
そっちがその気ならやってやらぁ!
起き上がって、目の前の鳥にダイブ。かわされる。
他の鳥に向かってダイブ。かわされる。
またまた他の鳥にダイブ。かわされる。
ダイブ、かわされる、ダイブ、かわされる、ダイブ、かわされる、ダイブ、かわされる。
・・・・・・。
おかしい。何でこんなに捕まらないんだ。
樹にもたれて一休み。
そんな俺の周りに、鳥が集まって来た。
完全に、敵にはならないと見られたのだろう。
ちくしょう。
一体、何が駄目なんだろう。
動き? あっ!
そういえば、確かに猫の動きってこんなんじゃないよね。
先程からしているのは人の動きだ。
一つ一つの出が遅く、音もうるさい。
これでは、感づかれるのも仕方ない。
うん、間違いない。
うちの猫の動きを思いだそう。
おもむろに立ち上がって前足を地面につく。
体に止まっていた鳥が散らばるが気にしない。
体を低く、地面にお腹をつける。
何だか、頭が冴えてきた。
目標は目の前のアホ面の鳥だ。
そおっと、そおっと近づいていく。
今なら分かる。
そう。いまっ。
その瞬間、全てがゆっくりに見える。
足を蹴る感覚。
体が浮いた事による浮遊感。
体が伸びる感覚。
手を前に出す感覚。
それからの重力。
そして、目の前のアホ面の鳥がこっちを見た後、飛び出す瞬間。
ぐへぇっ。
またまた、地面に落っこちた。
情けない。
涙が止まらない。
でも、感覚は掴んだ。
しかし、空腹で動く気が起きない。
うん。
このまま、のたれ死のうかな。
あー、お腹空いたなぁ。
「ーーー。」
ん? 声がする。
気のせいかな?
「ーーーーーー。」
やっぱり聞こえる。
誰かいるの?
「くそっ、あたれっ。」
よく聞くと、その声がはっきりと聞こえた。
間違いなく誰かいる。
しかも、どこかで聞いたことがある。
「駄目だ。全然当たらない。ここまでなのか。」
さっきの人だ。間違いない。
この樹の向こうにいるのかな?
もしかしたら、またご飯を貰えるかも。
よし、行こう。
早速行こう。
怠けている体を無理に動かして立ち上がる。
そして、ダッシュ。
にゃー!
こはんくださーーい!
ーっ!?
目の前に飛び込んで来た光景に、鳴き声が止まった。
先程の人が、不細工な二足歩行の怪物に囲まれている。
その人は、とても長い剣を振り回しているが当たらない。
そりゃそうだ。
猫じゃなくても分かるくらい振りが遅い。
完全に見切られているよね。
先程の俺みたい。
女性の動きは、一つ一つが大振りだ。
剣を振り上げる度に、相手が察知して動いている。
そして、振り下ろす頃には範囲の外だ。
そうか、そうだったのか。
周りから見ればよく分かる。
ならば、そこでああしてと。
うん。完全に理解した。次はいける。
その前に、これをどうにかしないと。
恩人がこのまま死ぬのは後味が悪い。
ならば、助けるまで。
恩人に迫る不細工に向かって駆け出す。
自然と、手から爪が出た。
地面を蹴って飛び上がると不細工の顔を斬った。
「君はさっきのっ。」
恩人が気づいたようだ。
しかし、それは後回し。
華麗に着地し不細工を見る。
ぴぎゃーーー。
不細工がこっちに殺気を向けている。
おーおー、怖い怖い。
口ではそう言うが、実際は不思議と恐怖はない。
「危ないっ。」
こん棒が迫る。
言われなくても分かっている。
横に避けると、こん棒に点が見える。
先程見えた点だ。今なら分かる。
こん棒の点を蹴って肩の点へ。
そして、顔を斬って蹴り飛ばす。
「すごい。」
恩人が見とれているようだ。
しかし、敵はまだいる。
再びこん棒が迫る。
今度はこん棒の横を蹴って地面に向かう。
奥にいる別の不細工の前に止まると、そいつが振り上げた。
そんな不細工のお腹に点。
そこを蹴って、振り向いた先程の奴の顔を斬った。
いけた!
もう一丁!
そいつを踏み台に前に跳んだ。
点がいくつか見える。
目の前の不細工を斬って地面に一度降りる。
前に立っている二匹の不細工を越えて一番奥の不細工へ向かう。
隙だらけのそいつのお腹を斬って、蹴り飛ばす。
その勢いで、もう一人の不細工の顔を斬って蹴り飛ばす。
不細工が探している。
でも無駄だ。
俺は高く跳んでいるからだ。
こっちだよ!
重力任せに落ちると、残りの一匹を斬った。
着地。痛みは無い。
流石、猫の足っ。
ぴぎゃーーーっ。
殺気が消えた。
見ると、背中を向けて残りが逃げている。
あ、逃げた。
まぁ、食べ物じゃないから別にいいけど。
「君は、何者だ?」
いつの間にか、恩人が後ろに立っていた。
不思議そうに見下ろしてくる。
にゃ。
さっきの恩を返しに。
というか、もうこっちが恩人だけどね。うん。
「本当に助かった。ありがとう。でも、何でこんな所に?」
ご飯を探していたらたまたまだ。
とは思っても、口には出ない。
猫ですから。
にゃー。
一応言ってみるも、鳴き声しか出ない。
これでは言葉も通じない。
猫ですから。
「そうか。私を追ってきたのか。なるほど、私と一緒にいたかったのだな。」
にゃああ。
違います。
閃いた、なんて顔をしても違います。
頭を撫でないで。
あれ、でも気持ち良い。
猫だからかな。
すると、いきなりお腹が鳴った。
そうだ、ご飯下さい。
「なんだ、お腹が空いているのか? 困ったな、今は持ってないぞ。」
がーーーん。
最後の希望が消え失せた。
ご飯・・・。
「そんな顔をするなっ。えーと、ご飯ご飯。やっぱりない。」
落ち込む俺を見た女性が慌て出した。
でも、ご飯は無い。
そろそろ限界だ。
「こーなると、町に戻るしかないか。でも、今は戻りたくないんだよなぁ。」
えっ、町があるの?
じゃあ、ご飯もいっぱいあるって事か。
よし行こう。
目を潤ませて女性を見る。
しかし、直後のお腹の音が台無しにする。
その様子を見た女性が笑う。
「ふふっ、分かった。行こうか。こうなればやけだ。私について来い!」
にゃ!
やったぁっ。
今度こそ空腹とおさらばだ。
ようやくご飯にありつける。
意気揚々と歩き出した女性の後をついて町に向かう。
「行っておくけど、少しの間だけな。長居はしないからそのつもりでな。」
にゃ?
何かあるのかな?
まぁ、聞こうにも聞けないんだけどね。
やたらと念を押してくる。
その町とやらに何かがあるのだろうか。
次の瞬間、しまい忘れていた自分の剣につまずいて転んだ。
「ぐえっ。」
駄目だこりゃ。
誤魔化すように立ち上がる女性。
不安を感じるが、ご飯の為だから致し方ない。
「いや、違うんだ。普段からこういう訳では…。いや、普段からこうではあるんだが。」
あるんかい。
「でも、もう少しだな。あんなゴブリンなど、こうバッサリとだな…。」
そう剣を振り回しながら言い訳をする女性。
その時、周りからガサッという物音が聞こえてくる。
「ん?」
にゃ?
え?
物音が聞こえてくる方を見る俺達。
そこでは、沢山のゴブリンが樹の向こうから現れてくる。
「えーと。バッサリとだな。」
……。
「よし、逃げるぞ!」
にゃにゃーっ!
だと思ったよーっ!
急いで剣をしまった女性が逃げる。
その後を、俺が追いかける。
こうして、二人並んで森を駆けていく。
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