猫です。ーぽんこつの元お嬢様と猫?になった男の放浪旅ー

鍋敷

大蛇奉る隠れ村編

第1話 猫になりました

 今、空から落ちている

 こうなったのはなぜなのか。

 直前の事を思い出す。


 元々、沢山の猫と過ごしていた。

 だけど、病気にかかったと病院の先生に言われたのだ。

 見てくれるはずの家族は、同じ病気で既に死んでいる。

 そこで俺は、猫に看取られる事を選んだ。

 それから確か、病気で猫に囲まれながら死んだはず。

 

 記憶が鮮明になっていく。

 そうして目を閉じた次の瞬間、気づいたら空から落ちていたのだ。


 って、空っ!?

 何で落ちてんのっ!?

 落ちたら死ぬっ。

 …って、もう死んでるんだった。

 じゃあ、良いか。

 いや、良くないよっ!

 地面に落ちたら痛いだ…ぐほあっ。


 次の瞬間、激しい痛みがしたと思ったら水に包まれいた。

 慌ててもがくも沈んでいく。


 ぼこぼこぼこ、もう終わりかもしれない。

 あれ、足が底に着いた感触が伝わる。

 よし、一か八かっ。


 考えるまでもなく思いっきり地面を蹴った。

 視界が明るくなっていく。


 ぐはっ。

 何とか水から出れたっ。


 地面に手をついて一休み。

 その瞬間、自身の異変に気がつく。


 手? あれ? 人間の手じゃないっ。

 もしかして、猫の手なのか?

 思えば体も変だ。

 そうだ水。

 顔が写るかもっ。

 

 水を覗いて確認。

 そこには、人ではない姿が写っていた。

 その姿こそまさに。


 やっぱり猫じゃないか。

 と言うより、猫のキャラクターっぽい。

 もしかして、猫になったのかっ!?

 というか、体が重い。


 毛が水を吸っているからか、とても歩きづらい。

 ズシリとした重みが体を襲う。


 はぁ、乾くまで寝ていよう。

 目を閉じてりらーっくす。

 そうすれば、ゆっくりと眠気が。


ぐーーーーっ。


 来たのは、眠気ではなく食欲のようだ。

 うっすらと目を開け空を見る。


 腹へった。

 どうすれば良いんだ。


 見渡す限り、食べ物のような物はない。

 すると、どこからか何かを転がす音がしてくる。


 ん、車輪?

 まさか、人間?

 食料持ってるかもっ。

 こうしちゃいられない。


 起き上がって音の方へダッシュ。

 体が重いとかは頭の隅だ。

 今は、食料の方が先決だ。

 走りながら、茂みへと突っ込む。


 痛い、けど飯のため。

 抜けたっ。

 やっぱり人間だ。


 目の前には馬車がゆっくりと進んでいる。

 やはり、人がいたので間違いがなかったようだ。

 そこに向かってダッシュ。

 すると、向こうも気付いた。


にゃーーっ!


 ご飯くださーーーい!


 ご飯を分けて貰おうと一直線。

 その時、背筋にピクリと何かが刺さったような感覚を覚える。


 って、殺気っ。


「うせなっ、化け物っ。」 


 うおっ、危ないっ。


 近づく俺へと槍が迫る。

 しかし、寸前で気づけたので軽く回避。

 気付くのが遅かったら槍が刺さっていただろう。


 何とか避けれたかっ。

 というか、まじで殺す気だったよ。この人。


「ちっ、化け物のくせにちょこざいな。」


にゃ!


 猫です。

 化け物じゃなくただの猫です。

 いや、猫人間かな? 二足歩行で立ってるし。

 いや、猫でいいか。

 って、またっ。


 考え事をしていると、再び槍が迫ってくる。

 しかし、今度は楽に回避する。


「おい、どうした。」

「助けてくれ。化け物が。」

「何だ? こんなのにびびってんのか?」

「いいから、助けてくれ。」

「仕方ねぇなぁ。」


 もう一本、来たっ!?

 二本もかわせるなけないでしょっ。

 って大丈夫だ。

 何とかなってる。

 なぜか、軌道が見えてる?

 でも、このまま避け続けるのはつらいか。


「何だよこいつ。」

「ほらな? 全然無理だろ?」

「くそっ、どうなってやがるっ。」


 避ける、また避ける、またまた避ける。


 いい加減しつこい。

 ただご飯が欲しいだけなのに。

 この怒り、ぶつけてやる。


にゃおおおぉぉぉっ。

 

「ひっ。来るなら来いよ。」

「仕方ねぇ。合わせるぞっ。」


 二本の槍が同時に来る。

 無理っ。

 って、あれ?


「えっ?」

「えっ?」


 いつの間にか、二人の後ろに跳んでいた。

 二人の人間が驚いている。

 本人ですら驚いているのだから無理もない。


 そうだ。点が見えたと思ったら、そこを足場に跳んでたのだ。

 跳んだ意識が全くないのに気付いたら跳んでいた。


「くそっ化け物め。」


 猫です。

 って、殺気が増した!?


 先程よりも、二人の殺気も増えている。

 なりふり構っていられないようだ。


 こうなったら仕方ない。

 二人に向かってジャンプ!


にゃ!


「くそっ。来やがった。ってあれっ。」

「ちっ。来るんじゃねぇ。ってあれっ。」


にゃ!


 あばよ!


 二人の間を抜けて逃げる。

 二人は、唖然としているだろう。

 振り返る間でもなく分かる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 長旅で疲れた私は眠りに落ちた。

 騒がしい音で寝ていた事に気付いた。


「くそっ逃がしたかっ。」

「どうする? 報告するか?」


 何だか、お付きの人が騒いでいる。

 何か、あったのだろうか。


「なに言ってんだ。あんな小物も倒せなかった、なんて知られようなら。」

「知られようなら?」

「そりゃあもう。って姫様っ!」

「目を覚まされたのですか?」


 慌ててる?

 やっぱり何かあったんだ。


「それで、何かあったんですか?」

「い、いえ、何も。」

「うそ。私に隠し事をするの?」

「め、め、め、めっそうもございません。ただ、化け物が現れただけです。はい。」


 やっぱり何か隠していたわね。

 でも、何が来たんだろう。


「化け物ってどんなのです?」

「そりゃあもう。爪が凄くてジャンプも凄くて、人間を裂いてしまいそうでしたよ。なぁ?」

「えぇ、もちろん。目がくりんと大きくて、耳も大きく。可愛らしい。」

「ってばか。言ったらってばれるだろっ。」


 ばれてますよ。

 それにしても、可愛らしいか。


「見てみたかったです。」

「「へっ?」」

「だって可愛いんでしょう? 見てみたい。」

「あのぅ、お姫様? 化け物ですよ? 一応。」

「でも、気になります。あーあっ、見てみたかったなぁ。」


 二人が困っている。

 でも、このまますねたふり。

 私に嘘をついた罰ね。

 でも、本当にどんな子だったんだろう。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 くそーーーっ。

 腹へったぁ。

 何で、化け物なんだよ。

 どっから見ても可愛い猫でしょっ!

 …駄目だ。

 怒れば怒るほど腹が減る。

 ってあれ、この匂い。


 どこからか、いい匂いが漂ってくる。

 それを探すべく、至るところに目を動かす。

 そして、自分の真上で止まる。


 上?

 ってあれは、フルーツ!?

 でも、どうやって取るの?

 

 とりあえずジャンプ。

 しかし、届くわけがない。


 そうだ、あの時の点ダッシュ。


 あの時の勢いなら、高い所も届くはず。

 しかし、そもそも点が浮かばない。


 ・・・無理か。

 こなくそぉっ。

 目の前にあるのに何で。


「どうした? あれが欲しいのか?」


 やけくそジャンプをしていると声をかけられた。

 驚いた俺は、そちらへと振り向く。

 振り向くと、そこには人間の女性が立っていた。


 だ、誰?


「ほらっ。」


 悩む俺をよそに、華麗な身のこなしでフルーツを掴む。

 そして、俺の前に取ったフルーツを差し出す。


 食べてよかとですか?

 いただきますっ。


「はは、すごいがっつくな。そうとうお腹が空いてたんだな。この獣。」


 猫です。

 まぁ、獣ですが。


「じゃあな、ゆっくり食べろよ。」


 その瞬間、俺は見た。

 さっきの衝撃で、緩んだフルーツが彼女の頭に落ちたのを。


「ふぎゃっ。」


 頭を抱えて座り込む女性。


 良い音がしてたね。

 痛そー。


「あははっ。しまらないなぁ。今度こそ、じゃあな。」


 再び俺は見た。

 地面に落ちたフルーツを踏んでひっくり返る姿を。


 あ、この人ポンコツだ。


「いたぁ。って、何で見てるんだよ。」


 そんな事言われても。

 あー、このフルーツおいしっ、酸味が効いてるのが良いよね。


「何で、何も言わないんだ。」


 猫ですから。

 俺だって喋りたいんだよ。


「まったくもう。じゃあな。・・・ふぎゃあっ。」


 今度は、目の前にある樹へと衝突する。

 後ろを見て歩いていたから、気付かなかったらしい。


 フルーツ、ご馳走さまでした。


 無視をするのも優しさなのだ。

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