第9話 再び襲撃に合いました

「この道を進めば村があるんだな。」


 わざわざ道があるのはそういう事だろう。

 分かり安くて良いね。

 迷わなくていいし。


「確か、村は遠いって言ってたな。暗くならないうちに行ってしまおう。」


 そうだね。

 野宿はまだしも、ご飯が無いのは勘弁だ。

 それまでに、つける距離だと良いんだけど。


 道に沿って歩いていく。

 先は全然見えない。

 しばらく歩いていると、海が山に隠れてしまう。


「随分と長い山だな。」


 俺もそう思う。

 ずっと先まで山が続いているし。

 もしかしたら、大陸を包んでしまうくらい長いかもね。 


「こんだけ長いと、野犬でも出そうだな。」


 ゴブリン以外にも、ちゃんとそういうのもいるんだね。

 なら、自分を見た兵士っぽい人達が自分を敵と思ったのは仕方ない事だったのか。

 なんか申し訳ない。


「でも、人が住んでるようだし、その辺は問題ないのか。」


 そういえばそうか。

 既に狩られているはずだからね。

 危害を加えてくる相手を駆除するのは当然の事だしね。


「なぁ、にゃんすけ。その鼻で何か分からないか?」


にゃーあ。


 無理だね。

 あんまりそういうのは分かんない。

 嗅覚は、人より凄いはずなんだけどね。

 でも、水の臭いならするよ?


「そうなると、目視で確認するしかないか。」


にゃん。


 そうなるか。

 そういえば、以前人間の動きのせいで上手くいかなかったよね。

 もしかしたら、何か関係があるんじゃ。

 

 もう一度、鼻で周りを嗅いでみる。

 ・・・、やっぱり水の臭いしかしない。

 次までに練習しておきます。


 それから、どれくらい歩いたか。

 ただひたすら前に進んでいく。

 太陽はてっぺんに。

 お腹すいた。


「にゃんすけ。この辺で休憩しようか。」


 さんせーい。

 自覚はないけど結構歩いたはず。

 でも、こういう時は大抵進んでないものなんだよね。

 確かめる術がないから何とも言えないけど。


 手短の樹の下に二人で座る。

 幸いにも、日陰は沢山ある。


「はぁ、疲れた。旅とはこんなに大変なものなのか。」


 そりゃあね。

 元箱入り娘には、きついのかな。

 俺は平気だけど。

 まぁ、そのうち慣れると思うよ。

 

 ボトルを開けて一服。

 乾いた喉が、ミックスジュースで潤っていく。

 フィーも同じように寛いでいる。

 

「さて、休憩終わり。行こう。」


 フィーが立ち上がった。

 土を払って日陰から出る。

 

 もう終わりかぁ。

 さらば日陰。

 お前がいて良かったよ。


かさかさ。


 ん、なんだ?

 何かの音がする。


かさかさ。


 やっぱりする。

 けど、フィーは気付いていない。

 鼻は駄目でも耳は良いらしい。


「どうした、にゃんすけ。もう行くぞ。」


にゃっ。


 音は、後ろから聞こえた。

 飛び起きて、後ろを見る。 

 近付いてくる度に、後ろに下がっていく。


「にゃんすけ?」


 フィーは、まだ気付いていないようだ。

 でも、明らかに近づいてくる。


がささっ。


「にゃんすっ!」


 今までで一番大きい音。

 流石に気付いたか。

 来るっ。


「なっ! 熊っ。」


 まさかの熊。

 勢い良く飛び出して立ち上がった。

 とても大きい。


ぐぉーーーっ。


 大きな声で吠えた。

 どうやら荒れているようだ。


 怒ってる?

 お腹が空いてるの?

 もしかして、ジュースの匂いにつられた?

 だからって怒んなくても。


「にゃんすけ。どうすれば。」


 どうすればって、言葉とか通じなさそうだし。

 熊は、速いから逃げるのも駄目だし。

 

 次の瞬間、熊が襲いかかってきた。

 視線はフィーに向いている。

 えーい、ままよ。


にゃっ。


 熊の横顔に飛び蹴り。

 見事に直撃。

 でも、熊は耐えた。

 しかし、止まった。


にゃん。


 フィーに横目で合図。 

 ボトルも捨てて身軽に。

 ついてこいっ。


 懐に入ると、お腹と顎に点が浮く。

 そこを目掛けて、ポイントダッシュ。

 最後に顎を蹴って、上体を反らせる。

 その勢いのまま離脱。

 代わりにフィーが前に出た。


「喰らえっ。」


 お腹を斬った。

 でも、傷は浅い。

 さすが熊、肉が分厚い。

 いや、包丁の切れ味のせいかな?


 再び立ち上がる熊。

 また、来るか。

 いいぞ、何度でもやってやる。

 

ズドン。


 何かを殴る音。

 俺達は、何もやってませんよ? 


 すると、熊が倒れた。

 それにより、熊の向こうが見えた。

 そこにいたのは、ニタニタ笑うゴブリンの群れ。


「まさか、お前たちがやったのか?」


 そういう事だろうな。

 背中に複数の傷がある。

 もしかして、こいつらから逃げてきた。


ふぎゃーーっ。


 先頭にいた奴がこちらに向けて、こん棒を振った。

 その直後、他のゴブリンが動き出した。

 熊に上ってこっちに来る。

 ならばっ。


 乗り越えて、飛び降りそうになったのを蹴り飛ばす。

 それにより、動きを止めたゴブリンに四匹のゴブリンが衝突。

 耐えきれず、先頭が落下。

 続いて、後ろの三匹が落下し先頭の上に落ちる。

 どんなもんだい。


にゃん。


 フィーに合図。

 階段状に倒れたゴブリンを足場に、熊の上に飛び乗る。

 落ちなかった二匹を踏み台に、更にジャンプ。

 前に切り飛ばされた二匹は、フィーによって真っ二つ。


ふぎーーっ。

 

にゃん。


 空中を飛んでいる俺。

 先程、指示を出したゴブリンと睨み合う。

 だけど、相手が気付いたのが遅かった。

 一瞬で近づき、そのゴブリンを蹴り飛ばす。

 すると、ゴブリンは後ろの樹に叩きつけられた。

 そして、俺は華麗に着地。


ふぎゃーーあーーっ。


 怒っているようだ。

 その前を複数のゴブリンが立ち塞がった。

 なにか、おかしい。


「にゃんすけ。気付いたか?」


 フィーが追いついた。

 どうやらフィーは、気付いたようだ。

 一体なにさ。


「こいつら、統率が取れている。」


 そういえばそうだね。

 あんまり見てないけど、どいつも自分勝手に突っ込んで来てた。

 だけどこいつらは、指示で動いて、こうやって吹き飛ばされた奴を庇っている。

 まるで、リーダーとその子分みたいだ。


「頭が良いゴブリンか。厄介だな。」


 そうだね。

 さっき蹴飛ばされた二匹も突っ込まずに止まっていた。

 頭が良いというのは厄介だ。


ふぎゃーっ。


 リーダーらしきゴブリンが叫んだ。

 それと同時に、一斉に森の中に逃げていく。

 このまま逃がしたら厄介な事になっちゃうかも。


「にゃんすけ。追うぞ。」


 フィーも分かっているのか追いかける。

 一番手前のゴブリンを斬ろうとしたが。


「あっ。」


 あっ。剣が。

 樹に阻まれて斬れない。


 だろうね。

 うすうす気付いてたよっ。


ふぎゃっ。


 斬られそうになったゴブリンが、ニタニタ笑ってフィーに殴りかかった。

 その横っ面を俺が蹴飛ばした。 

 吹っ飛んだそいつを、フィーが刺し殺した。


「よし、追うぞっ。」


 はいはーい。

 早く追いかけましょうね。


 幸いにも、森の外からゴブリンの群れは見える。

 外からそれを追いかける。

 すると、目の前に三匹のゴブリンが現れた。


 あっ。真ん中の奴、鼻血だしてる。

 さっきの三匹か。

 

「邪魔だっ。」


にゃん。


 真ん中を蹴って、押し込んだ。

 端の二匹の注意を引いてる内に、フィーがまとめて斬った。

 真っ二つとはいかなかったものの傷は深い。


 やっぱ、包丁では駄目か。

 でも、ほっといてもいいだろう。

 気を取り直して、追いかける。


「待てっ。」


にゃっ。


 もう少し、先回りして森から追い払おう。

 すると、突然姿が消えた。


「なっ。」


 急な事で立ち止まる。

 足音も聞こえない。


「何が起こった?」


にゃん。


 良く見ると霧だ。

 この先一面に霧がある。

 しかし、森の中だけ。

 何も出来ずに俺とフィーは立ち尽くす。

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