第8話 快適な船旅でした

「起きてくださーい。」


 んあ、ここはだれ。俺はどこ。

 そういえば、ミランのお店に泊まったんだっけか。

 それで俺はなぜ地面に落ちているのか。


「おはようございます。」

「ん、あぁ、おはよう。」


 フィーも、起きたようだ。

 ベッドのフィーを見て昨日の事を思い出す。

 確か、部屋のハンモックで寝たんだったか。

 折角だし、ここで寝ようって。

 ハンモックならうつ伏せになっても苦しくないよねって。

 で、落ちたのか。


「あれ、にゃんすけ?」

「ベッドの奥ですよ。契約獣って床で寝るんですね。」


 違います。落ちたんです。

 よく起きなかったよね。

 地面に落っこちたのに。


「もしかして、にゃんすけって寝相が悪いのか?」


 そんなはずはない。

 と、言いたい所だけどよく分からない。

 なにせ、寝ている時の自分なんて分からないしね。


「そうだ。ご飯出来たって。」


 ご飯っ。

 ベッドの奥からひょっこりと。

 その頭をフィーが撫でる。


「なにからなにまで、すまないな。」

「いいえ、これぐらい大したことないですよ。」


 本当にありがたい。

 お腹はぺこぺこ、早く行こう。


「焦るなって、にゃんすけ。」


 フィーは、おっきく背伸び。

 そして、息を吐いた。


「よし、行こうか。」


にゃん。 


 部屋を出て下へ。

 昨日と同じ場所に座る。

 目の前には、海鮮ご飯。


「あら、おはよう。よく眠れた?」

「おかげさまで。ご飯まで頂いて、感謝します。」

「いいのよこれぐらい。」


 ミランの母親、マッチョだけどいい人だ。

 さて、ご飯を食べよう。

 いただきます。

 あぁ、空腹にご飯が染み渡る。

 味薄いけど。


「いい食べっぷりね。作ったかいがあったわ。」


 止まらないから仕方ないよね。

 美味しいし。

 

 フィーは、元貴族らしく上品に食べている。

 それを見ながらご飯をかきこむ。

 俺には行儀正しくとか無理だなぁ。


「おっす。もう起きてたか。」

「どうも。お世話になっている。」


 ミランの父親だ。

 相変わらずのマッチョ。


「気にすんな。それよりあんたら、船酔いとか大丈夫か?」

「大丈夫だと思うが、これから乗るのか?」

「そうだ、途中まで船で行く事になるからな。」


 船は、陸より揺れるんだったか。

 馬車は、大丈夫だったけど。


「それで、目的の場所はどこなんだ?」

「山の下にある小さな村だ。迷うかも知れないけど、ちゃんと道並みに進めばつくぜ。」

「了解した。」

「おう。それじゃあ、外で待ってるぜ。」


 外に出て行った。

 俺達も食事を済ませる。

 ごちそう様でした。


「あら、もう行くの? 気をつけてね。最近物騒なんだから。」

「あぁ、気を付けよう。世話になった。」


 ミラン母と別れて扉を開く。

 お世話になりました。


「あっ、ちょっと待ってください。」


 出る前に呼び止められる。

 ミランが走ってきた。

 手に何か持っている。


「これ、ミックスジュースです。途中で飲んでください。」

「助かる。ありがたく頂こう。」


 本当に助かる。

 物資とか無いもんで。


 ドリンクが入ったボトルを肩にかける。

 今度こそ、お店を出て外へ。

 すると、長い何かを持ったマッチョが現れる。

 あれですね。はい。


「もういいのか? 例のやつ準備出来てるぞ。」

「おぉ。」


 フィーは、手渡された包丁を抜いて確かめる。

 錆び一つない。

 でも長い。

 前の程じゃないのが救いか。


「じゃあ、行くぞ。船の準備は出来てるからな。」

「うむ、分かった。」  

 

 満足そうに、超長包丁を鞘に戻し腰に提げる。

 そして、ミラン父の後についていく。

 向かうは村の奥。

 門を潜って外に出る。

 森を歩いていくと、その先には海。

 気持ちいい風が、吹いている。


「気持ちいい。」

「だろ? この辺りは風が強いからよく吹くんだ。おかげで、近くに住めないけどな。」

「それは、なぜだ?」

「塩を含んでいるからな。色んな物が駄目になっちまう。」


 塩害というやつか。

 確かに、風が強いと塩もいっぱい流れて来そうだね。


「だから、こうやって森に隠れて過ごしてんだ。まぁ、風が気持ちいいから時々、こっちに来るんだがな。」


 強くない優しい風。

 風に吹かれて寛ぐのも良いかもね。

 俺も、人間の頃は海の近くに住むのに憧れたっけ。


「さぁ、行こうぜ。」

「あぁ。」


 いつまでもこうしてはいられない。

 港に降りて船へ向かう。

 

「ほら、乗った乗った。」


 ミラン父に続いて船に乗る。

 固定するようの紐をほどいて地面を蹴る。

 船が離れていく。


 実は初めてなんだよね。

 けっこう楽しみだ。

 船から下を覗いてみる。


「落ちるなよぉ。」


 ご心配なく。

 どこぞのポンコツとは違うので。

 

 ミラン父が操舵席へ。

 船が進み出す。

 いざ、出港。


 風を切って進んでいく。

 陸から距離が離れた所からは、様々な生き物が。

 船旅を、歓迎してくれる。


「おぉ、にゃんすけ。見ろ、鳥がいっぱいいる。」


にゃー。


 確かに、いっぱいだ。

 空を覆いつくさんばかりの数がいる。


「鳥の下には、魚がわんさかいるんだぜ。あぁ、釣糸を垂らしてぇ。」


 漁師としての血が騒ぐんだろうか。

 さらに、目の前で何かが跳ねた。


「にゃんすけ。今の見たか?」


にゃー。


 楽しそうですね。

 ずっこけて落ちないでね。ほんと。


 船旅は、中々に快適。

 波も少なく揺れが小さい。

 これなら酔うことも無いだろう。


「ほら、もうすぐつくぜ。」


 目の前に陸が迫ってくる。

 もうおしまいか。残念。

 船に乗っての放浪旅も良いかもね。

 でも、揺れが大きくなった時の事を考えたら心配だなぁ。


 陸に近づくにつれて、船の速度が遅くなる。

 そして、離れた所で停止。


「あれ、まだ先だけど。」

「悪いけど、この船じゃあこれ以上は近づけねぇんだ。」


 岩とかがあったら危ないもんね。

 でもここからどうするの?


「だから、ほら。こっからはこいつに乗って行ってくれ。」


 そう言って、ボートを水面に落とす。

 なるほど。自力ですか。


 仕方ないので、フィーと共にボートに乗る。

 いわゆるゴムボートってやつか。

 床が柔らかいから不安だ。


「ほいペダル。目的の村は左だ。道沿いに行けばつく。ただ、距離があるから向こうで泊めてもらえ。明日また、同じ時間に来るぜ。」

「あぁ、任せろ。」


 フィーが座って漕ぎだした。

 俺も肉球で、漕いでいく

 冷たい。


「にゃんすけ。楽しかったな。」


にゃー。


 そうだね。

 帰りも乗る訳だから楽しみだ。


「船旅も良いかもしれん。」


 同じ事を考えてるよ。

 そういえば、フィー落ちなかったよね。

 はらはらして見てたけど杞憂だったか。


「よし、つくぞ。」


 もう少し。

 そろそろばててきた。

 早く大地へ。


「ついた。降りるぞっ。」


 フィーが立って、ボートの端に足をかける。

 そのままジャンプ。

 あっ、ボートがっ。


「ふべっ。」


 足場のボートが、後ろに流れた。

 踏み込めず、そのまま水にダイブ。

 ちなみに俺もすぐ下に降りようとした為、水に突っ込んだ。

 二人並んでうつ伏せに。


 口に水が。

 しょっぱい。


「すまん。にゃんすけ。」


にゃぁ。


 すまんじゃないよ。

 とうとう人を巻き込みやがったな。


 起き上がってボートを見る。

 少し離れている。


にゃっ。

 

 指をさして鳴く。

 取ってきてね。


「あぁ、ずぶ濡れ確定だ。」


 もう結構濡れているから、今更でしょ。

 ほら行った行った。


 フィーは、水に入ってボートを引き寄せる。

 そのまま、陸まで引っ張りあげた。


「はぁ、冷たい。」


 ほんとにね。

 しかも、全身が水で重い。

 取り合えず、ボートの紐をくわえて地上へ。


にゃん。


「ん? 結べば良いんだな?」


 水面が上がって流されるかもしれないからね。

 もし流されたら、泳いでいかないといけなくなる。

 

 取り合えず水が重い。

 そういえば、猫ってこういう時、体を振ってはらってたよね。

 やってみよう。


 体を思いきり振ってみる。

 水が飛んでいく。

 少しはましになったかな?


「ずるいぞ。にゃんすけ。」


 服を絞れば良いじゃない。

 冷たいのは、変わらないだろうけど。


 フィーは、服の絞れるところを絞っていく。

 俺も首のスカーフを絞る。


「変わらない。」


 ぼそっと言われても。

 後は、自然に乾かすしかないね。


「仕方ない、行こう。」


 濡れたままで道に入る。

 言われた通りに、道の左へ歩いていく。

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