第7話 村の住民は凄い筋肉でした
村の門を潜る。
小さい建物が並んでいる。
町に比べると規模は小さい。
「これが村か。」
村です。
どこからどうみても。
もしかして初めて?
「恥ずかしい話だが、町から出たことが無くてな。」
なるほど、元貴族らしいから仕方ないね。
閉じ込められて、才能を見つけさせられていたんだろう。
それで、これからどうするの?
「お金を稼ぎたいけど。ハンターギルドあるかなぁ。」
まず、そこからなんだ。
あるかどうかすらも分からない。
無ければ八方塞がりになってしまう。
「いつまでもこうしてはいられないか。行こうにゃんすけ。」
そうだね。
ご飯がかかっているし。
立ち止まってても仕方ない。
建物の前を歩く。
こじんまりとした建物ばかり。
そして、静かだ。
「なぁ、にゃんすけ。人がいなさすぎじゃないか?」
にゃん。
確かにね。こっちを見る気配すらもない。
人そのものがいないって感じだ。
さらに、歩いていく。
周りの気配を探るけど、やっぱり感じない。
すると、目の前に大きな建物が。
「もしかしたら、あそこにいるのかも。行ってみよう。」
扉に手をかけドアノブを回す。
開かない。
今度は扉を叩く。
「返事無しか。他行こう。」
そうするしかないね。
離れようとした瞬間、後ろからかちゃり。
振り向くとそこに女性がいた。
「どなたですか?」
「旅の者だ。誰も人がいないから探してたんだ。」
「そうですか。では、中にどうぞ。」
言われるがままに中へ。
中は、食事所のようになっている。
「あの。どうして誰もいないんだ?」
「実は先程、ゴブリンの襲撃にあいまして。」
「まさか皆、・・・殺されたとか?」
何て事だ。
初めての村でとんでもない事が。
暗い雰囲気が場を包む。
「いえ違いますよ? 返り討ちをしに行っただけです。」
違うんかいっ。
じゃあ、この場の空気は何なんだっ。
「そ、そうか、顔色が悪いからてっきり。」
「これは、元々ですよ。紛らわしくてごめんなさい。」
「い、いや。無事なら良いんだ。」
元々なら仕方ないよね。
うん。仕方ない。
「折角だし、何か飲み物でもご馳走しますよ?」
「でも、お金はないぞ?」
「構いませんよ。折角来てもらったのでサービスです。好きな所に座って下さい。」
なんと。ありがたい。
早速、カウンターっぽい長い机に着席。
その中に、女性が入って樽の栓を開いた。
「フルーツのドリンクで良いですよね。えっと、その子のは?」
「同じ物で。いいよな?」
にゃー。
良いですとも。
喉が潤えば。
フルーツの香りが漂ってくる。
「それにしても、今のご時世に旅人って珍しいですね。」
「まぁ、色々あってね。君は一人でこのお店をやってるの?」
「親は・・・。」
「言いにくい事なら無理には。」
「いえ、ゴブリン退治に行っていますよ? 用事がある時は一人でやっているんです。」
ハイハイ、シッテマシタヨ。
フィーも苦笑いしてないで慣れようね。
「はい、出来ましたよ。ミックスジュース召し上がれ。」
「いただこう。」
にゃー。
いただきます。
うむ、複数のフルーツが良い感じに混ざりあってる。
これは良いものだ。
「どうですか?」
「美味しいよ。」
「良かった。」
安堵している。
不安だったのかな?
「あなたは?」
にゃー。
「良いそうだ。」
「ありがとね。」
あっ、笑顔になった。
笑うとかわいいね。
手を上げて返事をすると頭を撫でてくる。
ドリンクのお礼に思う存分撫でるといい。
「なぁ、話を戻すが、親が心配じゃないのか?」
「心配は特にしないですね。全然まったく。」
「でも、戦いに出てるんだろ?」
「まぁ、私の親には事情がありまして。あっ、帰ってきた。」
後ろの扉が開いた。
そこにいたのは、マッチョ。
・・・の集団。
「おう、ミラン。帰ってきたぞぅ。ん、客人か?」
「旅人さんだよ。折角来てもらったからご馳走したの。」
「おおそうか、ゆっくりしてってくれ。あと、客つれて来たから準備な。」
「分かったよ。お父さん。」
フィーと俺は、口が開いたまま固まっていた。
だってマッチョの集団だよ?
男女入り交じったマッチョが各々席に座りだした。
そりゃあ、心配なんてする訳無いよね。
ゴブリンなんて一撃で粉砕しそうだし。
「あぁ、疲れたっ。」
ジョッキを持って樽の栓を開いた。
中から泡が出る液体が出てきた。
お酒だよね。あれ。
ジョッキを持ったマッチョが飲み始める。
中のお酒が一瞬で消えた。
ジョッキのはずだよね?
「ぷはぁああっ。動いた後はやっぱこれだなぁ。」
「ほら、お客さんの前でみっともない。ほら、エプロン。」
「おぉ、悪いな。」
マッチョがエプロンを着ける。
ぎっちぎちだ。
というか、同じくエプロンを着けてる女性もマッチョだ。
「ほんと、ごめんなさいねぇ。こんなんだけどゆっくりしてってね?」
「あ、あぁ、おきになさらず。」
フィーも、引いてるよ。
そりゃあねぇ、マッチョだし。
迫力がやばす。
客のマッチョ達が注文書をとり始めた。
お店の中が騒がしくなる。
ミランと呼ばれた女性が慌ただしく走っている。
奥から調理の音が聞こえる。
「なんか、騒がしくなってきたな。」
にゃん。
肩身が狭い。
でも、折角の人だ。
色々聞くのに丁度良い。
それが分かっているのか、フィーも動かない。
「おーい、嬢ちゃんは酒飲まねぇのか?」
「未成年だからな。」
マッチョに話しかけられた。
いや、絡まれたの方が正しいかな。
「なんだ。そうなんか。」
「ちょっと、若い子に絡んでんじゃないわよ。」
「そんなんじゃねぇよ。ただ、じっとしてんのが気になっただけだ。」
マッチョの男性が、マッチョの女性に怒られている。
すごい光景だ。
「ははっ、なんかがたいが良いのが多いなって驚いててな。」
「そりゃあ漁師やってるからよ。自然と筋肉も付くってもんだ。」
なるほど。漁師ね。
俺のいた世界は機械で巻くのが普通だけどこんな世界にはないもんね。
よく見ると、魚介ものの食事が多い。
すると、エプロンマッチョがフィーの前に皿をおいた。
「ほら、あんたらも食いな。」
「でも、金がないが。」
「構わねぇよ。旅人なら歓迎するのが当たり前だからなっ。」
高笑いしている。
って、まさかの俺の前にも。
ありがとうございますっ。
勢い良くかぶりつく
うまいっ。
「それにしても旅人か。武器もねぇのによくやるよなぁ。」
「あぁ、最近は物騒だからな。」
「ゴブリンはよく来るのか?」
「以前は来なかったが最近良く来るんだ。」
なるほど。最近なのか。
そういえば、さっきの襲撃の時もあり得ないみたいな事を言ってたな。
何かが起こってるのかな。
「実は私もゴブリンの群れに襲われてな。その時に武器を無くしたんだ。新しいのを買う金もないしどうしたもんかなと。」
「そいつは災難だったな。でも、一人と一匹で倒すなんてすごいじゃないか。」
「そりゃあ、ハンターだからな。」
威張ってるよ。
一人じゃ何も出来ないのに。
どこからその自信が出てくるんだ。
「ハンターか。そりゃすげぇな。」
「確かに女性のハンターは少ないからねぇ。」
そうなんだ。
他のハンターを見た事が無いから分かんない。
「そうか、ハンターか。」
「どうしたおやっさん。」
エプロンマッチョが、顎に手を当てなにか考え始めた。
しばらくして、頷いた。
「なぁあんた。金がねぇんだろ? ちょっくら頼まれてくれねぇか。」
「何か困った事でもあるのか?」
「あぁ。最近、取引先の一つが来ねぇんだ。見てきて欲しいんだ。」
「あれかぁ。最近こねぇよなぁ。」
「村長さんも不思議がってたわねぇ。」
取引先が音信不通という事か。
報せもなく、急に来なくなったのか。
心配するのも仕方ないね。
「別に取引辞めるってんならそれで良いんだがよ。最近物騒なのもあるし何かあったのかなって思ってな。見るだけでも良いんで行ってくんねぇか?」
「見るだけなら別に構わない。でも、武器が無いからなぁ。」
「そんなら良いもんをやるよ。ついてきな。」
一旦店を出て、エプロンマッチョの後をついていく。
店の裏側にまわって倉庫の前に。
エプロンマッチョがシャッターを開けて中に入ったので後に続く。
「ほら、ここのもん好きに持っていきな。」
好きにってこれ。魚を捌く奴じゃん。
大から小まで様々な長さのものがある。
何をさせるきですかあんた。
「どれも切れ味が良い奴だからな。ゴブリンもあっという間だ。」
それは斬ってるんじゃなく、押し込んでるだけでは?
普通の人間には、無理な芸当だと思うよ。
まぁ、以前のよりかは全然ましかな。
「そうだなぁ。あっ。」
急に一本の長包丁を取った。
鞘から抜くと錆が溢れた。
ってそれ、結局むっちゃ長いのじゃん。
何を捌くつもりだよ。
「あぁ、それか。超巨大な奴釣るぞぉ、って気分が乗ってた時に勢いで買った奴だ。それでも良いが錆びてるぞ?」
「あぁ、とても良いものだ。」
何が良いんですかね?
絶対、長さしか見てないでしょ。この人。
「分かった。明日までに錆を取っといてやるよ。」
「助かる。」
「いや、元々こちらから頼んだ事だからな。気にすんな。」
超長包丁を持っていくエプロンマッチョ。
どうやらあれに決まったようだ。
マジですか。
マジであれですか。
えぇ。
「ん? どうしたにゃんすけ。」
呆れて見ているのに気付いたようだ。
もうどうにでもなぁれ。
何か呼んでるが、無視をしてお店に戻る。
「おぉい。どうしたんだにゃんすけ。」
さて、残りのご飯でも食べて忘れるか。
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