第41話 俺たちの姉御
「僕たちは大丈夫です。……なんとか。でも、サムさんが」
ノマが震える声で伝えるとエッダは、そうか、とだけ呟いた。
そして彼女は起き上がりつつあるケルベロスを睨んだ。その横顔はゾッと身の毛がよだつほどの迫力だった。
「あとはアタシに任せな。巻き込まれないよう、離れててくれ」
ノマはエッダの言う通り、体を引きずりながらその場から離れた。
リリアを担いだライアンとも合流する。
起き上がったケルベロスはエッダの異様な雰囲気にたじろいでいるようにも見えた。
見れば周囲にはエッダの仲間たちも集まっている。ところが、全員ノマと同じように遠巻きで彼女のことを見ていた。
一緒に戦うわけじゃないのか。
エッダは拳を構える。
「アタシの仲間を……よくも、よくも殺してくれたねぇっ!」
その場からエッダが消えた。ように見えた。
次の瞬間には、彼女はケルベロスの右頭に飛び蹴りを放っていた。鈍い音が響いた。
ケルベロスは、今度は倒れることなく踏ん張っている。左頭がエッダに迫る。
エッダは高く飛んで左頭の噛み付きを避けたかと思えば、かかと落としを左頭に見舞った。
地べたに突っ伏したケルベロスは何も出来ないまま、エッダの攻撃を受け続けている。
右、左と交互に拳を叩きつけられた中央の頭は、反撃の隙を与えられなかった。
エッダはケルベロスの返り血を浴びながら、悪魔のように顔を歪めて笑っている。まるで戦闘を楽しんでいるかのようにも見える。
「ほ、本当に同じ人間かよ……」
ライアンが引き気味に呟いた。
サムは「ボスは最強」と言っていたが、ここまでだとは。
ケルベロスはエッダを跳ねのけるように上体を起こす。そして地面を掘ってエッダに大量の砂をかけた。
砂煙のせいでノマも目を細める。すると、エッダのうめき声が聞こえた。
砂煙が薄まると、エッダの様子が見えてきた。彼女は左手で右肩を抑えている。
エッダの右腕が、ない。
ケルベロスに食いちぎられた腕からは、おびただしい量の血が出ていた。
「──姉御ッ!」
「来るな!」
顔をゆがめたエッダは仲間を制した。
「腕くらいで喚くな! 大丈夫だ!」
とても大丈夫には見えない。倒れてしまうんじゃないか。
ところが、彼女はふらつくことなく仁王立ちしている。
どこまで強靭なのか。
エッダの右腕を食べ終えたケルベロスが、彼女に襲いかかる。
しかしエッダは、大怪我をしているとは思えない軽やかな身のこなしで、ケルベロスの噛み付きを避けた。
そして左手にナイフを持ち、ヤツの腹部に深く刺す。
身を捩ったケルベロスの隙を突いて、もう一本取り出したナイフを口に咥えた。
エッダがケルベロスの首元を高速で走り抜ければ、ヤツの首から血が噴き出した。
どさどさ、どさ、と三つの頭が落ちる。
胴体だけとなったケルベロスはその場に崩れ、二度と動くことはなかった。
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