第37話 姉御の気持ち

 宴は夜遅くまで続いた。ノマたちは用意された別室で就寝させてもらえた。

 床で寝ることを覚悟していたので、ちゃんとした部屋が用意されたのは意外だった。エッダは仲間のことを大切にしているらしい。他の仲間にも就寝用の部屋があるそうだ。


 リリアはあれ以来起きる様子もないし、ライアンもいびきをかいて眠っている。

 ノマは目が冴えていた。酒をあまり飲まなかったというのもあるかもしれない。

 すると、部屋の扉が控えめに叩かれた。こんな時間に誰だろう。エッダだろうか。


 ノマが扉を開けると、髭面のサムが立っていた。


「どうしたんですか」

「ちょっといいか坊主。姉御のことで話がある」


 ここでは話しにくいとのことだったので、ノマはサムに連れられて部屋を出た。石を掘って作られた廊下の隅で、サムは話し始める。


「明日、おれたちの作戦に参加してくれること、嬉しく思うぞ」

「まぁ……ほぼ強制的ではありますが」

「そう言うな。ああ見えて姉御は精神的にきてるんだ。一刻も早くケルベロスを倒さないと、っていう使命感に駆られてるのさ」


 エッダが? 見た目や言動だけではとてもそう思えない。


「それは、エッダさんが言っていた大事な人……というのに関係しているんでしょうか」


 問うと、サムは察しがいい、と軽く笑った。


「ああ。ケルベロスに仲間が何人か殺されたと言ってただろ。あの中に姉御の旦那がいたんだ。暴れるケルベロスをなんとかなだめようとしたんだが、あっという間に食われちまった。姉御はその敵討ちに闘志を燃やしてるんだ」

「辛い気持ちを復讐でなんとかしようとしてるってことですか」

「そうでもしないと正気を保っていられねぇんだ」


 サムは苦笑した。


「おれは死んだ旦那や姉御に沢山世話になった。今じゃ姉御の願いを叶えるのがおれの生きがいだ。だから明日の作戦では、出来る限りお前らにも頑張って欲しい」


 サムの気持ちを汲んであげたい気持ちはノマにもある。


「努力はするつもりです。ですが、僕たちにもこの先やらなければいけないことがあるので。危険が及んだ時には、先に逃げると思います」

「わかってる。姉御のケルベロス退治は本気だぞ、という話をしておきたかったんだ。ちなみに今言ったことは姉御には内緒な。バレたら姉御に殺されちまう。ケルベロスよりもおっかねぇ」


 静かに笑うサムを見ていると、エッダのことが心から大切なことが伝わってくる。彼女はきっとこうして多くの仲間に慕われているんだろう。

 だがノマたちにとってはエッダにどんな事情があろうと、やることをやって早く山を抜けるだけだ。


「明日はよろしくな」


 サムが右手を差し出す。

 ノマは深く息を吸込み、はい、とサムの手を握り返した。

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