第36話 新しい仲間に乾杯
ノマはライアンとリリアに視線を送った。
リリアは少々不安そうだったが、ノマに向かって小さく首を縦に振った。ライアンも仕方ねぇな、と言った表情をしている。
「わかりました。少しでもお力添え出来たらと思います」
「そう言ってくれると思ってたよ! これからあんたたちとアタシたちは仲間だ! サム! 早く宴の準備だ!」
「はいよ姉御!」
え、仲間? 宴? 何が始まるのか。動揺している間に、ノマの縄が解かれた。
「あんたはノマ、でいいのかな」
「そうです」
エッダはノマの背中を手加減なしにばんばんと叩いた。とても痛い。
「そんな堅苦しくなるなって! もう仲間なんだからなっ! で、そっちの子猿ちゃんは確かライアンだったね。お嬢ちゃんは?」
「リリアです」
「リリアちゃんかぁ! 名前もカワイイねぇ! ここじゃアタシの他に女はいないから、久しぶりの目新しい女で周りも沸き立つと思うけど、何かされたらアタシにすぐ言いな。すぐ躾直すからね」
「あ、ありがとう、ございます……?」
しばらくすると、エッダの周りに沢山の食べ物と飲み物が運ばれてきた。エッダは楽しそうに盃をノマたちに渡す。
「一緒にこの盃を交わせば、仲間の契りは完了だ。よろしく頼むよ、ノマ、子猿ちゃん、リリアちゃん」
「なんでオレだけ名前じゃねぇーんだ!?」
喚くライアンを横目に、エッダは三人の盃に液体を注いだ。
「おやぁ? 自分が名前で呼ばれるほどの男だと思ってんのかい? 図々しいねぇ」
ライアンを軽くたしなめた後、エッダは自分の盃にも液体を入れた。
「じゃあ、乾杯! 新しい仲間たちに」
エッダはぐい、と盃を一気に煽った。それを真似してノマたちも盃の中の液体を一思いに飲み干す、が、焼け付くような喉の痛みにノマは顔をしかめた。なんとか飲み込んだ後、反射的に咳き込む。
「ゴホッ──ッ、きっつい」
かなり度数の高い酒だ。エッダは水みたいにがぶがぶ飲んでいたが、真似するんじゃなかった。
ライアンもリリアもノマと同じように咳き込んでいる。
「ッかー! よくこんなの飲めるな!?」
「子猿ちゃんはお子様だねぇ。ドワーフの酒樽から拝借してきた高級な酒だよ? たくさんあるから遠慮せず好きなだけ飲みな」
拝借と言えば聞こえがいいが、ようするに盗んできたんだろう。ノマは酒に強い方ではないので一杯だけで遠慮しておいた。ライアンはああ言ってた割には二杯目を飲み、上機嫌で他の山賊たちと団欒を楽しんでいる。
問題はリリアだった。気付けば彼女はもう四杯目に突入している。目は虚ろになっているし、所々呂律も怪しい。もうやめておいた方がいんじゃないか。
「リリア、大丈夫?」
「なにがれすか?」
「いや……だって、普段酒とか飲まないんじゃ」
「ふふふ、はい。わらしお酒初めてなんれすが、おいしいれすねぇこれぇ」
「は、初めてっ!?」
初めてでこの量はどう考えても危険だ。ノマはリリアの手にある盃を奪おうとした。
「らめです。これはわたしのれすよノマ」
「いやそうじゃなくて」
手を伸ばしてなんとか盃を掴もうとするが、リリアに押しのけられる。
「だめれすよ、だーめ」
するとノマを押しのけた反動でリリアはよろめき、隣にいたライアンにぶつかった。
「あ? なんだ?」
「ライアン、リリアを止めて!」
「はぁ?」
リリアはライアンの方を向くと、むっと眉を寄せた。
「だめれす! これはわたしのなんれすから! ライアンも、めっ! れすよ!」
「お……」
ライアンは顔を真っ赤にしている。多分酒のせいだけではないだろう。リリアのいつもとは違う様子にときめいているように見えた。だが今はそれどころではない。
「お、落ちこぼれチャンが、ささ、酒も弱いとは、流石だなぁ!?」
「何も流石じゃないから!」
ノマがツッコむと、リリアは突然糸が切れたみたいにライアンにしな垂れがかった。
すやすやと寝息を立てている。
「おおお、おい!? こ、こんなところで寝るんじゃねぇ!?」
「よかった。そのままリリアを見張っといて」
「何もよくねぇし!?」
一部始終を見ていたエッダは、ニヤニヤと笑っていた。
「あんた、わっかりやすいヤツだねぇ」
「な、何がだよッ!?」
ライアンが慌て始める。口では乱暴に言いながらも、ライアンはリリアをそっと横に寝かせていた。
「アタシにもねぇ、大事な人がいたんだよ。熱くて馬鹿みたいなヤツでね」
「べっ、べべ、別にコイツは大事な人なんかじゃねぇーし!? ただの仲間だろ、なぁ!?」
「なんでそこで僕に振るんだよ。もちろんリリアは大事な仲間だよ。当然のことだろ」
ノマがからかい気味に言えば、ぐ、とライアンは狼狽えた。いつも好き放題言われているせいか、ちょっとだけいい気分になる。
「今の気持ちを大事にするんだよ、子猿ちゃん。人間……まぁ、人間以外の生き物もそうだけど、いつどうなるかわからないんだからね」
「姉御……」
エッダの側にいたサムが呟き、眉を下げて彼女を見つめていた。
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