第24話 決断しよう

 イグニドム廃坑。

 元はイグニドム鉱山と言うらしい。廃坑になった原因は、採掘をしているうちにうっかりサラマンダーの巣に出くわしてしまい、人が近付けなくなったからだとか。リリアに教えてもらった話が正しければ、これからノマたちが足を踏み入れる場所はかなりの危険地帯ということになる。


 ロージニアの食堂で食事を終えたノマたちは、長机で話し合いを行っていた。珍しくライアンが真面目な顔をしている。


「サラマンダーっつーと、確か凶暴な魔物だよな」

「はい、大きさは巨大なものだと二十メートル。鋭い牙があり、体表は硬い鱗で覆われています。何より危険なのが、口から吐き出す炎です。正面から受けるとひとたまりもありません」


 リリアの話を聞けば聞くほど、無謀でしかない。そんな魔物相手にノマたちが太刀打ち出来るとは、とてもじゃないが思えない。


「モル爺のやつ、わざとかよ」


 ライアンは苛立った様子で舌打ちをした。

 モルドゥは、ノマたちには絶対に無理だとわかっていて依頼をしたのだ。


「ノマ、どうしますか」


 リリアは神妙な面持ちでノマに尋ねてきた。

 サラマンダーに出会ったらその時点で終わりだ。ティタム鉱石を手に入れるどころか、無傷で廃坑を出ることも難しいだろう。危険が大きすぎる。


 ノマは腕を組んで考え込んだ。

 モルドゥを頼る以外にも、武器の強化や戦い方を学ぶ方法はあるはずだ。彼だけに固執する必要はない。

 しかし、ノマはこのまま別の方法を探し始めるのも違うような気がしていた。


「モルドゥさん、お弟子さんを亡くしたから人間嫌いになってしまったんでしょうか」

「多分そうだろうな。国に殺された、って言ってたが……。ま、オレには関係ねぇけど」


 ライアンはそう言いながらも、真剣な表情でため息をついている。


 そうなのだ。

 ここにいる三人とも、モルドゥのことが気掛かりになっている。もちろんソラのことを忘れているわけではないだろう。

 ロゼリアの話だと、モルドゥは腕利きの鍛冶屋だと言っていた。弟子を取るほどの実力があることもわかっている。


 今から新たに腕の良い鍛冶屋を探すのと、モルドゥに見てもらうのとでは、後者のほうがソラ救出の近道でもあるんじゃないか。

 ノマは決心を固めて、口を開いた。


「僕たちはサラマンダーを倒しにいくわけじゃない。目的はティタム鉱石だ」


 ライアンとリリアは静かにノマの言葉に耳を傾けている。


「かなり危険なことはわかってる。けど、僕はティタム鉱石にかけてみてもいいかなと思う」

「でもよぉ、そのティタム鉱石とやらは店とかに売ってねぇのか? 廃坑で採ったことにしてモル爺に渡せば万事解決じゃねぇの」

「……確かに」


 それなら危険を冒さずにモルドゥの依頼を終えることが出来る。ずる賢いが、方法としてはありだ。

 するとリリアが首を横に振った。


「それは無理です。ティタム鉱石は今やイグニドム廃坑でしか手に入れられない、貴重な鉱石です。なので入れなくなった現在はとても高価なものになっています。取り扱っているお店もほとんどないと思います」


 そう上手くはいかないらしい。


「だったら、行くしかないね」

「足手まといにならないよう、気を付けます」

「落ちこぼれチャンはオレたちの邪魔をしないよう努めてくれたらそれでいいぜ。鼻から期待なんかしてねぇ」

「ライアンも下手な真似はするなよ」

「言っとくが、三人の中でまともに戦えるのはオレだけなんだからな! 口の利き方に気をつけろクソ農民!」


 こうして三人の意見が一致した。

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