第23話 一歩前進?

 ロージニアに戻ったノマはリリアにライアンのことを伝えた。

 リリアは、始めは疑心暗鬼の様子だったが、鍛冶屋の前で胡坐をかいていたライアンを見つけると、やっと信じてくれたようだった。


 ノマは鍛冶屋の扉を叩いた。


「モルドゥさん。何度もすみません。シシカ村から来たノマです。少しでいいのでお話を聞いてくれませんか」

「フラマン城から来た魔法使いのリリアです。お願いです、少しだけでも」

「そのやり方じゃ駄目だ」


 するとライアンは扉を荒々しく叩くと、声を張り上げた。


「おい! モル爺っ! こうやって三人で必死に頼んでんだっ! 十分、いや五分でいい。オレらの話を聞きやがれ!」


 それが人……いや、ドワーフに物を頼む態度なのだろうか。いつの間にか親しい感じで呼んでるし。ノマは疑問をぐっと飲みこみ、ライアンに任せることにした。


「頼むぜモル爺! 人助けがかかってんだ。そんな堅物だと、弟子も泣くんじゃねぇか!」


 突然だった。

 扉が大きく開いたかと思うと、奥からノマより背の小さな老ドワーフが出てきた。白い髭を蓄えたドワーフモルドゥは、憤怒の表情でノマたちを睨んだ。凄い迫力だ。

 ノマは思わず後ずさった。あれだけ扉を叩かれたらうるさいだろうし、怒るのは当然だろう。


「お前に、バルの何がわかる。それに、儂はお前みたいな王族が一番嫌いなんじゃ。周りのやつらをただの道具としか思っとらん」

「バルさんというのは、お弟子さんのことですか」


 リリアが身を縮めながら尋ねると、モルドゥはしまった、という表情をした。


「……カッとなると、ろくなことにならんな」

「そのお弟子さんは、今はいらっしゃらないんですか」


 聞きながらも、ノマはモルドゥの様子からだいたい予想がついていた。モルドゥは辛そうに目を細める。


「死んだよ。国に殺されたんじゃ」

「それって──」


 ノマが問おうとしたところで、モルドゥは鋭い眼光を向けてきた。

 恐ろしさに竦み上がったノマは口を閉ざしてしまう。

 モルドゥはノマ、リリア、ライアンへ順に視線を動かした後、諦めたように静かに呟いた。


「ティタム鉱石」

「てぃろむこくせき?」


 ライアンは復唱したつもりなのだろうが、全く違う。


「イグニドム廃坑にある、ティタム鉱石を持ってこい。そうしたら話を聞いてやらんでもない」


 ライアンは嬉しそうに拳を突き上げた。


「任せろっ! オレに出来ないことなんてないからな!」


 凄い。一歩前進だ。ノマはライアンに素直に感謝した。彼の行動力のおかげで、次へのステップに進めるかもしれない術がわかったのだから。


「わかりました。必ず持ってきます」


 モルドゥはちら、とノマを見ると扉の奥へ入って行った。


 ノマたちは鍛冶屋を後にする。

 ライアンは上機嫌だったが、先ほどからリリアが黙り込んでいた。


「リリア、大丈夫?」

「さてはオレ様の手柄に恐れをなしたな、落ちこぼれチャンめ! 褒め讃えてもいいんだぞ」

「いえ……その、気になっていることがありまして」

「モルドゥさんのこと?」


 リリアは目を伏せた。


「モルドゥさんというより、イグニドム廃坑のことです」

「そういや、どこにあるんだろうな? この街の近くか?」

「はい。街から三十分ほど歩いたところにあります。ですが問題はそこではなく」


 リリアは錫杖を握り締めた。


「イグニドム廃坑は、名前の通り今は廃坑となっています。問題は、廃坑になった原因で」

「幽霊でも出たのか?」


 ライアンは冗談めかして言ったが、リリアはくすりともしなかった。


「火を扱う危険な魔物、サラマンダーがいるせいらしいです」


 ライアンとノマはほぼ同時に足を止めた。


「……サラマンダー、って?」


 呟くノマに誰も返事はしなかった。

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