第21話 王子への苛立つ気持ち
ノマはリリアを連れてモガド市場の中心部へ向かった。今日も市場は賑わっている。
「ねぇ、ライアンって、いつもあんな感じだったの?」
リリアと二人になるのは久しぶりな気がする。ノマは歩きながらリリアにこっそり聞いてみた。
リリアは心底嫌そうに顔をしかめた。
「そうですね。いつも偉そうにしていて、わたしのことを馬鹿にしていました。わたしが馬鹿にされるのは仕方ない部分もあるのですが……。対象はわたしだけじゃありません。きっと自分以外の人間を全員馬鹿にしているんだと思います」
とんだ問題児だ。一体どうやったらあそこまで性格が捻くれるのか。
「ライアンにはホフマンさんというお付きの人がいるんですが、いつも疲れた様子でライアンについて行っていました」
「そりゃ、あんなやつを毎日相手にしてたらね……」
会ったことはないホフマンに心から同情する。きっとノマ以上の心労が溜まっているに違いない。
リリアの話を聞いていて、ふと気になることがあった。彼女に尋ねてもわからないかもしれないけれど。
「あいつ、城を出て大丈夫なのかな。その付き人の……ホフマンさん? も、探してるんじゃ」
「そうかもしれないですね。ですが、ライアンが勝手についてきているだけですから、わたしたちには関係ありません」
淡々と言うリリアの表情はぞっとするくらい冷めていた。ライアンにも見せてやりたいくらいだ。そうしたら多少は静かになってくれるかもしれない。
するとリリアは、おずおずとした様子でノマを見つめてきた。
「あの……ソラのことなんですが」
リリアは控えめな声量で言うと、顔を曇らせる。
「……ノマは、どう思いますか」
ノマは立ち止まってリリアの瞳を見据えた。
リリアはソラの安否が心配でたまらないのだろう。正直なところを言えば、ノマもソラについて考えれば考えるほど重い感情に押し潰されそうだった。
けれどここでノマまで落ち込んでいたら、リリアはもっと気持ちを落としてしまうだろう。
「大丈夫だよ」
大丈夫な保証なんてどこにもない。それでも、ノマにはそう言うことしか出来なかった。
「どういう目的でさらわれたのか、まだちゃんとわからないけど、ソラも結構タフだからさ。……僕は、信じてるよ」
「そう、ですね。ですよね」
リリアは自分に言い聞かせるように何度も頷き、胸に手を当てていた。
ノマとリリアはモガド市場の道行く人々に、黒い外套を被った四人組を見かけなかったかと尋ね回ったが、良い情報は一つも得られなかった。
パナぺ売りのログアの露店で昼食を食べた後、二人は再び聞き込みを開始した。
しかし人通りが少なくなる夕刻になっても進展はなかった。
今日はここまでにすることにして、リリアと宿屋『ロージニア』へ向かう。
ロージニアは安くて綺麗でフローガでも有名らしい。パナぺを買った時にログアから聞いた情報だ。
ロージニアの入口の前でなんとライアンと鉢合わせした。彼はノマの姿を見つけると、涼しそうな顔をして話しかけてきた。
「よぉ、どうだったんだ? なにか収穫はあったかクソ農民?」
「……なにも」
ライアンは軽く笑った。
「ま、そう簡単にはいかねぇよなぁ。相手も街を通ったとは限らねぇし」
「ライアンは今日、何をしていたんですか」
リリアが問うと、ライアンは肩を竦めて見せた。
「なにも? その辺をぷらぷら歩いてただけだ。ほんっと、この街は賑やかでいいよなぁ」
「そうですか」
怒っている。リリアはライアンに背を向けて、すたすたとロージニアへ入った。
「落ちこぼれチャンはすーぐ不機嫌になるよな」
困ったモンだぜ、と、にやにやと笑うライアンを見ていると、腹の底が煮えくり返ってくる。
「僕ももう休むけど、ライアンは?」
「あぁ、オレはもう一遊びしてくる。夜の街の方がオレの性に合ってるしな」
ライアンはひらひらと手を振りながら、ロージニアの反対側へ歩いて行った。
別にこちらからソラを一緒に助けに行こう、とライアンを誘ったわけではない。
だからライアンの行動にいちいち腹を立てる必要はないはずだ。時間の無駄でしかない。
でも、わかっているのに、無性に苛立つ。
早く休んでしまおうとノマはロージニアの扉をくぐった。
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