第20話 堅物ドワーフモルドゥ
実はティロムトンは嘘つきなのかもしれない。
彼は嘘を吐くような人柄とは思えなかったが、まんまと騙されたのかも。もしかすると、哀れなノマたちをからかった可能性もある。
ノマはフローガにある鍛冶屋の前で項垂れていた。リリアは隣で座り込んでいる。
ライアンに至っては、もはや罵る元気さえ失くしたのか、さっきから独り言を呟いている。眉間に皺を寄せているので苛立ちが最高潮に達しているに違いない。めんどくさいし下手に触れない方がいい。
フローガの街の奥。モガド市場を抜けた先にある、人通りがほとんどない入り組んだ路地に、その鍛冶屋はあった。
知る人ぞ知る、というのはこういう場所のことを言うのだろう。外観もこじんまりとしている。ノマたちが着いた時には、本当に営業しているのかさえ怪しかった。
ドワーフのモルドゥが営む鍛冶屋は、ティロムトンが言っていたように確かに存在した。
問題はそこではない。ティロムトンはモルドゥのことをなんと言っていたか。
「クッソ、一体あれのどこが、内面親切なんだよ!? ろくに話すらしてもらえなかったぞ!?」
「ドワーフはとても気難しいと聞いたことがあります。わたしは話したことがないので実際はわからないですが……」
「城にいるドワーフはヤツほど偏屈じゃなかったぞ。悪戯をしたら窯に入れられそうになって危なかったけどな」
「どんな悪戯をしたんだよ……」
ノマは力なくツッコむが、ライアンに無視された。
モルドゥへの挨拶の仕方が悪かったのだろうか。しかし一番問題を起こしそうなライアンはノマの後ろにいたし、どこからどう見ても優等生なリリアを先頭にして丁寧な挨拶を試みたつもりだ。
ところが、モルドゥはちらっと髭もじゃの顔を見せて一言、
「帰れ」
とだけ言うと、固く扉を閉ざしてしまったのだ。それからは何度扉を叩いても出てきてくれない。
「なにか失礼なことをしてしまったのでしょうか」
「そんな風には思えなかったけどね。リリアはきちんと挨拶をしていたし」
「なんかよぉ、ドワーフ流の挨拶みてぇのがあったんじゃねぇか? 落ちこぼれチャンはそれをしなかったから門前払いにされたとか。それか、魔法使いが大嫌いとかだったりして」
「そ、そうなのでしょうか……」
リリアはライアンの言葉を真に受けている。これはいけない。
「リリアだけのせいじゃないよ。僕も一緒に挨拶してたわけだし」
「あぁー、クソ共の傷の舐め合いはやめろやめろ。見てるだけで虫唾が走るぜ」
しっしっ、とライアンは手でノマとリリアを追い払う素振りをした。
「じゃあその挨拶ってのはなんなんだよ」
「オレが知るわけねぇだろ。ドワーフじゃねぇんだし」
カッとなりそうになり、ノマは深く息を吸った。言い争いをしていても何も解決はしない。
「これからどうしましょう?」
「モルドゥさんのところには明日また行ってみるとして、これから聞き込みをするのはどうかな」
「オレはいいや」
ライアンが即答すると、リリアが眉を寄せた。
「なんでですか。一緒にソラを助けてくれるんじゃないんですか」
「聞き込みとか、そういうの一番苦手なんだわ。ほら、オレ王子だし? そんなかったるい地味な作業はやりたくねぇっつーか」
「いいよリリア。僕たちだけで行こう」
どうせライアンがいたところで面倒なことになるだけだ。聞き込みは少人数でも出来るし、むしろライアンがいない方がノマとしては好都合だ。
不服そうな顔をしたリリアはライアンを一瞥した後、そうですね、と頷いた。
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