第18話 旅の出会いは大切に

「フゥ、危なかったですねぇ」


 男は両手の力を抜いて、ぷらぷらと手を振った。そしてへたり込んでいるライアンに近付く。


「チョット失礼」


 男はライアンの腕を手に取ると、まじまじと見回した。怪我の状態を観察しているようだ。ライアンの服には、腕の傷から出た血が染みていた。


「──ッ、なんなんだよお前」

「意識はアルみたいですし、血も止まってきていますね。コレならダイジョブダイジョブ」


 男はそう言うと背嚢から皮袋を取り出した。ええと、と呟きながら皮袋から出したのは、手の平くらい大きい草と白い布だった。


「ほんのチョットしみますが、我慢ですよぉ」

「は? しみるって、──ぐうぅ!?」


 男はライアンの腕の服を捲ると、躊躇なく草を傷口に揉みこんだ。容赦なくぐりぐりと押さえられ、チョットどころかかなり痛そうだ。

 涙目になったライアンは散々悪態をついた後、大人しくなった。

 草を揉んだ箇所に白い布を巻き終わると、男は満足気な笑顔になった。


「コレで傷はもうダイジョブ。他に怪我したヒトは?」


 ノマにとリリアは首を横に振った。そしてリリアがおずおずと口を開く。


「あ、あの……助けてくださってありがとうございます。あなたは、一体」


 男は大らかに笑った。


「ワタシは行商人のティロムトンと申します」

「本当に行商人かよ。そんな動きじゃなかったぜ。化け物だろ」


 助けてもらっておきながら、どうしてそんな言い方が出来るのだろう。


「甘いですねぇ。各地を旅する行商人だからコソ、身を守る手段が大切になるんですよ」


 ティロムトンは言い終えると、ライアンとノマ、リリアを順番に見た。


「ところで、アナタたちはドコから来たのでしょう? リャヌサーベルはコノ辺りじゃ珍しくない魔物な上、三人がかりでも倒せないとは。旅人……ではなさそうですし」


 ノマはたどたどしく答えた。


「僕たちは……あ、僕はノマと言います。僕たちは人を探していて、探し始めたところなんですが色々あってこんな事態に」

「そこでなんでオレを見るんだよ! 助けてやっただろうが!」

「ティロムトンさんがいなければ、ライアンも危なかったですけど」

「うるせぇ、突っ立ってただけの落ちこぼれチャンは黙ってろ!」

「こっちがライアン。そしてリリアです」


 ノマが二人を紹介すると、ティロムトンは目を細めた。


「ナルホドナルホド。新人冒険者、といったトコロですね。初々しくて実にイイ」


 冒険者、という言葉になんとなく恥ずかしさを覚えたノマは、話題を変えるためにティロムトンに聞いてみた。


「この辺りで安全に休める場所を知りませんか。僕たちフローガに行きたいんですが、門が閉まっちゃってどうにも出来ないんです」

「残念ながら、近くには安心して休める宿などはありませんね」

「そうですか……」


 ノマが肩を落としていると、ティロムトンは明るい表情でポンと手を叩いた。


「コノ門が開くにはあと八時間はあります。野営をするにも、アナタたちだけでは危険が多すぎるでしょう。どうでしょう、ワタシの天幕を貸しますのでソコで一夜を明かすのは」

「いいのか!」


 ライアンは飛びつくようにティロムトンに近付いた。


「ココで会ったのも何かの縁。行商人はヒトとの出会いを何より大切にしていますので」


 ティロムトンからの有難い提案を拒む理由など、今のノマたちにあるはずがなかった。

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