第14話 わがまま王子は問題児

 短時間だが、ライアンと話していてわかったことがある。


 彼はとてつもなくうるさい。


 妹のソラもうるさい方だと思っているが、彼女よりも更にうるさい。そして口が悪い。とにかく相手を貶す。馬鹿にする。そうしないと気が済まないらしい。

 良い噂が立っていないのも頷ける。全部自分の行いや言動のせいじゃないか。ノマは深いため息をついた。


「おいおい、馬車もねぇのか? まさかここから徒歩でクソ村に行くってわけじゃねぇだろうな」

「歩きだけど」

「まじかよ。どれくらい歩くんだ」

「一時間くらいかな」


 ライアンは顔をしかめた。


「これだから庶民はよぉ」

「嫌なら帰ればいいのではないでしょうか」


 リリアのライアンに対する当たりは淡々と冷たい。


「落ちこぼれチャンは黙ってろ」

「リリアです」


 このようなやり取りが何度も続いている。正直疲れる。かといって、面倒くさいライアンをノマが引き受けるのも気が引ける。さっさと村を見てもらって、飽きたらすぐに城へ帰って欲しい。


「で、落ちこぼれチャンは、クソ村でどんなことやってんだ」

「おうじ……いえ、ライアンには関係ありません」


 不満そうな顔をしたライアンは、ノマに話を振ってきた。やめてくれ。


「落ちこぼれチャンはどんな感じなんだ? どうせ迷惑ばっかかけてんじゃねぇか?」

「リリアの保護者みたいな言い方をするね」


 するとライアンは目に見えて狼狽えた。


「だ、誰が!? オレは城に属する魔法使いが迷惑かけてないか気になってるだけだ! これでも王子だからな。次の王になる可能性もハチャメチャにある」

「多分無理だと思いますが」

「言ってろよ。オレが王になったらまず落ちこぼれチャンの魔法免許ソーサリーライセンスを剥奪してやる」

「そんな法律はありません」

「作るんだよ、オレがッ! なんせ王だからな! 国を統率する者だ!」


 正直、今のライアンが王になれば国の一大事だ。おそらくここにいるノマやリリアだけではない、全国民がそう思うに違いない。ライアン王への反乱が起きて、王の国外追放もあり得るかも。たとえその時が来ても、ノマは一切彼を助けるつもりはない。


 リリアは何やら考え込んだ後、ライアンに尋ねる。放っておいたらいいのにと思う。相手にすればつけあがるだけだ。


「ライアンは、王になりたいのですか」

「いいや?」

「ならないのっ!?」


 当たり前のように即答するものだから、ノマは反射的にツッコんでしまった。


「なるわけねぇだろ。あんなつまんねぇモン。あんなのになるのはよっぽどの物好きだろうが」

「いやでも、今、王になった時の話をしてたじゃないか」

「可能性の話だろ。本気にするなよな、クソ農民」


 ライアンの言い方にかなりイラついたものの、ノマはクワを担ぎなおして平静を保った。


「でも、いずれは跡継ぎになるのでは」

「兄貴と妹がいるからな。どっちかがなるだろ。オレは国の政治とか、平和とか一切興味ねぇしな」

「バーンズ王が聞いたら悲しむな……」

「親父もオレに興味なんてねーよ。お互い様だ。あいつは今、国を大きくすることしか頭にねぇ」


 ライアンの境遇に、ノマは少しだけ同情していた。

 生まれた時から王の息子として育てられ、王族として厳しい教育を受けさせられたのだろう。本人からは微塵も王族らしさは垣間見えないが。本来であれば、農民であるノマが対等に会話を出来るような相手ではないのだ。


 だから多少の失礼や暴言は我慢すべきなのかもしれない。


「ま、それでも現状王子には変わりねぇからな。お前らオレ様を崇め奉れ! こうして一緒にいられるのも奇跡だぜ。本来なら土下座してでも出来ねぇことなんだからな! 喜びやがれッ!」


 撤回。


 ライアン相手に我慢は難しい。いや、無理だ。そのうちクワで頭を勝ち割ってしまうかもしれない。

 だがそうなると王子虐殺の罪でノマはきっと一生牢獄の中だ。もしくは処刑の可能性もある。こいつのせいで一生を棒に振るのは末代までの恥だ。


 ノマはライアンの言葉を無視し、シシカ村までの道のりを急いだ。

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