第11話 彼女の悩み

 突然何の話なのか。


 ノマが返答に困っていると、リリアは言い難そうに数回口を開け閉めしてから続けた。


「サロさんの養鶏場の件で、改めて痛感したんです。落ちこぼれなわたしには何も出来ないんだって」


 あの時確かにリリアは、サロの言葉に傷付いた様子を見せていた。だが、その後は城へ向かうまで普段通りのリリアだったので、ノマは特に気にしていなかった。


「わたしには、魔法の才能がありません。魔法使いなのに空も飛べません。魔法学校の試験に合格出来たのも奇跡に近くて。なのに、ノマやソラ、他のみなさんはわたしに優しくしてくれます。城ではこんなことありませんでした。いつもからかわれてばかりで」


 リリアは自嘲気味に薄く笑った。


魔法免許ソーサリーライセンスを取って魔法使いにさえなれば、そんな自分も何かが変わるんじゃないかと思っていました。何より魔法使いになることがわたしの憧れでしたから。ですが、当然のことながら、現実はそう甘くはありません。それでも、ノマはこうして落ちこぼれなわたしを元気づけようとしてくれます。……本当に、助けてもらってばかりです」


 ノマは、はっきりとリリアに告げた。


「僕にとっては、リリアは落ちこぼれなんかじゃないけどね」

「え?」

「そもそも、魔法が使えるって時点で凄いことだし、才能だと思う」


 上手く伝えられるだろうか。口達者な方ではないので、かえってリリアを傷付けてしまわないだろうか。ノマは言葉を選びながら、自身が思っていることを正直に伝えた。


「なんていうか……今の話を聞いて確信したよ。リリアは、僕が今まで出会った人の中で一番の努力家だ。自分の欠点がわかるってことは、治したい点もわかってるってことだよね。それって凄いことだよ。僕なんかそこまで真剣に自分と向き合ったり、自分自身のことを真面目に考えたこともない」


 ノマは学校がどういうところなのか知らない。リリアの苦労も知らない。

 それでも、夢を叶えようと必死に努力をしてきた彼女の姿はとても素晴らしいと感じた。かっこいいと思う。


「今はまだリリアの魔法の能力は低いのかもしれないけれど、僕がリリアと一緒にいる上で、そんなことはこれっぽっちも関係ないよ」


 魔法使いとしてのリリアも尊敬しているけれど、それとは関係なく、ノマはリリアと過ごす時間が楽しい。そこまで言えば引かれるかもしれないので、そっと胸の内に秘めておいた。


「ありがとうございます……ノマ」


 リリアはきゅっと膝の上に置いた錫杖を握った。それから小さく微笑む。

 どこまで力になれたかはわからないが、リリアが少しでも元気になってくれたようで安心する。


「ソラだってきっと、僕と同じことを言うと思うよ」


 ソラがこの場にいれば、もっとリリアを元気づけられたかもしれない。明るさだけが取り柄のやつだから。


「ソラ、一緒に来れなくて残念ですね」

「あいつが一緒だと賑やかなんだけど、いらないものまで買うって言うからなぁ」

「ノマとソラは仲良しですよね」


 リリアは目を細めて微笑んだ。


「昔は喧嘩ばっかりだったけどね。今でもたまに。基本的にうるさいから」

「わたしは一人っ子なので、兄妹が羨ましいです」

「いたらいたで、大変なことも多いよ」


 ノマが苦笑していると、リリアは優しい笑みを浮かべた。

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