第4話 星空を君と

 リリアを含めた五人での初めての夕飯を終え、ひと段落ついたノマは家の外へ出た。

 あんなに賑やかな夕飯は生まれて初めてだった。終始ソラが喋りっぱなしだったが、リリアも会話を楽しんでいるようで安心した。二人が仲良く出来そうなのはなによりだ。この村にいるのは一ヶ月ほどとはいえ、リリアには少しでも良い環境で修行に励んで欲しい。


 今夜は星が綺麗に出ている。僅かにひやりとするが気持ちの良い気温だ。

 ノマが畑の柵にもたれていると、リリアも家の外へ出てきた。ノマを見つけたリリアは、小走りで駆け寄ってくる。


「あの、ノマさん」

「ノマでいいよ。しばらく一緒に過ごすわけだし、気を遣わなくていい。僕もそうする。リリアさんが不愉快じゃなければだけど……」


 いきなりで馴れ馴れしいかもとは思ったが、ノマとしてはリリアに気を遣って欲しくはない。

 ウルマとアダの前だとまだ緊張するだろうし、年が近いノマやソラの前では少しでも気楽にいて欲しい。ソラはノマよりも積極的な性格をしているので、心配しなくてもいいだろう。きっと明日からはリリアのことをあだ名で呼んでいる気がする。


「不愉快だなんて、とんでもないです! では……ノマ。わたしのことも、リリアでいいですので」


 拒絶される様子はなく、リリアは朗らかに言った。ノマとリリアは軽く笑いあった。

 ノマから少し離れた距離に立ったリリアは、ふう、と息を吐いた後、空を見上げた。


「あ……星がよく見えますね」

「リリアが住んでるところでは、あんまり見えない?」

「外灯が多いのでここまではっきりとは。それに、ゆっくり空を見上げる時間もあまりなかったので」

「そうか、魔法使いは忙しいんだね」

「忙しい……まぁ、そうかもしれません」


 微かに言い淀んだリリアは目を伏せて口を閉じた。

 意味深だったが、触れられたくないことなのかもしれない。リリアの様子が気にはなったが、ノマはそれ以上追及しなかった。


「ノマ」


 名前を口にした後、リリアは真っ直ぐノマを見つめてきた。そして自分の胸に手を当てる。


「わたしをこの村に迎えてくれて、ありがとうございます。村のお役に立てるよう、精一杯頑張りますので」

「あまり気負いせずに。まだ始まってもないんだから、最初からその調子じゃ疲れちゃうよ」


 ノマが苦笑すると、リリアは恥ずかしそうに肩を竦めた。


「そう、ですよね。本当にお力になれるかもわからないのに、わたし……」

「何かあったらいつでも言って。村のことは父さんとまでは言わないけど、ある程度知っているつもりだし。ソラもうるさいけどいいやつだ。僕も、リリアの力になるよ」

「ありがとうございます。助かります」

「その代わりと言ってはなんだけど……」


 ノマは首を触りながらリリアに伝えた。

 小さなシシカ村に魔法使いがやって来るなんて、こんな機会、きっともうないだろう。

 だからこそリリアとの出会いを大切にしたい。


「もっと魔法や魔法使いのこと、教えて欲しい。知りたいんだ」


 リリアは薄桃色の髪を揺らして微笑んでくれた。


「はいっ! 喜んで」

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