星の力
三つの月のうちの二つが昇り、マリンゴートの草原の草に夜露が下りるころ、その時間になると時々夜空に虹がかかる。月虹だ。強い草原の風に飛ばされた草の露が舞い上がるためだ。
そんな暗い夜の草原の草は、夜露を吹き飛ばした乾いた風を受けていた。普通に歩く分にはそんなに濡れる心配はない。二人の人影がその草原を歩いていた。
遠くに教会の森、そして先には黒くそびえたつ山脈を見据えて、草原の背の高い草をかき分けていた。
一人が、ふと、地面に膝をつき、草の間から土に手を触れた。生暖かい感触とともに、何か得体のしれない大きな力を感じる。これはこの星に秘められた力だった。
「先生」
一人が、不安げに呟く。ケンだった。
地面に手をついていたナギが立ち上がる。相変わらずの苦笑いをして、ケンのほうを見た。
「この星には月が三つある」
ナギは、遠くを見た。
「その月のシリンのうち、二つは見つかっているんだが、第三の月は見つかっていない。でもとりあえず、第三の月が近くにいることだけは分かったよ」
「第三の月が近くに? それだけ分かれば凄いじゃないですか。すぐに神父さんに知らせましょう」
「待て」
喜びに舞い上がったケンをナギが制止した。
「もしかしたら、中央で洗脳されている市民の中にいるかもしれないんだ。そう簡単には喜べないよ」
「そんなぁ」
ケンが落胆して肩を落とした。こういうとき、彼の感情表現の豊かな部分はナギの救いになった。特にナギに対して見せる彼の表情は周りを明るくした。
ナギは、もう一度、今度は両手で地面に触れてみた。
「何をしているんです、先生?」
ケンが問いかけてくる。ナギは何も答えずにただ地面に集中し、そこから得られる情報の処理を脳に送り込んでいた。
惑星と直接つながることのできる地面は、シリンが生まれ、人の意識が交錯する「静かなる自然の環」に一番近い。そこから得られる情報は多かった。
ナギは、しばらくして立ち上がり、安心したように体の力を抜いた。
「ケン、安心しな」
そう言われたケンが、不思議そうにナギを見た。
「この大地は、意外としたたかだよ」
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