警告する暗殺者
「一週間」
メティスの執務室を出て、廊下で二人きりになったケンとナギは、何となく重い空気を感じながら静かに歩いていた。
教会の廊下は長い。そのうえナギとケン以外に誰もいない。小さな声であればほかの誰かに聞かれてはならない話でもすることができた。
「先生、いいんですか」
「いいんだよ。腕の立つ医者がいれば、それに越したことはない。神父さんの知り合いならなおさらだ。おそらくは伝説の名医、オルビスの弟子であるアイツだろうから。どのみちアースが帰還して一旦ここの空間を安定させないことには、あいつと私は共存できない」
ナギのその言葉に、ケンは不満そうに口を膨らませた。
「でも、それじゃ僕とナギ先生は一緒に仕事できなくなるじゃありませんか。僕は医者を目指している以上、先生のような方の下にずっとついていたいんですよ」
「そうかい」
そう言って、ナギは笑みをこぼした。しかし、その瞬間、突然歩みを止め、ケンをさがらせてふう、と、ため息をついた。見ると、ナギのその瞳は緊張を帯びていた。
「かかってきな、暗殺者とやら」
ナギの言葉に驚くケンを庇いながら、彼女は緊張した声を放った。
すると、ナギの前に三人、ケンの後ろに一人の暗殺者が音もなく現れた。
「シリウスの撃ち損じじゃないね、新手かい」
ナギは何も得物を持っていない。素手で暗殺者と対峙していた。ナギの実力を知るケンは怖くはなかったが、それでも暗殺者の殺気には気圧されていた。
「神父メティス」
暗殺者の一人が、勝てない、逃げられないと悟ったのか、襲いかかる前に呟いた。
「覚えておけ、次は神父の命を頂く」
そう言って、四人は一斉に襲いかかってきた。ナギはケンを振りまわしながら、見事な足技で暗殺者の武器を奪い、華麗な舞いに似た動きで暗殺者を一人一人片づけていった。ナギの舞が終わるころには、気を失った四人の男がそこに倒れていた。ケンはナギの指示で、先程の暗殺者の言葉を神父に伝えるために走っていった。
メティスは呼ばれるとすぐに駆け付けた。シリウスもついてきていた。
「次は私の命を狙う、と」
四人の男たちを眺め、教会の警備隊が来るのを待ちながら、メティスは呟いた。ナギが神妙な顔つきでメティスを見ている。一週間と神父は言った。しかし、実際にはもうそんなに時間はないのかもしれない。何かが動き出している。そして、暗殺者の裏に感じる何かの不思議な感じ。先ほどから感じ始めていたこの星の命に係わる感触。おそらくこれは、神父も感じることだろう。
「神父さん、時間がない」
ナギが、真剣な顔つきで神父を見た。今までで一番切羽詰まった顔だ。ナギにしては珍しい。焦っているのだろうか、ケンが不安そうにナギを見た。
「決断は一つに絞られたようだね」
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