第6話 教育


「母上。ミラージュは、、、」


「いいのですよ。王太子。貴方の相手としてミラージュは相応しいわ。そもそも貴方が、何年も婚約者を決めないから王太子婚約者候補選別会なんて意味が分からない会が開かれるようになったのよ。貴方に美しい婚約者がいると分かれば何の問題もありませんよ。」


「王妃様。ですが私の身分は貴族ではありません。認められるはずがありませんわ。」


「大丈夫ですよ。貴方には貴族の血を引いている面影があります。その黒髪はローニャ侯爵家の血筋の証です。紫色の瞳はギガリア公爵家の子孫にしか現れませんから、子孫が潰えたローニャ侯爵家の養子になればいいわ。あの家の老いぼれは最近必死に孫娘を探しているらしいわ。黒髪の娘の貴方を喜んで養子に迎え入れるはずよ。」


ミラージュは、王妃の真剣な表情を見た。


王妃は、いろいろ考えているようだ。


そして、王妃は笑って言った。


「そうね。これから忙しくなるわ。やっと息子の結婚式を開催できると思うと、とても嬉しいわ。でも、ミラージュには頑張ってもらわないとね。王太子妃になるのですから。」


グランは、ミラージュを強く抱きしめてくる。

「母上。まだ、結婚式を挙げるとは、言っておりません。」


王妃は、王太子を睨みつける。

「あら、まあ。貴方が言っていたのは、ミラージュの事でしょう。一目惚れした美しい娘がいるから、婚約者を決めないと言っていたのは。」


「それは、婚約者を決めないのは、王国に不穏な空気があるからで。」


「いいえ。愛が理由なはずよ。貴方だってさっき告白していたじゃないの。愛は偉大だわ。私と陛下だって愛があるから結婚したのよ。私の息子は、愛を理解しない冷血漢だと心配していたけれど、まさかこんなに可愛い娘と出会っていたなんて本当に良かったわ。ふふふ。陛下にも伝えないといけないわね。ミラージュは、立ち振る舞いや仕草、礼儀作法は良く出来ています。貴族にも劣らないかもしれないわ。きっとお母様がしっかり教育されていたのね。」


ミラージュは、亡くなった母を思い出しながら涙目で頷いた。


「母は、祖母に躾けられたと言っていました。王妃様、私は何をすればいいのでしょう。それでグランの側にいられるのなら。」


「明日から忙しくなるわ。王太子妃候補を教育するための教師たちは数年前から城で待機しているのよ。やっと仕事が出来ると喜ぶでしょうね。」


「母上。まさか、あのカルキュラムをミラージュへ強いる訳ではありませんよね。あれは拷問に近い。それに、俺がミラージュに会う時間が無くなります。」


「まあ、貴方が婚約者を決めないからどんどんハードスケジュールになったのですよ。たったの1ヵ月です。本当に良かったわ。来年の建国祭までに間に合うかしら。王太子。貴方は王国の不穏な空気とやらを何とかなさい。いい加減殿下も諦めたらいいのですが、本当に蛇のように陰険で嫌な男だわ。」


ミラージュは訝しく思いながら尋ねた。

「殿下?」


グランは、バツが悪そうに言う。

「ああ、叔父上の事だよ。次期王には王弟である自分が相応しいと影で言触らしているらしい。貴族達の一部には叔父を支持する勢力がいる。大丈夫だ。ミラージュの事は何があっても俺が守るから。」


王妃はうっとりと抱き締め合う二人を見ながら言った。

「愛だわ。これが真実の愛。夫に伝えないと。いいわ。うふふふ。」










翌日から白の離宮で、厳しい王太子妃教育が始まった。本城から訪ねてきた3人の教師たちは、ミラージュに沢山の試験を課した後で、ミラージュ専用のカルキュラムを作り上げた。朝5時に起床し、教養学、歴史学、統治学、統計学、経営学、福祉学、流行学、ダンス、ビリヤード、乗馬、ポーカー、ウノ、トランプ、誘惑、四八手を叩き込まれる。


教師の一人アッカーソン夫人は言った。

「王妃様の言われていた通りですわ。王太子様が選ばれた方がとても優秀で美しい方で良かったですわ。」


ワンガ教授も長い髭を触りながら言う。

「本当ですね。町娘として暮らしていたローニャ侯爵家令嬢とお聞きして心配しておりましたが、すでに基本的な事は学ばれているみたいですね。私も応用学をお伝えできれば役目を終える事ができそうです。」


ザッカー支配人は、浅黒い顔で笑い、真っ白な歯を輝かせながら言った。

「ええ、そうですな。我々を役立たずと見下してきた貴族達や、融通が利かない王太子には負けない腕と技術を必ず仕込んでみせますぞ。」


同席していたミラージュは、困惑しながら言う。

「先生方。お手柔らかにお願いします。」

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