イーブン・フレンズ ②

(いない……いない! この部屋はハズレか!)


 時に、西暦2023年7月。

 長野県まつもと市にある“あいつら”の本部ビルに、私は単身突入していた。

 さくらを助け出すために、“あいつら”と同類の存在――そう、魔法使いとなって。


(さくら、どこにいるの? いるとすればもうこの本部以外はありえないはず……!)

【ひなの! 背後から警備ロボット接近、数フタ!】


 の声が頭の中に直接響く。

 それからほとんど間を置かず室内をマズルフラッシュが照らす。“あいつら”の配備している違法改造警備ロボットが散弾銃ショットガンで撃ってきたのだ。

 一般人ならばひとたまりもなく蜂の巣にされていただろう――だが魔法使いである私にそんな攻撃は通用しない。

 逆手に持った愛刀に魔力を流し込み一閃、斬撃によって生じた魔法の真空波で全て撃ち落とす。

 さらに勢いのままロボットとあいを詰めて反撃。すれ違うと同時にそのジュラルミン製の胴体を斬り裂いていく。


【……ひなの、気持ちは分かるけど寄り道は慎んで】


 スクラップと化したロボットを捨て置いて階段へ走っていると、管制官が頭の中に語りかけてきた。


【今は本丸の制圧が最優先。大将首を取ることを考えて】

【ごめん……分かってる】

【ならよし。……階上に魔力反応ヒト、属性はそうもく。〈クサムスビ〉に気をつけて!】


 言われたそばから緑色の光が視界に入ってくる。

 光源は階段の上だ。黒いレディススーツを着た女の魔法使いがこちらに杖を向けている。その先端には緑色の魔法陣が浮かび上がり、今にも魔法を発動しようとしていた。

 クサムスビが来る。相手の足に植物を巻きつかせて転倒を誘う、初歩的だが厄介な魔法だ。

 足元にばら撒かれていた種子が発芽し、魔法の作用で一気に成長してくる……!


(その手は喰わんッ)


 タイミングを見切って床を蹴り、ツタを避けながら一気に女へ飛びかかる。

 そして杖を持った右腕を肘から斬り落とす!


「ぐううッ……!?」

「こいつも持ってけッ!」

「ッ、うああぁぁああッッ!?」


 振り下ろした刀をそのまま斬り上げ、女の脇腹から左肩をさかに裂く。

 深手を負ったスーツの女はこちらを恨めしげに睨みつつも後ずさりしていく。

 私は刃についた血を振り払ってから歩み寄り、奴の胸ぐらを掴んで階下へと投げ落とした。

 うめごえと衝突音とが一定の間隔で聞こえてくる。もう動くことはないだろうが、死んでもいまい。

 いやしくも魔法使いならばこの程度で死んだりしない。


 そう。

 “魔法使い”とはこういうものだ。

 銃弾にすら対応可能な身体能力、高次元のエネルギーを操り事象を捻じ曲げる技能、そして不死身に近い生命力。

 魔法使いはこれら全てを併せ持つ。たとえ訓練された軍人でも、常人である限り魔法使いには決して勝てない。

 だからこそこの特務機関が存在し、魔法使いの犯罪に対処している。

 私はその一員となって、ずっと機会を待ち続けていた――さくらをさらったこの組織を潰し、彼女を助け出す機会を。

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