4.青春とシリウス
「こんにちは、岸辺湊です。僕は現在、国際宇宙ステーションで、他の国の宇宙飛行士たちと共に、様々な研究や実験をしています」
今日は地球と通話を繋いで、宇宙に関心がある子ども達の質問に答えるイベントが行われていた。小さい頃は何度も地球で見ていたものが、まさか今度は答える側になるだなんて。無重力空間で浮きながらくるりと一回転してみせれば、ビデオ通話で見える子どもたちは笑顔になる。気分はちょっとしたスターみたいだ。
早速子どもたちからの質問が始まる。宇宙って一体どんなところか、宇宙飛行士になるにはどうすればいいか、どんな研究をしているのか、など。夢見る少年少女たちは、素直に疑問をぶつけてくる。その中に、このような質問があった。
『岸辺さんは、どうして宇宙飛行士になりたいと思ったんですか?』
そのとき、僕は十数年前のことを思い出した。あの夏の日、僕は何故か海岸に倒れていて、目が覚めたのは夕日がもう間もなく沈む頃だった。たまたまそこを通りかかったおじさんに声をかけられ起きたが、その日は何をしていたか、そもそもどうして海に来たのか、一切覚えていなかった。
僕は七歳くらいの少年の質問にこう答えた。
「小さい頃から僕は、宇宙のことが好きでした。なので宇宙飛行士になりたいって考えていたんですが、高校生くらいになると現実味がないように思えて、一度その夢を諦めたんです。僕なんかがなれるはず無い、って」
ただ、一つだけ覚えていたことがあった。あのとき誰かと手を握って、約束をしたことを。消えかけていた夢を、誰かが灯して思い出させてくれたことを。
「そしたらその頃に、あまりはっきりとは思い出せないんですけど、誰かと約束したような気がするんです。宇宙飛行士になって会いに行くって。諦めてぼんやりとした気持ちを、晴らしてくれた人がいたような気がするんです。もしかしたら、僕は宇宙人と約束したのかもしれませんね」
少年の瞳は、星空のように輝いた。宇宙と未知を夢見た少年時代の僕と重なった。
質問会を終えて、ふと窓を覗く。僕の故郷は、今日も美しい群青色をしていた。これが暫く見られないとなると、少し寂しくなる。
明日、僕は国際宇宙ステーションから有人探査機『おおいぬ』に乗り、宇宙を巡る旅に出る。
「もしもし、聞こえていますか。岸辺湊、三十二歳。地球という惑星の宇宙飛行士です。十七歳の僕と約束した、宇宙のどこかの貴女へ。もう一度、今度は僕から貴女へ会いに行きます。いつになるかは分からないけど、待っていてください」
あのときと同じ方法で、僕はメッセージを発信した。
第四惑星スーアより キヌヱ @deer_gauze
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