2 腐乱死体の校内行脚


「時に仮契約者様は学生なのでしょう? 学校に出なくてもよろしいんですの?」

「なんで悪魔なのにそんなに常識的なんだよ、行くわ!」


 流石は人間界検定二級の実力者だな、色々あって忘れてたから助かるわ。

 

 言い放ちつつも阿沙賀、いつの間にやら寝巻から学園制服に早着替え。

 ……目の前に少女――少なくとも外見と性根は――がいるのでスラックスは寝巻の上から履いた。

 ハーパンだったため多少なりノーパンをカバーしてくれている。気がする。


 あとはカバンを片手に引っ掛け、阿沙賀は玄関へ。


「んじゃ行ってくる――」

「わたくしも行きますの!」

「なんでだよ、来るなよ、部屋にいろよ」

「あまり仮契約者様と離れるのは推奨されませんわよ? というかわたくし、学校というものに行ってみたく思いますの」


 立ち止まり、阿沙賀はじろりとなにやら喜色満面で心躍らせる御姫様を見遣る。


 花のように綻んで、小鳥のようにさえずって、麗しきを体現した少女そのものと言える。

 その可愛らしく度し難い振舞いは誰もに軟化をもたらし、どんな我が儘でも苦笑で許したくなるような甘やかな強制力を持っているように思えた。


 阿沙賀は冷めた光ない目つきで一言。


「ダメだ」

「どうしてですの!」

「明らかに目立つ部外者ァ」


 きらきら輝くご令嬢。

 華美なドレスにお美しいかんばせ、ツーサイドアップ銀髪。これで目立たないはずがない。


「そんなやつ連れてけるか、面倒メンドクセェ」

「いえ! わたくし人間如きでは視認できないようになる魔術とか使えますの!」

「ナチュラルに人間を下に見てるよな、オメェ」


 言葉の端々からそういうの伝わってくるからな?


 とはいえ発言そのものには要望に対する一考の余地がでてくる。

 ふむとすこし悩む素振りを見せれば、ニュギスは見上げるように顔を近づける。意識せずに上目遣いであり、おねだりに慣れた所作である。


「わたくしが悪魔であることは認めてくださったのでしょう? でしたらそういう常識の外の術技を用いてもなんら驚くにも値しないはずでしょう?」

「まァ、そりゃそうだけどよ」

「では構いませんわね! 召喚士を見つけるのに、わたくしの力が必要なはずでしてよ?」

「ち。好きにしろ」

「ええ、好きにさせていただきますの!」


 本当に綺麗に笑う少女である。嬉しいという気持ちが眩しくって、見ているこっちが目を背けたくなる。

 

 さておき、というわけで学生の悲しき宿業、毎日の勉学に精を出すべく登校せねばならない。

 たとえノーパンであっても!

 たとえノーパンであっても!

 ――くそァ!


 悪魔の同伴はすでに割り切っている阿沙賀であった。


 玄関を抜けて外へ。

 広い学生寮の廊下を進み、エントランスを超えればそこはもう学園敷地内。

 登校する多くの学生たちに混ざって、阿沙賀も歩を進める。


 のだが。


 制服の下がやはりすーすーする。

 ぶら下がっているスティックを押さえてくれるものがないから歩く度に自在に踊ってやがる。なんて悲しいことか。


 一方で、とぼとぼと歩く阿沙賀の横にはふわふわと浮遊しながらついてくる上機嫌な少女がいる。

 ニュギスである。


「オメェ、なんで飛んでんの。歩けよ」

「わたくしのような高貴な者が地べたに這うような真似、できるはずがありませんの。というかこのヒール、歩くためのものではありませんし」

「どんなヒールだよ!」


 そんなにハイなの? 悪魔的なの?

 というかヒール込みでその上背で、さらに常に浮いてることを踏まえると、実は結構体型ロリィのか? いやでも出るとこ出てるし、女性とすれば低身長というわけでもない、か?

 というかそもそも悪魔の外見とお歳は相関関係にあるものなのか?


「…………」

 

 数多の不可解にツッコミを思う阿沙賀であった。

 その部分を口にしなかったのはまだ思慮が働いていたのだろうが、それ以前の会話は当然口から発している。


 言ったようにニュギスは不可視の隠形を施している。余人に姿は見えず声も聞こえない。

 つまり客観的視点において阿沙賀はひとりで叫び散らかしているようにしか映らないのである。

 多く同じ制服を着た学生からうるさい阿沙賀に冷めた視線が突き刺さっているが、当人は気にしちゃいない。


 むしろ不可視の悪魔のほうがちょっと申し訳なさげ。


「……あの、仮契約者様は本当に物怖じしませんのね。わたくしの姿は余人には映らず、声も届いておりませんので……仮契約者様は独り言痛々しい人になっていましてよ?」

「だからなんだボケ。ンなこたどうでもいい」

「強いお人ですのね」


 割と真剣に感心するニュギスである。

 そのころには下駄箱につき、靴を履き替え、学園に踏み入る。


 ここは大江戸学園。

 その敷地は広大無辺、六階建ての校舎だけでも並みの学校五つ分はあるだろう。

 学年ごとに二十数個のクラスがあって、特別教室もそのぶんだけ複数存在する。

 体育館は四つ、食堂と購買部も三つずつ。田舎の大学もかくやといった具合で、不慣れでは迷子になりかねない。

 阿沙賀は学園敷地内の寮生だが、その寮から自分のクラスまで辿り着くのに二十分はかかると言えば校舎の広さもわかるだろう。

 

 その巨大校舎の廊下を練り歩き、阿沙賀は自分のクラスである二年二組を目指していく。

 勝手知ったる通いの道、阿沙賀は特段に熱量なく歩くも、一方ですべてがはじめて見るニュギスは些か以上に楽し気だ。

 未知の土地、見知らぬ建造物、誰とも知れない通行人――彼女にとってはすべて新鮮な異世界旅情といったところか。

 楽しむために召喚に応じたというだけあって、些細なことにも目を輝かせてあちらこちらと視線が躍る。


「広いですのね、わたくしの暮らすお城には及びませんけれど」

「城と比べられてもなァ」

「ただ、お城よりもずっと人の数は多くて、眩暈がしそうになりますわね」

「なんで眩暈だよ、お前にゃ人間が発光して見えンのか?」


 闇に生きる悪魔は地上の人間がまぶしい的な……?

 いえ、と否定し、ただ瞳ばかりはまさしく眩し気に細めて。


「ただたくさんの命があることに……ええと、すごいなぁと思いましたの」

「感想が子供ォ」


 空が青いとか、海は広いとかそういうレベルの感想である。

 呆れた物言いにニュギスは声を荒らげて強く否定を。


「こっ、子供ではありませんの!」

「言葉遣いと物腰は丁寧で上品だけど、オメェなんかポンコツ気味だよなァ」

「ポンコツでもありませんの!」


 ぷんすかわかりやすく怒る。

 余計に子供っぽいとは思うも、それを指摘するとまた面倒になるのは目に見えていて。

 それ以上は口を閉ざして前を向く。

 

 もう目的地に到着だ。

 後ろで悪魔がうるさいが、ともあれ学生として今日も元気にやっていこう。

 阿沙賀はスライドドアに手をかけていつものように勢いよく開く。



 ――教室はゾンビで溢れかえっていた。



 ぴしゃりと阿沙賀はドアを全力で閉めた。

 それから無言のままに天井を眺め、三秒ほど思案して腕を組み、首を右に傾げ、左に傾げ、見間違えだと結論を出す。

 もう一度スライドドアに手をかけ、むしろ勢いよく横に開く。



 ――教室はゾンビで溢れかえっていた。



 ぴしゃりと阿沙賀はドアを全力で閉めた。

 流石に二度も進行の阻害をされると疑問が噴き出る。

 後ろからニュギスが阿沙賀の横合いにまで寄ってその行動の不明を問う。


「なにをしていらっしゃるのです?」

「いや……いや、たぶんおれは疲れてるんだろうな。悪魔がどうとか急に降って湧いてさ、いつも使わない部分の脳みそが急な稼働に変な挙動になってンだ……」

「? なんですの?」

「ドアの先がおれの知ってる教室じゃないんだ」


 直言だけは避けつつ正直に白状するも、当然にドアの向こうを見ていないニュギスには伝わらない。首を捻るばかりだ。


 そして、彼の後ろにまでやってきていた同級生もまたまるで不明で怪訝になる。


「阿沙賀、なに教室の前で立ち止まってるんだ、早く入りなよ」

「……大河内おおこうち


 振り返れば眼鏡をかけた神経質そうな少年、大河内くんが困ったように待っていた。

 同じクラスなため、阿沙賀がドアの前に立っていては道を塞がれる形になってしまう。


 理屈っぽくて内気、眼鏡かけてて頭よさそう。というか普通に成績は学年上位。

 ふむ、と同級の友人のスペックを思い起こし、状況と照らし合わせ、阿沙賀は無言でドアの前からどいて道を譲る。


 どうぞどうぞとジェスチャされても、大河内には意味がわからない。

 ともかく立ち止まっている不毛を思い出し、大河内が前に出る。ドアを開く。



 ――教室はゾンビで溢れかえっていた。



「は?」

「あら」

「うそァ」


 大河内は目を疑い、ニュギスは軽く笑んで、阿沙賀は天を仰ぐ。

 三度も現実としてそれを目の当たりにしては、阿沙賀と言えどももはや気のせいとはしておけない。

  

 ゾンビである。

 教室中、制服を着た腐乱死体が如き亡者どもでいっぱいだ。

 なにか唸り声を嗚咽のように漏らし、目は虚ろ。肉は薄く、頬はこけ、不健康極まりない青白い顔つきでふらふらと歩き回っている。


 言葉をなくす阿沙賀とニュギスであったが、一方で大河内は真実を理解すればむしろテンションをぶちあげて叫ぶ。


「ぞっ、ゾンビだ! ゾンビじゃないか、すごい!」


 なにを気の狂った歓喜に満たされているのか、大河内はカバンを放り投げて走り出す。

 教室の中に向かって。


「うぉおー! この世にゾンビは実在した! どういうことだ、誰かぼくに説明をしろぉぉお――!」

「いや、待て馬鹿! そこでなんで踏み込むんだよ、怖気づいて!」


 叫びながらゾンビパニックになっている教室に突貫する大河内。

 阿沙賀でさえ常識的な発言をしとるというに聞いちゃいない。

 そしてまったく予想通りに群れるゾンビのクラスメイトに囲われ、襲われ、噛みつかれる。


「ぐぉお……!」


 定石通り、ゾンビに噛まれた者もゾンビと化す。

 大河内の健康的な肉体は見る間に変異し亡者に成り下がる。


「うわァ、見事なミイラ取りがミイラ……」

「いえもうすこし焦りませんか!」


 今目の前でクラスメイトがゾンビになったんだけど?

 というかクラス中がゾンビなんだけど?

 そも悪魔を隣に侍らせてるんだけど?


 ――もうすこし慌てふためいて!


 阿沙賀としては自ら突っ込んで行った時点でもう割とどうでもよくなっていた。

 冷淡というか呆れかえった風情でぶん投げる。


「まァありゃ本望だろうし放っておくとして」

「それでいいんですの!?」

「いいんだよ、それよりも――」


 よたよたと低速ながらも迫りくるゾンビたち。

 よく見れば阿沙賀にはそれらが昨日まで共に同じクラスで過ごしたクラスメイトであることがわかる。 

 顔見知りであり、知人であり、遠からぬ他者。

 その成れの果てのゾンビ姿は非常に痛切、同情心が溢れても道理であろう。


 いや、唸りながら縋りつくように手を伸ばされても困るぜ。


「とりあえず逃げるかァ!」


 ばっと反転、阿沙賀は全速力で廊下を走って逃げる。

 すぐにニュギスも飛行速度をあげてそれに追従、あれらは姿を隠している自分にも触れうると知っている。


 するとすぐに気づく。追いかけてこない――いや、追ってはいる。ただ遅すぎる。


「お、あいつら走れねェらしいな、ロメロゾンビだ!」

「ろめ……なんですの?」

「走らないゾンビの区分だ」

「ぐぉぉおお!」

「いや走ってるのいるな、大河内ゾンビ!」


 他の奴らはノロノロと歩いて追いかけてきているが、ひとりだけなんか妙に元気に疾走している。

 さっきゾンビになったばっかでフレッシュさが残っているのだろうか?


 あれは追いつきかねない――阿沙賀は急停止ののちに百八十度反転。


「え」


 拳を握り、思い切り。


「おらァ!」

「ちょ、仮契約者様!?」


 大河内ゾンビを殴り飛ばす。

 大河内ゾンビは軽やかに吹き飛び、後ろでもたついていた他のクラスメイトゾンビたちに飛び込む形となる。ボウリングならストライク、全員まとめて足止めだ。


 会心の一撃に、阿沙賀は満足そうに頷く。


「よし」

「よしじゃありません!」


 ニュギスは叫んだ。

 とんでもない暴挙に嬉々として乗り出した阿呆に怒声を上げた。


「あからさまにまずい相手を殴らないでくださいまし!」

「でも叩けば治るもんだらァ?」

「ブラウン管テレビと人体を同列に扱っておられる!?」

「似たようなもんだろ」


 なにもわかっていない。

 結構なピンチであったのに当人が無頓着すぎて横のニュギスが勝手に騒ぎ立てているこの構図がまた腹立たしい。

 なにがピンチであったか――


「下手をすれば仮契約者様もゾンビになっていたのですよ! わかっておられますの!?」

「いやでもゾンビは噛まれて死ぬか感染するかでなるもんだし、顔面は避けてレバーブローにしといたぞ」

「そういう問題でして!?」


 妙な部分で冷静である。

 いやトンチキなのも事実で評価しがたい。


 阿沙賀は言い合いながらも目線は殴った大河内ゾンビへ向いたまま。

 吹っ飛んだ大河内が治っていないことをしっかりと確認してから――割とマジで治らないかと思ってた――ならばとさらに追い打ちをかけようと――


 ニュギスが必死に制止する。


「やめてくださいまし! 後生ですから!」

「いやでも治らンくっても動けないくらいボコボコにしとけば追われる心配はないぜ?」

「数! 数の暴力を考えてくださいな! 貴方、人間ですわよね!?」

「あァ、たしかに日が暮れちまうか」


 ゾンビを減らしておけば犠牲者も減るという善意ではあったが、無茶は無茶である。

 阿沙賀は素直に説得を受け再度反転、撤退をする。

 安堵とともにニュギスもまたすぐに追いかけ追いつき並走浮遊しながら、間違いを一点指摘。


「というか、そもそもあの方々は別に死んでなどおりませんの」

「あ? あのツラでか? 腐ってんじゃん」

「生命力を絞り取られた上で操られてるみたいですわね」

「ふぅん。どういうこと?」

「生きているゾンビ!」

「なるほど!」


 けっこう内実はちがうけれどもう説明が面倒くさいニュギスである。

 腐っているように見えるのも偽装であろう、こちらに精神的なダメージを与えようとしている。

 まあそんなの無関係に殴り飛ばしたボケがここにいるわけだが。


 そのボケはボケのくせして状況把握だけは真っ当で。


「じゃあ曲がりなりにもあいつらは生きてるわけか。ならゾンビ化の原因をぶっ飛ばせば元に戻るんだな?」

「あら? 実はちゃんとご学友に思うところはあったのですね」

「そりゃあな。毎日顔合わせてりゃ情も縁もできらァ……で、これ悪魔の仕業だよな」

「まず間違いなく、ですの」


 疑問形ですらない確認の言葉に、ニュギスはすこしうれしくなる。

 この状況下でも阿沙賀は自己を歪ませもくすませもしない。冷静に的確に今朝知ったばかりの知識を駆使して現状を受け入れている。

 そういう手合いは、ニュギスの好みではあった。


 阿沙賀は無知を弁えて順番に問いを並べる。


「悪魔って単独で湧くもんなんか?」

「いえ、よほどの大悪魔でもなければ人間に召喚されているはずですの」

「んじゃ、もしかしておれたちの探してる召喚士の仕業か?」

「それは……それもおそらく違うと思いますの」

「なんで」


 召喚士などというたぶん稀有な存在が同じ場所に複数いると考えるよりは、ひとりが複数の悪魔を召喚したと考えるほうが可能性は高そうに思うのだけど。

 だが召喚士という存在の希少さがここでは逆の結論をもたらす。


「短期間に複数の召喚を為すのは非常に高難度のはずですの。わたくしの召喚を昨夜おこない、すぐに……というのはあまり考えられません」

「才能っていうか、実力的に無理なのか」

「ええ。数少ない召喚士の中でも飛びぬけた実力者でなければ昨日今日で二度の召喚などありえませんの」

「それってどれくらいの飛びぬけ具合だ?」

「世界新記録ぐらいですの」


 事実、ニュギスの知り得る限り、記録に残る最高峰の召喚士であっても一週間はクールタイムが必要である。

 半日は完全に召喚士界隈における新記録であろう。


「じゃあ……むしろ最悪だな」

「ええ、そうですわね。つまりそうなりますのね」



「「――この学園には二人以上の召喚士がいる」」



 ニュギスを召喚しようとした者と、そしてこのゾンビ化をまき散らしている悪魔をんだ者。

 ひとりでも厄介だというのに……なんてことだ。面倒ごとは増えていくばかりか。


 いや召喚士の人数もそうだが、最も問題にするべきは両者の目的がまるで不透明ということ。

 推測するしかない。阿沙賀は周囲警戒を忘れないまま頭を悩ます。


「失敗野郎はこの際置いといて、このゾンビ野郎はなんだ、なにが目的でパニック映画展開してやがんだ?」


 ていうかこういう怖い話ホラーって普通夜ではないのか、なんでこんな朝っぱらからゾンビから逃げてるのだろう。


 がらりと進行方向でドアの開く音。

 そして続けて亡者の唸り声。


「おぉぉぉおおぉぉ……!」

「邪魔!」


 ぶん殴る。

 躊躇もクソもない。ホラーのホの字もない。


 もはやニュギスもツッコまない。

 会話を優先して顎に手をあて思案する。


「わかりませんの。わたくしを召喚しようとした相手と、なんらかの繋がりあるのでしょうけれど」

「なんでそう思う」

「タイミングが噛み合いすぎていますわ」

「あー、そりゃそうだ」


 ニュギスの召喚失敗は昨夜のことだ。

 その翌朝にゾンビパニックとなれば、流石に連動性というか関連性を見出すのは容易だろう。

 そういう風に考えれば思いつくものもある。


「もしかしてゾンビに対抗しようとして召喚をして失敗。それを察知したゾンビがここぞとばかり攻撃に出た、とか」

「召喚後を狙ってと思えば、確かにありえそうな話ですの」


 要は敵対した二者の諍いに巻き込まれたというパターン。


「もしくは逆に妙な闖入者にニュギス奪われたってんで友達に奪還を頼んだとか」

「それもありえますの」


 ふたりの召喚士が友好的で、失敗の挽回をしようとしているパターン。


 現状どちらもありうるが、ただどう転んでも阿沙賀がまず殺されてしまう立ち位置な気がするのが最悪である。

 阿沙賀はため息とともに寄って来たゾンビを蹴り飛ばしつつ、進路変更を決める。


「とりあえず生き残るし、喧嘩売って来たボケどもは全員ぶん殴る。方針は変わらねェ」


 これだけ逃げ回っても充分に立ち回れるほど広い校舎に感謝しつつ、阿沙賀はようやく見つけた階段を上り始める。


「あら? 上に行くのですの? 外に逃げはしませんの?」

「馬鹿オメェこのまま逃げたところで倍々ゲームで学園中がゾンビになるのはもう目前だろ。そうなりゃお仕舞いだ。確かめる方法がなくなる」

「確かめる方法、ですの?」


 階段を蹴っ飛ばし、ノロマのゾンビを蹴散らして上の階へ。屋上へ。


「ゾンビ感染がまだ途中で、かつおれたちの場所が相手に露見してること。そういう条件でじゃねェと見極められねェ」

「相手の狙いがどこにあるのか、ですわね」


 鍵のついた分厚いドアを蹴破って、阿沙賀は青空の下に飛び出す。

 屋上である。


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