獣王国ラザーハント 後
帰還した勇者パーティーに真那美の名前がない事に驚愕するヒミカとサナエだが、アキナから更に驚愕の事実を告げられる。
「この報告書によりますと、真那美さんは魔族に殺されて死亡と書かれています……」
アキナの報告に驚きのあまり呆然となるサナエ。が、ヒミカはいち早く復帰して、アキナから報告書を受け取り先程の文面をじっくりと読み直す。
「……アキちゃんを疑ってた訳やないけど、確かに書かれてるわぁ。しかも、魔王城に突入する際、奇襲してきた魔族の攻撃により死亡って書いたるなぁ……」
「……あり得ませんね。仮に彼女が死亡したのが事実だとしたら、あのメンツが魔王を倒して凱旋なんで出来る訳がない……」
サナエ達は勇者パーティーのメンバーの実力も知っている。彼らが、魔族によって凶暴化したとは言え、ゴブリンの攻撃1発で吹き飛ばされたのを目撃している。
そして、サナエ的には奇襲という不意打ちでも、真那美が倒された事も信じられなかった。何故なら、真那美が従えるあのルリと名付けられたスライム。彼女を見た瞬間、ラザーハントで1番の実力を買われてヒミカの護衛騎士となった自分が、畏怖して震え上がりそうになったのだから……
「ん〜……となると……考えられる可能性は二つやね。一つは、真那美はんが自由を得たいが為に交渉して、手柄とか全部いらないから、全ての手柄を渡す代わりに自由に冒険させる権利を貰った」
「それは……1番可能性が高いですね」
真那美は出会った時から常に、名誉や地位とか財産とかどうでもいいからスライムと戯れるだけの生活を送りたいと言っていた。そんな彼女なら手柄を引き渡しても、自由な旅路をする道を選んでも不思議ではない。例えそれで自分が死亡扱いとなっても構わないと言うに違いない。
「まぁ、確かにこれが一番可能性が高いけど……もう一つ……そんな真那美の気持ちを信用出来ず、真那美を殺して自分達の手柄にしようとした」
そう言ってヒミカは笑っていたが、その目は全く笑っていなかった。そのヒミカの表情で彼女が怒っていると察したサナエは背筋に冷たい物が走る。アキナは自分が叱られた訳ではないのに、ブルブルと縮こまっている。
ヒミカは、真那美の事を気に入っていた。獣王国のピンチを救ってくれた事もあるが、飾らない性格や、スライムを純真に愛する心などを。良ければ、自分達の未開拓の土地を真那美に譲って、そこで真那美の言う楽園を創る事を提案した程だ。
「まぁ、あくまでうちの想像でしかないけど……クルミ。おるか?」
「はっ。ここに」
ヒミカの言葉に反応し、ヒミカの前に瞬時に日本の忍者のような衣装を纏った猫型の獣人のクルミが姿を現した。
「それと……アキちゃん」
「はっ!はい!!」
ヒミカの呼ぶ声に、クルミの突然の登場にビックリして呆然となっていたアキナが慌てて膝をついてヒミカの指示を聞く姿勢をとった。
「悪いんやけど、2人で魔王城に行って調査をしてきてくれへん。魔王城でほんまは何があったんかを」
「ヒミカ様の仰せのままに」
「りょ!了解しました!」
ヒミカの指示を受けた2人は了承の言葉を述べ、クルミは再び瞬時に消え、アキナはすぐに出発の準備を整えようと動き出すが、すぐにヒミカに呼び止められた。
「あっ、そうそう。アキちゃん。もし真那美はんを見つけたら、うちらの国に来ないか交渉してきてな」
「はへぇ!?でも!真那美さんは死んで……って、そう言えば死亡報告は偽物の可能性が高いんでしたね!」
「仮にあの勇者達に殺されてなパターンでも、真那美はんがあの勇者達にあっさり殺されるなんて想像出来る?」
ヒミカにそう言われ、アキナは必死で頭で想像するも、あの勇者達に殺される姿が全く想像出来なかった。むしろ、返り討ちにしてる姿の方がしっくりくるぐらいである。そんなアキナの様子を見てヒミカは微笑を浮かべる。
「まぁ、そういう事やね。恐らく、どっちに転んでも真那美はんは生きてる可能性が非常に高い。だから、真那美はんを見つけたら交渉よろしゅうなぁ」
「はっ!はい!分かりました!!」
アキナはビシッと敬礼のポーズを取り、今度こそ出立の準備に向かった。そんなアキナを優しく微笑みを浮かべ見送るヒミカ。そんなアキナの姿が見えなくなると、ヒミカはスッと目を細め
「さて……アキちゃん達が持って帰ってくる報告次第では……他の国とも連携をとって色々せんといかんねぇ〜。忙しくなるえ。サナエ」
「全てはヒミカ様の仰せのままに」
そう言って恭しく頭を下げるサナエに、微笑を浮かべるヒミカ。そして、ヒミカは筆をとった。次に連絡がいくであろう。ドワーフ族がおさめる地底国家の国王へと……
一方、その頃の真那美は
「おっ!洞窟発見!洞窟と言えばスライムちゃんの宝庫!!という訳で行くわよ!ルリ!」
「ん。分かった」
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