第1話 人魚奏

「人魚の肉。ですか?」

「はい。かつて私共の村では名産とされていたものなんです。なんでも、食べれば不老不死になれるとか」

「確かに、そのような伝説は聴いたことがありますね。それで、その人魚の肉というのが一体どのようにご依頼に関わってくるのでしょう? まさか私に、人魚の捕獲をしてほしいとか?」

 白流須いるかはコーヒーを淹れながら目の前の依頼人の話を聞いている。

 いかにもお上りできたといった風な田舎の純朴な青年に見えた。

「そう! その通り! 流石探偵さんだ、話が分かるなぁ!」

「……なるほど」

 純朴そう、というよりも相手を見ていないのほうが大きそうではある。

 イルカは少々困ったような笑みを浮かべる。

 内心では、マジで言ってんのかこいつ……。って感じだ。

「いえね、街のほうにはこの手の奇怪な話を聞いてくださる探偵さんがいらっしゃると聞いてきてみたんですが、こうもお話が分かる方だったとは! おっしゃる通り、人魚を捕まえてほしいんですよ!」

「は、はぁ……」

 困惑と共にいるかは相槌を打った。

 探偵業を初めて数年、なにかと怪奇よりの事件とのめぐりあわせが多かったせいか、最近は怪奇探偵などという渾名がついてしまい、結果として奇怪な案件が舞い込みがちになるという、循環が生まれていた。

 しかし今回はまた厄介な案件だと、いるかは内心で独り言ちる。

「いえね、わたくし共のいるヒイラギ町は中央にでかい湖が鎮座する地形なんですが、なんでもその昔、この湖では人魚が獲れたっていうんですよ」

「はぁ……」

「それが最近ではめっきり見なくなって、俺もじいさまの昔話をほら話だと思っていた口なんですよ! でもいたんです! そう人魚が! でも我々が何をしても捕まえることが出来なかったのです……。

 そこで! そういう手合いに詳しい人ならと思い、探し回った結果、貴方に巡り合えたわけでして」

「なるほど、確かにその手の奇怪な事件ならなんどか手掛けたことはあります。しかしですね……実在するかどうか定かでない――確証のないものを探せと言われても、見つけられる保証はですね……」

「構いません。何故なら確かに存在することを私共は知っているから! 探偵さんにはただ、捕まえてもらうだけでいいんです」

「いえしかし……」

「報酬はこちらに!」

 どんと、机上に札束が置かれ、いるかは目を丸くした。

 言っては悪いが、この田舎くさい青年のどこからこんな大金が出てくるのか。

「町のみんなで出し合ったんですよ」

 と青年は言った。

 正直、かなり嫌な予感のする話だと、いるかの直感は言っている。

 話にきな臭いものを感じるのだ。

 しかし……。

 ちらりと、いるかは事務所の奥に目をやる。

 色々と古びて限界を迎えつつある事務機材が脳裏をよぎる。

 お金が、ほしい。

「……分かりました。保証がいたしませんが、できる限りのことは致しましょう」

「ありがとうございます!」

 青年は元気に立ち上がって元気に礼を言うと、さっさと事務所から出て行ってしまった。

 あとにはぽつねんと、いるかだけが残されている。

 


 いるかは依頼案件の書類を片付けると事務所の裏に回った。

 もう限界が近いPCを開いて、立ちあがる間に紙の書類をロッカーに入れ、入れ替わりに未処理の事務仕事を取り出す。

 PCで表計算ソフトを開いて、カタカタとキーボードをいじくる。

「今日は徹夜かもな……」

 そんなことを、いるかは独り言ちる。

 しばらく事務処理をして、キリの悪いところで断ち切って、コーヒーを淹れる(インスタントではあるけれど)。

 真っ黒なコーヒーを飲んで、息を吐いて、ぽつりとつぶやく。


「…………人手が欲しいな」

 ワンマン経営は大変だ。



 電車を乗り継いで、白流須いるかは依頼人の町までやってきた。

 スーツ姿に帯刀といういるかにとっては

 ヒイラギ町、街からはずいぶんと離れた辺鄙なところにある、言ってしまえば田舎の町だった。

 駅から降りるとまず目につくのは湖だった。

 大きな湖だ。『ビワコ』ほどではないけれど、それに近い大きさはある。

 いくら辺鄙な田舎だからといってこんなにも大きな湖があるのに、その存在を今まで自分が知らなかったことにいるかは驚いていた。

「それはそうでしょう。我々は今まで観光業を発展させてきませんでしたから」

 そういったのは、駅先で待っていた依頼人の青年と、この町の町長だった。

「お待ちしておりました白流須さん。ささ、車に乗ってください、あないいたしますよ」

 そういって三人はタクシーに乗り込んだ。

 車の窓からは日の光に照らされて、きらきらと輝く湖の水面が見える。

「この町はねぇ、ずっとよそ者を受け付けていなかったんですよぉ」

 車の中で口火を切ったのは町長の男だった。

 依頼人の青年は運転席、町長は助手席に座っている。

 いるかの座る後部座席からは町長の禿げた後頭部が見える。

 町長は聴いてもいないことをぺらぺらと喋りだす。

「いやね。湖の恵みっていうんですかね? 全ての恵みは全部ここからとれるし、これ以上町を発展させる必要がないって言いますかね……あまり知られたくなかったって言いますか……」

 だらだらと、町長は舌足らずな口調で話を続けている。

 いるかはそんな老人の話を聞き流している。

 要するによそ者嫌いの田舎町なのだ。それ以上でも以下でもないのだろうと。 

 車の窓から外を見る。

 どうにもさびれた町だった。本当に、ただ生活を続けていくためだけのような。なんだか嫌な、閉じた感じがする。

 その町の中に、ひときわきらめく湖だけが綺麗なものだった。

「?」

 ふと、何かがいるかの視界によぎる。

 凪いでいたはずの湖の水面に揺らぎが生まれている。

 揺らぎは、だんだんと大きく成っている。

(波……? けれど湖であんなに大きな波が出来るわけ……)

 そう思った矢先、どん、と大きな音がした。

 湖が揺らぎ、ソレが現れた。

 それは一角獣のようであった。それは未確認生命体ネッシーのようであった。

 それは巨大な海獣――否、湖に現れたのであるから湖獣とでも呼ぶべきだろう――であった。

「町長、あれは?」

「ええ。最近になって出るようになったんですよあの怪物が。おかげで水産資源も取りづらくなって困ったもんなんですが」

「町長も探偵さんもそんなこと言ってる場合じゃないですよ! 襲ってきますよ!」

 その湖獣は長い首を、ぎゅん! と弾けたゴムのような速度で伸ばす。

 こちらを標的にし、喰らいつこうとしているかのようだった。

「幽霧」

 抜刀。

 いるかは帯刀していた刀を抜いた。

 紫紺の刺繡を纏う、明らかに真っ当なそれではない刀だ。

 を『幽霧』。

 この世の万物を分別なく斬る、斬ってしまう。さながら『斬』という事象を振れたものに付与するかのような、そんな妖刀である。

 白流須いるかが何故、怪奇探偵として名を馳せてきたのか。その理由はその妖刀を持つところに大きく由来している。

 兎角、それがいるかの得物であった。

「抜刀」と声を喚ぶことによって「幽霧」はその鞘の封印から解き放たれた。

 一閃。

 それは抜刀からの何気なく見える一閃である。

 ザン、と。音が鳴った。

 接近していた湖獣のその頭部が、ぱっくりと割れ、黒い血が噴出した。

『ギィィィィィィィィエェェェェェェ!!!』

 湖獣は絶叫を上げると勢いよく長い首を縮め、湖の底に戻っていった。

 カチン。といるかは「幽霧」を納刀した。

「………流石ですね、探偵さん! こんなことできるだなんて!」

「いやぁ、街の人って皆さんこうなんですかぁ? びっくりしましたよ」

 依頼人の青年と町長は二人して思い思いにいるかをほめたたえた。

「いやぁ、それほどでも、ありますが……」

 まんざらでもない様子のいるか。照れくさそうにぼさぼさの髪を掻いたのち、ふとこういった。

「……ところで、シャワーを浴びたいんですけど」

 さっき斬った湖獣の体液でべちゃべちゃだった。



 その晩、いるかは町役場でシャワーを浴びせてもらったのち、町の歓待を受けた。

 町の人間はよほど外からきた探偵が物珍しかったのか、随分と盛り上がっていた。

 まるで数百年ぶりの客人であるといわんばかりである。

 歓待はやがて日が暮れ、深夜、日付が回るころまで続いた。


「うえぇ、……気持ち悪い……」

 吞みすぎた。

 普段、酒は安い缶チューハイしか飲まないのもあって、久々に飲むSAKEについつい調子に乗ってしまった、いるかである。

 トイレで一通り吐いてきた後、ふらふらと役場の建物から外に出る。

 少しばかり外の風に当たり、空気を吸いたくなった。


 今夜は少しばかり風が吹いている。

 月の光がやけに明るく感じる。


 夜を歩く。

 月の光が明るいのが幸いした。

 町にはまるで明かりがない。

 外灯も、家の明かりもない。

 大地が完全に闇に覆われているかのような気がする。

 それはまるで、地上にあるものを闇の中にかくしているかのようでもあり……。

 

 キリキリとし鳴る音。

 不意に、『幽霧』が呻りを上げる。

 なにか、があるのだろう。

 酔いが回っている頭を振るい、いるかは周囲を見渡す。

 返す返すも闇しかなく――否、地上に輝く光がある。

 湖だ。

 月の光を反射して、湖面が輝いている。

『幽霧』を湖に向けると、よりキリキリと強い呻りを上げだした。

 いるかは歩き出す。

 アルコールの抜けない千鳥足で湖に向かう姿は誘蛾灯に惹きつけられる虫のようにも見えた。



 それを、なんと表現すればいいのか。いるかにはわからなかった。

 月の光。きらめく湖面。揺らぐ凪。

 水面そこに、ただ一人がいる。

 蒼い光に揺らめくように、そのひとがそこに佇む。


 この世界にこんなに美しいひとがいるのかと、そんなことを思う。

 そのひとは、人魚だった。

 永く、碧く、虹彩を放つ髪。

 黒い宝石のような瞳。

 あまりにも端正な顔立ちに、白い絹のような肌。

 そのまなざしは静謐に。その口元は端正に。その体は雌雄がつかず。

 その脚は人魚の尾びれ、虹色に輝く、鱗は芸術のように敷かれている。


「きみは、だれ?」

 そのひとが語り掛ける。

 中性的で、流れる水のような声だった。

「わ……私は、白流須いるか。探偵です。人魚についての調査のために、ここに来ました」

「……そうなんだ。ではきみも、わたしたちを狩るのかい?」

「……も?」

 いるかは少し首を傾げる。

 なにかが引っかかっている。

「あの、昼間の怪獣は君が?」

「カイジュウ……? ああ、ヒガノリュウか。違うよ、あれは勝手に出てきたものだ。出てきた原因は、この町の人間たちだし」

「……どういう意味?」

「あ、知らないんだ? そうか、きみはよそ者なんだね。よほど連中は追い詰められている」

 そのひとはけらけらとわらった。

 でも、ぜんぜんわらっていないことはわかった。

「あれはね、もともとわたしたちがこの湖の底に封じていたものなんだよ。ずっと昔から。あれはそもそもこの世に災いをもたらす類の存在だから、それをわたしたちで代々受け継いできて、封じ続けてきていたんだ」

「……では、何故昼にソレが?」

「もう、アレを封じられるほどわたしたちは残っていないんだ。

 百年ほど前に、あの人間たちが湖の傍に移り住んできてからわたしたちは、随分、減ってしまったから」

「どういうこと? あなたたちはこの町の住人たちよりもさきにここにいたの?」

「もともとこの地には湖だけがあったんだ。そこでわたしたちは暮らしていた。小さな場所だったけれど、ヒガノリュウを封じて静かに息づいていた。

 でも百年ほど前、人間たちはやってきた。

 そしてわたしたちを狩り始めたんだ。

 人間たちは、わたしたちの肉を食べて不老の存在になり、湖の周りに住み着くようになった。

 ずっと、彼らの姿は変わらない。

 ずっと同じでいついている。

 わたしたちの肉がもたらす不老不死の効能は永続的なモノじゃないみたいで、あれからずっとわたしたちを狩り続けている」

「では、この町の人間たちは百年前からずっと同じ……?」

「うん。ずっと同じで変わらない。だからよそ者を嫌う。不変を愛している、けれど、それも永遠じゃない。彼らがわたしたちを食べる速さとわたしたちが増える速さ。

 とてもじゃないけれど、前者のほうが早すぎたんだ。

 もう、この湖にわたしたちは、わたししか残っていない」

「だがみつけた! おまえをみんなで喰えばいい!」

 唐突に男の叫び声が聞こえた。

 暗闇にねっとりとした黄色の眼差しがいくつも浮かび上がる。

 いったいいつからそんなに潜んでいたのか。

 闇からぞろぞろと町民たちが姿を現す。

 その手には各々の凶器がある。

 狩りの道具だった

「もう、わたししか残っていないのに。愚かだね」

 町民たちはきいていない。

 食べ物の声を聴く人間が少ないのと同じだ。

 町長が嬌声を上げながら銛を振りかざし、人魚に襲い掛かる。

「っ!」

 咄嗟にいるかは『幽霧』の鞘でその銛を弾いた。

「……」

 すこしだけ驚いた声を、そのひとは上げた。

「なにをするんだ探偵さん。儂らはあんたに感謝してるんだぞ? 依頼通りに人魚を見つけてくれた」

「いや……それは不可抗力というか偶然といえることですので……」

「関係ないぞ! 儂らは機嫌がいい。探偵さんにも肉を分けて儂らと同じく永劫の時を……」

「お断りします。その先にはあまり未来がないように見えますし。それに、これは少々蛮行が過ぎるかと」

 闇の中の黄色いまなざしが徐々に鋭くなる。

 こちらに敵意を抱きだしていると、直感で理解できる。


 不意に、湖が爆ぜた。

 顔に傷がある湖獣が現れた。

 昼間のソレだった。

「ギャアアアアアアア!」

「封印、流石にもう持たなかったか」

 湖獣は地上に進出する。

 永い首をぐるりと振るったかと思うと、地面に叩きつけ、町民の何人かを潰した。

 しかし肉片たちは、ずるずると引きずられるように収束し、また人の形に戻った。

(……これが、人魚の肉を食べた人間か……)

 喰らえば、老いることも死ぬこともなくなるという肉。

 その期間を延ばすために、彼らは最後の人魚を襲う。

 いるかは『幽霧』の鞘で町民たちの猛攻をしのぐ。

 一般的な人間の倫理観として、この人魚を町民に食わせる気はなれなかった。

 されどどれとは別に、湖獣の猛進もまた続く。

「……やむを得ない」

 いるかは纏わりつく町民たちをはねのけ、構えをとる。

「幽霧」

 抜刀。

 湖獣ヒガノリュウは一閃され、真ん中から上下にずるりとずれた。

 体液を大量に溢し、湖の底に沈む。

 

 町民たちは動きを止めた。

 その視線が妖刀『幽霧』に集まる。

 今、彼らは改めてその刀身を見つめる。

「……皆さん、感じ取っているかもしれないですけど。この『幽霧』は妖刀です。触れたものすべてを切断し、切断されたものがもとに戻ることはありません。いまここであなたたちを永久に葬り去ることもできます。

 ……ですが、そんなことはしたくありません。

 報酬はいりません。この人魚から手を引いてはくれないでしょうか?」

 町民たちはざわつく。

 不意にそのうちの一人が鍬を掲げて襲い掛かってきた。

 いるかは一度、納刀してから再度。

「……幽霧」

 抜刀。

 鍬を持つ手が空を舞った。

 その町民はぽかんとした顔をした。

 不思議そうに斬られた両腕を見ている。

 いつまでたっても戻らない両腕に、もうそれが再生しないことに気づいて絶叫を上げる。

「見てのとおりです。どうか皆さん、ここは退いてください」

 町民たちはゾクゾクと舌打ちをすますとぞろぞろと闇の中に消えていった。

 いるかはため息をついて、ふりかえる。

 人魚の顔を見た。

 月の光に移されたその姿は何度見てもほれぼれするほど美しかった。

「あなたは、どうする? 湖に残るの?」

「……ううん」

 人魚は水面から地面の上に上がる。

 美しい鱗がぽろぽろと剥がれ落ちて、人間の足になる。


 裸の、中性的に美しい少年がそこにはいた。

「もうここにはいられないし、いる理由もない。ねえ、もきみについていっていい?」

 いるかは少し困ったように頭を掻いて溜息を一つついた。そして。

「まあ、いいよ」

 と答えた。


 ※


 帰り、いるかは町の車を適当に盗んで走り出した。

 最寄り駅の始発便の間に合う頃には日が昇っていた。

 がたごとと揺られる列車の中で独り言ちる。

「あの町はどうなるのかな」

「もう湖にぼくたちはいない、彼らの不老不死の効能はやがて切れる。そうすれば今までのつけとしていっぺんに老化が始まる。もう、あとは朽ちるだけだよ」

 少年になった人魚は無感情にそういった。

 人間の少年のような姿をとり、だぼだぼの服(そこらへんで拾ったものだ)を着てなお、かつての美しさは顕在だった。

「きみ、名前は?」

 いるかは少年に聴いた。

 少年は少し考える。

「アウネーテ……だったけれど、もうぼくはその名前は使えないな。人間になってしまったから……君が決めてよ」

 少年はそう、いるかにふった。

 いるかは少し考えて。

「……じゃあ『ハル』にしよう。とりあえず仮だけれどね。今の季節の名前だ」

「ハル……うん。いいね。じゃあ今日からぼくはハルだ」

 少年はまた無感情にそういう。

 いや、多分無感情ではないのだろうと思う。

 ただ、彼の表情は、なんだか読みづらい。


 がたごとと、列車は揺れる。車窓の景色が映ろう。


 ふと、いるかはハルに聞きたかったことを聞いた。

「そういえばハルって男の子だったんだね。人魚だった時には性別なんてわからなかったよ」

 ハルは少しだけ表情を動かす、それは、きょとん。といった表情だった。

「ううん。もともとぼくに性別はないんだよ。人間になるときに、決めたんだ」

「え? じゃあどうして男の子になったの?」

「そしたらきみと繁殖できるかもしれないだろ」

 白流須いるかはぽかんとした表情になった。


 確かに、彼女は女性である。

 短めにウェーブのきいたボブ髪。手入れを欠かしてしまって少々あれている肌。とはいえ普通に可愛らしいといって通る顔立ちに、背は低く、体の凹凸は割とあるほうだ。

 しかし、彼女は――白流須いるかは二十代後半。

 対してハルとこれから呼ばれる少年はどう見ても十代前半(実年齢は不明だが)といったところ。

 この二人で――となると、些か倫理的に問題がある絵面ではないかと彼女いるかは思うわけで。

「……きみとはそういう関係にならないよ?」

「そうなの? 残念」

 少々、一般社会の感性が欠如している少年の様子にこれからを考えて、いるかは額をおさえる。

 とうのハルは車窓から流れる景色を見続けている。

 がたごとと二人を乗せた列車は走り、もう湖のある村に戻ることはない。

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