第16話「中級クエスト② ジャイアントウルフの討伐」
「ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!!!!!!!」
現れたのは3メートルは軽く超えそうな大き目の図体に、筋骨隆々な四本足、長く太い牙をむき出しにして、轟音をあげているジャイアントウルフがすぐ目の前でけたたましく声をあげる。
森の中に響き、思わず耳を塞いでしまいそうになるその轟音が初級冒険者である俺の皮膚をピリピリと刺激する。
「来たぞ」
「うぅ~~、迫力満点だなぁ~~」
俺の隣で余裕そうに笑みを浮かべる二人。
さすが上級と絶級。自分の階級よりも下のモンスターには動じないときた。ここまで迫力があるのに怯まないなら、上級やそれ以上の天災みたいなモンスターはどの程度なのか少し気になるが、まずは越えるべき壁を越えなければ。
そうして、俺は覚えまくって進化させた初級火魔法『
「ふぅ……」
雄たけびをやめて、俺を睨みつける奴に俺も怯まず睨み返す。
さすが野生。
こういうのはやられた方が負けなのだ。
すでに戦いは始まっている。
怯んだら負け。
間合いに踏み込んだら負け。
焦ったら負け。
ミスをしたら負け。
やられると思ったら負け。
常に気を張り、全てにおいて相手を圧倒する。
これがこの世界の常識なのだ。
「俺がやられたらあとは二人に頼む」
「初級魔法じゃ何ともできないぞ~~」
「クニキダ、無理はしないでくださいよ」
「あぁ、分かってるよ」
さすが絶級、どれが効いてどれが効かないのがよく分かっている。
ただ、試してみたいのだ。
俺の力がどこまで通用するのか。
恐らく通用はしない。そのあとは2人にやってもらえればいいのだ。本来はドラゴさんの力が本物かを見極めるためにきたのだから。
すると、隣でドラゴさんが杖を地面に突き刺して吐き捨てる。
「……まぁ、絶級魔法を見たいなら魔王軍の幹部クラスでも引っ張って来なきゃだからな。それは今度見せてあげるよ」
さすが、心が読めているのか。
そう言う魔法があるのか。
正直、この世界は未知ばかりだな。
「ひとまず、全力でやってみますよ」
そう言って俺は走り出す。
その動きに動じず、奴もまた大きな足をばねのように跳躍させて一気に距離を詰めてきた。
早い。
ミーナさんほどではないが、確かに今まで戦ってきた初級モンスターとは違う。格が違うのが見て取れた。
しかし、そのくらいは予想通り。
分かっていれば交わすことは難しくはない。
「っ——!」
飛び込んできたジャイアントウルフの脇下を滑るように交わして、一気に背後へ。
この前、ミーナさんに教えてもらったウルフ系モンスターの弱点である尻尾の付け根目がけて手の上で溜めに溜めた魔法を解き放つ。
魔法増幅。
この一か月間で俺が身に着けた技の一つ。
魔法は魔力に依存する。
その人の持つ魔力をどう魔法に流すかによって魔法としての地力が変わる。
簡単に言うなら、魔力が1の上級魔法よりも、魔力が100の初級魔法のほうが強いことがあるということ。
この数十秒間溜めた合体魔法が奴の弱点に命中する。
光の矢が炸裂し、ジャイアントウルフの薄い皮膚に突き刺さり、轟音をあげて炎が爆発する。
バチバチと音をあげて、燃え盛る炎天のように入った一撃にジャイアントウルフも足元をおぼつかせた。
しかし、それだけだった。
「——はっ!?」
ぎゅいんと音を立てて奴はしり込みする。
すっと炎がかき消され、ウルフの牙がギリっとなる。
「まじかよ……っ」
いや別に俺も一撃でやられるとは思ってはいなかった。ただ、急所だ。男で言うきんたまを狙ったつもりだ。
なのに奴はびんびんしてやがる。
やがて咆哮をあげ、俺に突進をかましてくる。
すんでのところで交わし、すぐさま詠唱して作った
「がぁああああ!」
ぐさりと刺さり、キリッと眉間に皺を寄せたがそれだけ。
すぐさま切換し、今度は口を大きく開けて白い波動の様なものを放ってきた。
「ん!?」
いきなりの遠距離攻撃。
遠距離を取っていればこういう力任せにくる魔物とはやり合えると思っていたが中級となるとそうではないらしい。
『
すぐさま詠唱した初級闇魔法。数秒間だけ闇属性の翼を作り出す魔法だ。
ギリギリその場を飛び跳ねて交わすが波動の一部が俺の胸元を焦がす。
「んぐっ――⁉」
さっと服が焦げで胸元にぽっかり穴が空く。
やばいと思い、体勢を立て直しながらすぐさま作戦を変更。距離を取って遠距離攻撃を叩き込むよりもミーナさんのように懐に入って前傾攻撃を展開することにした。
ふぅっと息を吐き捨てすぐさま向かってくるジャイアントウルフ。
考える暇もない突進に俺は手の中で『
「ゴォオオオオオオオオオ!!!!」
少しは効いたのか再びよろけて、今度は咆哮をあげた。
しかし、すぐさま体勢を立て直し、体の向きをくるりと反転させて波動を放つ。
あきらかな行動力の差。
中級モンスターの間合いの作り方のうまさ。それが際立ち、俺は波動をもろに受ける。
「っぐぁ⁉」
何とか手の中で作り出した『
さすがにみきらていたのか交わされ、今度は突進攻撃。
空中で為す術はない。
ヤバいと思い、身構えようとするとパッと頭の中にイメージが浮かんできた。
無属性魔法同士の掛け技。
読み込んだ魔法書の文章がスラっと頭に浮かび上がる。
『魔法というものは同じ属性を掛け合わせると強くなる』
その瞬間、窮地に立たされた俺に速読スキルの真打が炸裂した。
新たな魔法を作成する。
第一に速読。
第二に無詠唱。
そして、第三に
ペンが剣よりも強いように、俺の速読スキルは本が英知の総てであると暗示していた。
かけ流れていく英知の欠片に耳を研ぎ澄ませて、神経を尖らせる。
浮かんでくるアイデアに俺は思うがまま手を動かし、創造させる。
『
無属性中級魔法の発動。
適正のある属性魔法の掛け合わせ。新たなるひらめき、空中を飛び、俺は空を歩く。
「んな⁉」
「まじか⁉」
地上で退屈そうに見つめていた二人が驚きの声をあげたのが聞こえて、俺は彼女の達のところまでいこうとした瞬間だった。
「どげxこもあんb⁉」
そんな小手先の技術をさらっと覆してきたのは空中へ突進攻撃を繰り出したジャイアントウルフだった。
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