第17話「スキルの秘密」


 結局のところ、突進をかまされてあばら骨2,3本持って行かれた俺はミーナさんの治癒魔法によって回復してもらった。


 まぁ、その隙にドラゴさんが闇属性上級魔法の『闇竜乃息ダークブレス』でやっつけてしまった。


 俺も一部始終を見ていたが片手で楽々詠唱して放っていたから、さすがに絶級冒険者って言うのは本当だろう。ミーナさんなら上級魔法を楽々詠唱っていうのは無理らしいしな。治癒魔法をかけながらもかなり見惚れていたし、最初に言っていたようにその領域に行くのは難しいみたいだ。


 ひとまず、彼女の言っていたことも本当そうだし、俺がまだまだ敵わないってことも知れた。ここから成長していくことに時間をかけていくことにしよう。


 それに、あの創造魔法クリエイトマジックっていうのももっと確認したいしな。


 ここのところは報酬だけ受け取って、酒場でパーっと打ち上げだ。




 というわけで、俺が追放されてから初めて来た居酒屋にやってきた。


「うぉ、クニキダとミーナちゃん! それと……ん、君は誰だい? そこの小っちゃい子? ココは酒場だよぉ?」


 入ってすぐ声を掛けてきたのは店主のカトリーナさんだった。

 見たことのない顔の俺に親切に対応してくれたとても気前のいいおばさんで、ミーナさんとそこそこの関係値がある元冒険者らしい。


 初めて見るドラゴさんに失礼な言葉をかけるおばさん。

 それに対して明らかにイラついた表情を見せるのドラゴさん。


「私は小っちゃくない。これでも18歳だ」

「うげっ、マジかい?」

「マジだ。おばさん」

「おばっ——おばさんだけどぉ。初めてのやつにはもっと言うべきことがあるんじゃないのかい?」


 さすがドラゴさん。

 口が悪い。まぁ、俺も思うが見た目はあきらかに中学生のそれだ。丸眼鏡に光ア網にローブ。小さな魔女見習いだと思われて仕方がない。


 にしても、ドラゴさんってこの街でかなり有名な冒険者だったんじゃないのかな? カトリーナさんも冒険者について詳しくないわけでもないし、意外と知らないものなのだろうか。


「まぁまぁ、二人とも。おばさん、てなわけでビール三つオナシャス」


 睨みあう二人。

 まるで親子喧嘩の様だったが、さすがに本気で始めちゃうとカトリーナさんの方が勝てないのは明白なので二人を引きはがす。


「ったくぅ……クニキダの旦那もめんどい野郎捕まえたんだな」

「どっちかと言うと捕まえられた側、ですけどね?」

「捕まえられた側ぁ? まさか、お前、そう言う趣味でもあったのか?」

「お、おい、なにと勘違いしてるんだ」

「……ろりこ」

「生憎と俺はお姉さん好きなんだ」

「またまたぁ~~、やっぱり私の事が好きなのかいなぁ?」


 大柄なおばさんが腰をくねくねさせる。

 さすがにキモイからやめてほしい。俺のストライクゾーンは20から35の間だ。


「やめろ、んなわけないだろ!」

「っちぇ~~、せっかく既成事実作ろうって思ったのになぁ!」

「作ろかよ、俺の子種は大事な時に取っておくのさ」


 そう言ってカウンターの奥へさっていく。

 なんとか変な噂をされるのは防げたらしい。


「お姉さん……が、すき……」

「ん、ミーナさん?」

「な、なにっ⁉」

「いや、なんか口走っていましたけど」

「な、なんでもないわ……」


 顔を赤くして背ける彼女。

 何を考えているのか、良くは分からなかった。




 そんなこんなでテーブル席に座り、酒が到着し今夜のお疲れ様晩酌が始まった。

 

「いやよぉ、クニキダぁ」

「なんですか、ドラゴさん?」

「お前、あの魔法どうやって発動したんだ?」


 酒を一口入れて顔を若干赤らめながら聞いてきたのはドラゴさんだった。


「あ、それは私も聞きたい」


 食いついてくるミーナさん。

 久々に注目を浴びることが出来て嬉しい限りだ。


「うーん。どうなんでしょうね……僕も分からないんですよ」

「分からない?」

「はい。その、この前ミーナさんが言っていたじゃないですか。スキルにランクはあるけど使い方によって強さは変わるって」

「……言ったか?」

「あぁ、もしかしたら書籍かもしれません」

「うん、それで?」

「いやぁ、俺も諦めずに頑張ってみようかなって思ってF級スキルなりに頑張ってみたんですよ。こう、速読活かして魔法書読みまくって」

「確か、1冊をものの10分程度で読破できるとか?」

「はい、それでドラゴさんの図書館の魔法書を読んでいたときに『創造魔法クリエイトマジック』っていうのがあったんですよ。それを思い出して、思うように詠唱したらこう……」

「あぁ、魔法作成の歴史のやつか?」

「そ、そうです!」

「ほう……にしても、魔法なんて早々簡単に作れるものじゃあないけどなぁ。お前の魔法を見た時は一瞬光属性の翼系の魔法かなって思ったけど、空中をホップしてたもんな」


 確かに、飛ぶと言うよりかは空気の床みたいなのを踏んだって言う方が近いかもしれない。


 ただ、勝手に体が動いただけでどうやってそれを為したのかは俺にもよく分からないのだ。


「そう言えば、魔法も無詠唱だよな?」

「え、まぁ、そうですね」


 すると、ミーナさんが思い出したように呟いた。


「あれって簡単にできるものなのか?」

「いや、できないな。少なくとも初級や中級の域を出ない冒険者ができる所業じゃない。ミーナも出来ないんだろ?」

「え、えぇ。正直、詠唱をしないって言うのも考えたとこだってないわよ」

「だよな。私は初級魔法程度ならできるがそれより上は少々厳しいな。それに比べてお前は全部簡略化しているよな……」

「そうなりますね」

「まったく、意味が分からん……いや待て」


 難しい顔をするドラゴさん。

 何か気付いたように手のひらを見せるとこう訊ねてきた。


「お前、固有スキルが速読なのか?」

「え、はい?」


 何か神妙な面持ちで考える彼女。

 俺、何かヤバいことでもしてしまったのだろうか? もしかして、この世界では書籍に関わるスキルは違法だとか……。


 数分ほど黙り込んで彼女はハッと顔をあげる。


「クニキダ」

「は、はいっ」


 声が鋭い。

 いつものようなラフなものではなかった。


「速読スキルで、ジョブが司書、適正魔法が無属性――なんだよな?」

「そ、そうですけど……」

「やっぱりか、だからかっ……」

「え、どういうことで——」


 そうして、彼女はクククッと笑い、肩を掴んでこう言った。


「スキル覚醒の上限を満たしているんだ、お前は」


「「スキルかくせい?」」




 

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