第14話「絶級冒険者の実力」


 半ば強制的に俺を雇った彼女は巷では有名な魔女、ドラゴ・フォン・ツィンベルクだった。


 年齢は18歳で、種族は人族。三つ編みおさげな藍色の髪の毛に大人しさを感じるブロンズ色の瞳。見た目はとにかく真面目なメガネ地味子な感じで清楚そのものだった。


 勿論、黙っていればの話だが。


 とまぁ、そこは置いといて彼女の評判は言わずもがな凄いものだった。ミーナさんに彼女の図書館で雇われたことを話すとそれはそれは凄惨な表情で絶句したくらいだ。


 あの元上級冒険者の彼女が、だ。

 それだけですごいことだ。世界は広いので世界的か、と訊かれたらどうかは分からないが少なくともこの国の中ではかなりの実力者らしい。


 冒険者としてのランクは上級の一つ上の絶級。

 魔女と言われるだけあって使える魔法は最高で超級魔法。


 ここを聞いただけでも鳥肌ものだが、それに加えて3年前までは国のお抱え魔法士だったらしく、自他ともに認める天才だったようだ。


 ちなみに使える魔法の最高位と冒険者としてのランクが相反しているのは、王宮で使える際に冒険者を引退したかららしい。あぁ、それと余談だが一度冒険者をやめても冒険者に再びなることはできるのでミーナさんもそのまま上級冒険者だ。最も、彼女の場合はギルドの事務作業と俺の特訓の兼任ではあるが。


 と、いらぬ話はここまでにして、先も言った通りそんな若手の天才魔法士がどうしてこんな辺境の始まりの街でボロボロな図書館を構えているのかは俺にも定かではないが色々と理由はあるらしい。


 それに。


「あの、俺を研究材料にするとかなんとか言っていたのはどういうことなんですか?」

「ん、あぁ、あれか? 特に何もないぞ、ただ夜の店番がだるいからやってもらいたいだけだが」

「はぁ? 俺って、もしかしてただの司書してます?」

「あぁ、そうだ」


 正直、いくらなんでも嫌々了承してやったつに横暴すぎだろ! と怒り狂いそうになったが、彼女はこれでも元絶級冒険者で道行く人に声を掛ければ誰もが知っているような魔女なのだ。


 一緒にいれば何か得るものがあると考えれば安いものなのかもしれないと考えたわけだ。


 さすが俺だ。


 社畜時代のどうでもいい会社のお偉いさんに居酒屋に連れて行かれるときの考えの転換でわんちゃんいいことあるかも! 戦法を使えば気持ちは楽になる。


 だがしかし。


 勿論、こっちもただ無償に働くわけにはいかない。

 そこで彼女に条件を押し付けた。


「——それで、ドラゴさん。働くのは別に構いませんが条件があります」

「条件? なんだ、言ってみろ?」

「俺の宿代をください」


 これに関しては俺にとって必要不可欠な問題だ。

 今までクエストを受けると言っても落とし物探しや逃げたペット探しと言った感じで請け負っていたものは初級冒険者の範疇にとどまっている。


 無論、もらえる金額も銅貨1枚程度。勿論、そんな金額だけではやっていけるわけもなく、最初にもらった銀貨だけでやりくりしていたが最近は資金も底をついてきている。


 それに、あの安すぎる宿屋に止まるのも悪いわけではないが長期的なプランで行けばあまりいい策だとは思えない。


 あと、こっちの世界の冒険者の形と俺がいた世界の冒険者像が少し違う。冒険者だから絶対に宿屋――なんていうのは無いらしく。皆、お金が溜まれば自分の本拠地となる街に家を買うか、借りたりするそうだ。


 そのため、賃金を出さなくてもいい代わりに宿屋代を負担してほしい! できれば生活費諸々貰いたい! というか5000兆円ほしいぃいいいい!!!!!



「——宿代?」

「はい」

「どうしてだ?」

「いや、どうしても何も――さすがの俺も無償で働くのは無理ですよ?」

「わがままだなぁ……私はこれでも英雄級冒険者だぞ?」

「それは聞きましたよ……でも、働くときにはしっかりと労働者の権利を守っていただきたいんですっ」

「……そうか、まぁいいだろう。ただ、宿代じゃなくて寝床を提供するってのはどうだ?」

「寝床?」

「あぁ、奥に1室倉庫があるから使ってくれ」

「そ、そうですか……」


 奥? ちょっと嫌な予感はするが、まぁお金がかからないということなので良しとしよう。


 それに、何かいい魔法書と出会えたら読み放題だしな。







 そんなこんなで働き始めて早数日。

 働くと言ってもミーナさんとの訓練が終わった後、誰も来ないこの図書館のカウンターで座っているというものだった。


 勿論、誰も来ないならば好きなことをしてもいいということなので俺はこの図書館にあった魔法書を片っ端から読んでいった。


 ちなみになぜこんなおんぼろ図書館がやっていけているのかについては色々考えたがよく分からなかった。


 国の冒険者だったから色々と補助金が出ているらしいが本人曰く、若手の育成として自らの役に立った魔法書を読ませてあげたいから――というのは建前で、ゆったり過ごすための口実が欲しかっただけらしい。


 まったく、天才はロクな奴じゃないと言うがこの世界でもそれは通用するようだ。


 とはいえ、見せてもらわないと困るので俺は隣でぐーすかしているロリっ子メガネ魔女を叩き起こしてこう言った。


「明日、絶級魔法見せてくださいよ」




 

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