第13話「魔女の誘惑」


 今日は特訓の休日ということで俺はプロローグの街の東にある小さな図書館に

にやってきていた。


 普段は王立図書館に言って速読スキルを存分に使っていたのだが、あまり同じ場所だと飽きるので最近ギルド内で小耳に挟んだ場所に来てみたというわけだ。


「んで……来て見たけど、ここに魔法書はあるんかな」


 大きな通りを抜けて、小さな通りに入ってすぐ。見えてきたのは今にも壊れそうなボロボロの木材の看板に、小屋ほどのサイズの小さな建物だった。


 まるで雑貨屋さんの様な見た目で口が裂けても図書館とは言えないものだったが、これでもギルド内にある魔法使いコミュニティーではかなり有名な場所らしく、店主の魔女は昔かなりの実力者だったらしい。


「とはいえ……やっぱり、ぼろすぎだよな、これ」


 ボロボロの腐った木に立てつけてある黒板には『ドラゴ図書館』と書いてある。名前から想像できるドラゴンのようなインパクトはなく、むしろ蟻のような貧弱なものを感じるほど。


 あきらかに有名な図書館には見えないが、前世でもいい店は穴場と言われてあまり人眼にはつかなかった。


 そう思えばいいのだろうか。

 正直、迷うところだな。


 まぁ、ひとまずは入ってみようか。


 ガチャリ。

 

 金属製のドアノブを捻り、木の扉をゆっくりと開いていく。同時にさび付いているのか、腐っているのかギギギと深い音が鳴って、一気に恐怖が増してくる。


 魔女と言ったか。

 この世界に来て数日で魔女と言う言葉がこっちの世界でどのような意味を持つかは分からないが、少なくとも俺のいた世界では悪い意味があったので少々不安だ。


 ぐっと身を縮めて、念のために『炎弾ファイアーボール』を手に召喚して、ゆっくりと入っていく。


「ごめんくださーい」


 警戒心はバリバリだが、礼儀は忘れない。

 これがジャパニーズ魂ってやつだ。


 すると、すぐさま返事が返ってくる。


「うっ、うがぁ……誰だぁ」


 薄暗い部屋の奥から何やら可愛らしい声が聞こえてくる。

 魔女がやっている図書館ならもっとこう、低くてどす黒い声だと相場が決まっているはずだが——ちょっと拍子抜けだ。


「あ、あのぉ……」


 ゆっくりと歩みを進ませ、中に入ると見えてきたのは机に突っ伏している女の子だった。


「んん~~ぅ……誰だ、お前?」


 彼女がそう言うとボっと明かりがつき、一面が照らされる。


 目を擦って、眠そうに欠伸までする少女。

 ブロンズ色の瞳に、三つ編みで束ねた藍色の長髪、丸眼鏡まで掛けていてインテリ感が見受けられる。ちょっと口は悪いが子供らしい可愛さがある。


 だが、こいつは一体誰なんだろう。この店のカウンターにいるし、店番でもしているのだろうか。


 魔女の子供……いや、弟子って言う可能性もあるか。


 どっちにしろ子供みたいだし、ちょっと聞いてみるか。


「えと……俺はクニキダって言うんだけど、君、ここの店主さん知らない?」

「クニキダ……聞いたことない名前だなぁ。まぁ、いいか。んで、店主は私だが?」

「え、あの……魔女さんとかいるんじゃなかったっけ? 結構評判も聞いてて腕利きの魔法士らしいんだけど」

「あぁ、だからそれは私だけど?」

「え? でも魔女だって」

「魔女は私だ。お前、私のことをおちょくっているのか?」

「いや別に……ただその、魔女って言うもんだから白髪の不気味なおばあちゃんだと想像してたから……なんか、ちょっと予想外で」

「……お前、魔女に偏見持ちすぎじゃないのか? あと、おばあちゃん呼ばわりされるのは不快だ」

「いや、そんなつもりはないんだ。悪かったな」

「あ、あぁ……」


 どうやらこっちの世界の魔女は魔少女らしい。

 とはいえ、見渡す限りの本棚。おかれている背表紙には古めかしさが溢れ出ていて、王立図書館では見たことないようなものばかりだった。


 そんなラインナップに圧倒されていると少女が思い出したかのようにこう聞いてきた。


「なぁ、お前……もしかして魔法とか使える?」

「え、急になんですか?」

「いいから教えろ」

 

 圧が凄い。まぁ、冒険者として知られて減るものでもないので教えることにした。


「まぁ、使えますけど」

「ジョブは何?」

「え、ジョブ?」

「そうだ、ジョブだジョブ! 早く!」

「えと、まぁ……冒険者には向いてないようなやつですけど」

「……なんだ! 早く教えろ!」


 なんでこんなグイグイ来るんだこの子。

 何か、変なものでも布教しようとしているのか?


 ちょっと怖いな。


「その、司書ですけど」


 正直、恥ずかしさまじりで呟いたのだが——その瞬間、彼女の目がぱぁっと晴れていった。


 え、何々? こわ、俺なんかしたか?


 すると、ぐいぐいと距離を縮めてすり寄ってくると、俺の胸にぴったり顔をくっ付けて上目遣いでこう言った。


「やっと、見つけたぁ」

「え、え?」


 やたらと声が甘い。

 あれ、さっきまでお前とか教えろとか命令口調だったよね?

 

 なんだ、まじで何?

 怖いんだけど、新手のドッキリ?


 あ、でも、待てよ。

 これはあれか、モテ期ってやつ?

 さすが17歳の俺、運動しているせいかカッコよくなってるのかな? そうかそうか、俺にも遂に彼女が出来――


「お前! うちの図書館で働かないか!」


「え?」


 もはや、急すぎて驚きもしなかった。

 いや、正確には驚きすぎて声も出なかったのほうが正しいか。


 とにかく、いきなりの誘いに俺の思考回路は追いつかない。


「え、今何と?」

「だから、雇いたいんだ。ぜひともうちの図書館で働いてほしい!」


 念のため聞いてみたが言われたことは変わらなかった。

 しかし、俺が混乱していると彼女は右腕をがっしりと掴んできた。


 にこやかに笑い、楽しそうにこう告げる。


「私はドラゴ・フォン・ツインベルグだ。よろしく、クニキダよ!」

「え、ちょ、俺はまだ承諾してn——」

「いいからいいからぁ、お前には魔法の素質があるからぜひとも研究材料にさせてくれ!!」

「ま、待て、どこ、どこにつれて——あぁぁぁぁああああああああ‼‼‼」

 


 そう、そうして俺はロリっ子魔女が経営する街の小さな図書館に雇われてしまったのだった。


 


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