第11話「私が仲間になってあげるわよ」
「ど、どう……でした、かぁっ……うっぷ」
俺の方はと言うと、久々の運動でへとへとだった。
食ったものがすべて出てきそうな吐き気に見舞われ、足腰がバキバキと痛む。
よく考えてみれば、俺は元々運動が苦手だったはずだ。
そう言うのを含めて魔法を使うような「司書」っていう役職になったのかもしれないが……にしても、ここまで動く必要があるのか、この世界の魔法使いは。
魔法使いといえば後ろからの後方支援なのに。
しかし、そんな膝に手を付ける俺をゴミを見るかのように呆れた視線を向けてくるミーナさんを見れば歴然だろう。
「……やっぱり、冒険者やめた方がいいんじゃない?」
まぁ、それを言われるのはごもっともだ。正直、やってみなきゃ分からないだろうとは思っていたが——ここまでやられてそんなことは言えなかった。
「……ですよね」
必殺、愛想笑い炸裂。
しかし、効果はいま一つのようだ。
はぁ、きっとポケットに入っちゃう系モンスターじゃこんなログが流れているだろうな、きっと。
「まぁ、決めるには早いかもしれないけど今みたいな戦闘じゃ本当に不向きよ。それでも戦いたいって言うなら何か他の役職を仲間にすることを勧めるけど、今のあなたには魅力がないから集まらないわね……」
「うぐっ」
さすが元上級冒険者。
痛い所を付いてくる。
「それに、才能を感じられないわね、あなたには」
「……ちょ、あの、さすがにそこまで言わなくても」
「だってあなた、私がそうでも言わないとまたクエスト受けようとするんじゃない?」
「……」
「ほら、図星よ。だめよ、そんなの。うちのギルドでは今年の目標で死者を出さないようにサポートするって決めてるのよ? あきらかにルーキーで弱そうなあなたをクエストに行かせたら死ぬって決まった様なものじゃない」
「それは言いすぎじゃ」
「言いすぎじゃないわ、それに心配性でもない。これはあくまでも私の昇進のために考えていることなの。経歴に傷をつけないで頂戴っ」
才能がない。
全くと言っていいほどない。
理解はしている。王城で捨てられらた時から、なんとなくそうは思っていた。
彼女の言っていることは確かに一理ある。強さ的には申し分ない元冒険者が言うことだと思えばそうなのだろうが、府には落ちない。
だいたいだ。この世界にまで飛ばされて、意味も分からず、前世の残業たらたらの人生から解放されたと思えば今度は無能ですって、余りにも理不尽だ。
俺だって一度は冒険者をやって生きていきたい。
それに、この典型的なツンデレキャラみたいな言いぐさはなんだ。
「……俺だってなりたいんですよ、冒険者に」
「どうしてよ、別にいいものではないわよ。冒険者と言うのは」
「今までロクな人生じゃなかったからですよ。楽しくもない。生きる意味なんてなかった。自由を求めていた。そんな中、ようやく自由な冒険者になれる機会を貰って、それでまた無理だって言われても……簡単に引き下がれないですよ」
思わず本音が出てしまい、ミーナさんは少し重そうに俯いた。
それが俺には見えていたが続けてこう呟いてしまった。
「それに、クエストなんか受けなくても一人で山の中に入っていますよ……」
「っ——そ、それは駄目ぇっ‼‼‼‼‼‼」
呟いたその時だった。
悪態を、なんとかしてもらおうと頼ろうとして呟くとミーナさんはもの凄い剣幕で俺を諭した。
両肩を握り締められて、まるで何かに囚われているかのように見つめられる。
「っど……ど、ぅして」
あまりの剣幕で体が固まってしまった。
「だ、駄目なんだよ……絶対」
「な、何が——」
「そうやって若いやつが死んでいくのが嫌なんだよ!! 昔、そう言って死んだやつがいたんだ! お前よりも才能があってきらきらしていた若者がつぎの日は骨になって帰ってきたんだ! そりゃ、たまたま魔王軍の幹部に出会ったんだから仕方なかったけど……私が行かせなければそうはなっていなかったんだよ……っ。私がついて行ってれば」
「……そ、それは」
「だから、頼む……」
そこまで言われて俺は口を噤んだ。
なりたいものはなりたいが、よくよく考えれば確かに俺だって死にたくはない。
だが、もう生き方に縛られたくなんてはない。
ゴブリンにも苦戦せず、少なくとも中級冒険者になれるくらいには強くなりたい。
しかし、目の前に立つミーナさんの表情は変わっていなかった。
辛そうで、悲しそうで、でもどこか望んでいる様で。
そう、何か新たなものを欲するような……。
いや、待てよ。
そうか、その手があったか。
ハッとして俺は口に出す。
「ミーナさん、また冒険者になりませんか?」
「えっ」
「冒険者になって俺と冒険しませんか? 俺はまだまだなのはわかってますし、向いていないのは分かっています。そのうえで特訓してくださいよ、一緒に」
「わ、私は——ギルドの仕事が」
「冒険者なら食っていけますし、それにもう仕事なんて来なくなるでしょう?」
すると、まんざらでもなく顔を背けた。
あそこまで暴れたんだ。彼女に仕事を頼む冒険者はもういない。
それならば、可能性はある。
「ダメ、ですか?」
「……」
数秒ほど悩んだ末、彼女はこう言った。
「……一人立ち、するまでなら」
そんなこんなで転生してからおおよそ三日。
俺には新しい仲間、魔法士のミーナ・ストラルシアが加わった。
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