第5話「冒険者とは何か」

 そうして、下町の東側……と、そうだな。


 名前を聞いていたけど、言うのを忘れていた。

 

 この下町の名前は「モノローグ」と言うらしい。あまりにも単純な名前だなと思ったが、宿屋のおっさんが言うにはこの街はやはり始まりの街だそうだ。


 まぁ、名前はいいとして今の俺には丁度いいのかもしれない。


 ゲームにありがちな設定に親近感を覚えて少しだけ笑ってしまったが、そんなチュートリアル的な街が一つや二つでもないと俺としては困るからな。





 というわけで、下町の東側。


 宿屋から1キロほど歩いた場所に少し目立つ大きな建物が目についた。


 豪勢な扉に、ドラゴンの頭のオブジェ。


 入り口の前には2匹の犬? のような、神社にある狛犬のような感じの生物の石像が階段を上る俺を見つめていた。


 もちろん、動いているわけではないがかなりの威圧感を感じて少しだけ肩に力が入る。


 そんな初めて見るものばかりのギルドの扉を開けると、中も中で一風変わった空気が流れていた。


 手前にはバーのカウンター席があり、その後ろにはご飯を食べたりするであるテーブルや席が並んでいる。そして奥の方には受付嬢のお姉さんが佇む冒険者用のカウンターがあり、その両脇には階段があって2階に続いている。


 広いっ——と率直にそう思った。


 いや、別に分からなかったわけではない。


 異世界作品のアニメに出てくるギルドは大抵デカいし、何より外観を見て大きいだろうなとは思っていた。


 ただ、こうして実際に内部に入ると否が応でも何かしらの圧を感じる。


 とはいえ、さすが冒険者ギルド。

 

 ここで多くの冒険者が手続きをしたり、仲間を集めたり、クエストを選んだりしているのか……なんか、こう……胸を擽られるな。


 そう、いつになっても男の子は冒険がしたいのだ。


「ふぅ、よしっ。まずは登録からだなっ——」


 すっと一歩足を踏み入れると、目の前でお酒のジョッキを運んでいたウエイトレスのふりふりリボンを付けたお姉さんがニコリと笑みを浮かべながら堂々と叫ぶ。


「いらっしゃいませ~~!」


 すると、その声に呼応して他の場所にいるウエイトレスのお姉さん方に次々に伝播していく。


「いらっしゃいませぇ!」

「いらっしゃいまぇええ」

「いらっしゃい~~」


 と言った具合で、ここまで熱烈なお迎えは初めて狼狽えてしまったが周りには他の冒険者もいる。


 ここで弱みを見せたら所謂初心者狩りって言うのをされるかもしれない。


 さすがにそれは避けなければいけないため、俺は虚勢を張りながら胸を張って受付まで歩いて行ったのだった。





 受付の前に来ると、金髪碧眼、そして胸の大きいな美しい女性が笑顔でこう訊ねてきた。


「今日のご用はなんでしょうか?」


 あぁ、そうか。


 と、あまりにも綺麗で可愛くてついつい近寄ってしまった。


 ——というのは半分嘘で半分本当なのだが、置いておくとしてまずは今日来た意味を果たすことにしよう。


「あぁ、えと。その、新規で冒険者に登録したくて……できますかね?」

「新規ですね、承知いたしました。少々お待ちください」


 そう言って数十秒ほど裏に入っていく受付嬢さん。戻ってきて1枚の紙とペンを渡される。


「まずは、お名前と希望職業について書いてください。それが終われば適性やランク付けのために2階に上がって水晶室へ行きますのでよろしくお願いします」

「は、はいっ」


 これまた美しい笑顔だなぁと心の中で感心しながら、ペンを入れていく。


 そう言えば、召喚されてすぐにこっちの言語を理解できて話せるようになったがどうやら文字も一緒らしい。


 見たことがない謎の文字なのに意味がすらすらと分かるし、なんなら知らない文字をスラッと書くことだってできる。


 魔法とやらは本当に不思議だ。


「これで大丈夫ですかね」


 そう言いつつ渡すと受付嬢さんは確認を始める。一通り見て問題なさそうと判断したのか、笑顔でこう続けた。


「はいっ! では、2階に上がって測定を始めましょう!」


 そうして始まったステータス測定。


 正直、この手のことはしたくなかった。


 まぁ、したくないというか期待してないというか……少し希望を持ってしまう自分がいて嫌になるからだ。


 でもまぁきっと。

 これから自分のステータスとは仲良くしなきゃならないから目を背きたくはないけど。


 しかし、結果は同じだった。


 1階の受付に戻ってきてからというものの、受付嬢のお姉さんの心配そうな目が収まりそうにない。


「あ、あの……でも、他にも職業は色々あるので他のでもいいのでは」

「いやぁ、その、冒険者になりたくて……無理っすかね?」

「無理って言うわけではないんですけど……その冒険者と言うよりもた司書とかの方が向いているのかなと」


 うん、そうだな、ですよね……という話だ。


 俺のスキルは「速読」なのだ。

 普通に考えたら本を読む職業の方がいいかもしれない。


 この感じ聞いてたら宿屋のおっさんの言い分が本当だったか少し疑わしいが……まぁ、それは後で聞いてみるとして、俺はやると言ったらやる男なのだ。


 ここは嫌でも突き通したい。


 それに、なんで異世界に来て図書館で働きゃいけないんだよって話だしな!!


「いや、そのでも……それじゃあ、クニキダ様にもしもがあったr——」

「覚悟はあるので、その、させてください」

「でもぉ……」

「でもです!」


 結局、俺の押しに根負けしてもらう形ではあったものの俺は冒険者にさせてもらうことができた。


「それで、その……これが冒険者カードです。とても大事なものなので無くさないで持っていてください」

「そ、そうか」

「なくすと再発行はできますが別途料金がかかってしまいますのでご注意を。それと、このカードはどこの国でも冒険者組合の施設なら——つまりは冒険者ギルドならどこでも使えるので遠慮せずに使って下さい」

「……こ、これってどう使うものなんだ?」


 正直、ただの個人情報が書かれたカードだと思っているのだがそう訊くと彼女は少し不思議そうな視線を向けた。


「あ、そ、そうですね……これはギルド内での食事が少し安くなるのと、組合関連の施設ならどこでも入れるパスにもなります。それに、このカードがないとクエストが受けられないので」

「そ、そういうことですか、ありがとうございますっ」

「えぇ、あとそうですね。一応、クニキダ様のジョブは冒険者の中では司書というジャンルになりますので、攻撃手段は魔法になりますね。初級魔法辺りは使えるようになってからクエストを受けるようにしていただけるといいかなと思います」

「え、ちょっと待って、しれッと変なこと言わなかった?」

「へんなこと?」

「いや、だから司書だとかなんとか」

「……だから冒険者はやめたほうが」


 目を見て分かった。どうやら、ジョブは替えが効かないらしい。

 だから言ったのにと目がそう言っていた。


「や、やっぱりなんでもないです。

「は、はぁ……」

「それで、魔法の事なんですけど、初級とか何とかって言ってませんでした?」

「あ、はい。そうですね。一応世界には初級、中級、上級……そして絶級、超級、聖級、神級と7段階ありますね。ただ、冒険者も魔法も上級までいけばかなり強いと言われるので目指すならそこを目指して頑張るといいかもしれませんよ」

「そうか、まずはゆっくりとって感じか」

「はい、そんな感じです」


 まぁ、ひとまずはクエストでも受けながら模索していくとしよう。


「助かった、それじゃあまた来る」


 そう言って、一度受付を離れることにした。




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