第1話「異世界転生と生意気女神」




 顔をあげると目の前にいたのは俺をゴミを見るような目で睨みつけている美少女だった。


 いや、美少女か?

 凄まじく綺麗で美しいが——美女の方がこの場合正しいかもしれない。


 燃え盛る紅色の長髪に、キリっとした灼眼。


 背の高さはここからではあまり分からないがおそらく日本人女性の平均値くらいはありそうだ。


 長く白色の綺麗な素足を組んで、なぞの玉座の上に鎮座している。手には何か分からないが豪勢な分厚い書籍を掴んでいて、炎のように燃え盛るスカーフが彼女の首や肩でうごめいている。


 薄手で今にもあんなところやそんなところが見えそうなスケスケの洋服? いや、神話の神が着るようなローブを着ていて、思わず彼女に見とれてしまっていた。


 そして、何よりも。

 ————なんだこの胸!?


 デカい――なんて比ではない。

 あまりにもデカすぎる。

 豊満も豊満。

 何から何まで豊かすぎる胸だ!


 休日はよくAV女優を眺めて過ごすのが好きだったから女性の裸体なら画面越しに何度も見たことがある。


 もちろん、胸が大きい女優さんもいたが——そんなのこれを前にしてしまえば勝負にもならなかった。


 豊胸手術している彼女たちの胸よりも、綺麗で大きく、何より豊かで心にグッとくる何かがあり、全てを感じさせてくれる。


 あ瞳は魅惑の谷間へと引き込まれていく。


 しかし、そんな風に見惚れている俺を彼女はこんな言葉で切り裂いた。


「——凝視して気持ち悪いんですけど、無能なおじさんっ」


「は、はい?」


 え、無能なおじさん?

 まぁ、無能なのも気持ち悪いことをしていたのは認めるが……ちょっと言葉が悪くないか?


 目の鋭さと言い、何かしら怨念を感じるんだけど、別に彼女に何かをした記憶はないぞ。



 ——いや、まずここはどこだ? なんで俺こんな場所にいるんだ?

 なんでこんな美しい人が俺を見下す様に見つめているんだ?


 確か、さっきまで——仕事してて退勤して、そして夜道で。


「あなたは夜道で倒れたんですよ、疲労で」

「あ、そうそう!! って、え?」

「え、も何もあなたは死んだんですよ。分かりませんか、頭足りてます?」

「や、え、いきなりそんな風に言われましても……それになんでさっきから切れ気味」

「うっせぇ、ぶっ飛ばすぞ無能がっ‼‼‼‼‼」

「——っひぇ⁉」


 やばい、おっぱいデカいと思ったけどそんなのどうでもいいくらい怖い。

 覇気が凄い。うちの上司なんか比ではないぞ。


 性格に難ありなのか、このお姉さん。


 どんなに可愛いく美しい美女でも怒ると怖いもんだな。


 まぁ、俺はと言うとなんでこの女の人が怒っているのかも分からないし。


 やっぱり胸でも見ないと示しがつかないよな、俺ばっかり攻められて。


「見るのは勝手ですが、この手で目ん玉穿りますよ?」

「な、何でもないですっ‼‼」

「はぁ、ったく。最初からそうしておけよ、ほんと」


 やべぇ、マジで本物だぁ。

 怖すぎなんだけど。


 ただ、ここでうやむやにされても困るので再び問うてみることにした。


「あ、あの——それで、この状況は?」

「……ぁあ?」

「っ」


 いや、こういうのは自分で考えるよりも人に聞く方が話が見えてきたりするものだと——俺の長めの人生で学んだんだ。


 しかし、そんな経験は彼女の瞳と罵声によって潰されてしまう。


「自分で考えることもできないのですか、この能無しは。あぁ、まぁそれはそうですね」

「や、だ、だって……」

「はぁ。まぁいいです。能無しはどこまで言っても能無しですもんね。せっかくです。これも仕事なので、この転生の女神【リ・ライフ】様が答えてあげましょう」

「——あ、ありがとうございます」


 どうやら聞きだすことが出来そうだった。


 


「——てなわけだ」


 そうして教えてもらったのは俺がまず、前世で死んでしまったこと。

 

 そして死んだところでどうやら神様の手違いによりとある異世界に召喚されようとしていること。


 その召喚の前の儀式として神にギフトを頂ける機会に会っているということ。


 何より、この場は神界と地界を結ぶ場所で、俺の前にいるこの真っ赤な女性は転生神の娘で、転生を司る女神「リ・ライフ」だと言うことだ。


 まぁ、転生だとか、ギフトだとか。


 俺みたいな30歳のおじさんがいきなりそんなことを言われても理解に時間がかかるのだが——いつしかのなろう系のファンタジー小説か、それが原作の異世界なろう系アニメで見た気がする。


 死んで転生して、チートスキルで無双とか。

 そんなお話だったっけ。


 いや、待てよ?


 女神様が目の前にいて、この精神世界のような場所。

 加えて、さっき言っていたギフトを頂けるとか何とかって言う話。


 もしかして、もしかしてだけど。

 俺は今異世界召喚される前にスキルって言うのを貰えるってことなのか?


 そう思うと、目の前で足を組む彼女が横やりを入れてきた。


「そういうことだけれど、あなたにはチートスキルは上げられないですよ?」

「やっぱり! 俺にもチートなスキルを……って、え?」


 今、この女神なんて言った?

 俺には


「あなたには、便利なチートスキルは上げられないってことです」

「あ、あげられない?」

「えぇ、そうです」


 まさか、そんなことあるまいと視線を送るが女神さまはと言うと「こっち見るな」と言った強めの表情で跳ね返す。


 え、俺って本当にもらえないの?

 異世界転生って最強スキルを貰えるのが定石じゃないの?


 そう思ったがそんな幻想はすぐに消え去っていく。


「それは有能な人材だったらっていう話。つまり、あなたは無毛な人材ってこと。ランクもFからSSのうちの最低ランクのFです。どっちにしろね、あなたを異世界に送っても魔王は倒せないし、何よりあなた方を召喚する人たちがげんなりするだけなのだけれど……まぁ、面倒だからいいです」


「え、いやちょっと待ってよ! それって何? 俺ってもしかして見捨てられるってこと?」


 制止を促すが彼女は止まらない。

 口遊む言葉、グッと身構えながらも女神さまの言葉を堪えていると彼女はさらにこう言った。


「あなたは無能なの。だから、あげられるのはF級スキルだけっていうことなんですよ。あぁ、それともう付与が終わりましたから、あとは適当に頑張ってみてください」


「え、ちょっとそれじゃあ――」

「私は知らないです。幸運を、じゃあ能無しさん」


 何か言い返そうとすると途端に体に力が入らなくなり、結局俺はそのまま転生されてしまうのだった。

 

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