第15話 善意でなければいけないですか?
メイが在籍している学校はカトリック系で、教師の中にはシスターがいるし、敷地内に礼拝するための立派な教会も建てられている。希望者は日曜の礼拝に参加をするし、系列の教会でのボランティアにも任意での参加も可能だ。
休日でのボランティアは強制ではないのだが、年に数回は授業の一環として体験する。授業の方は強制で、休むと別の日の奉仕作業へと駆り出される。
ボランティアと言ってもそこまで難しい事ではない。休日に参加しなかったからと言って学校の成績に直接影響するわけではないが、進学する際の心象の一つとしては判断材料にされる。
就職などでもあるが、大学時代の経験として海外ボランティアの参加や、学園祭の実行委員会になったなどの様に、積極的で行動力のある人格者という印象を与えるための手段の一つでもある。
メイは寮生活という事もあり、日曜の礼拝に欠かさず参加している。もちろん体調不良や外せない用事などがない場合ではあるが、常連としてシスターにも覚えられている。
元より信仰心の強い生徒が多い事もあるが、在学中に洗礼を受けて信者となる場合もあるので、その特色は、生徒達に強く反映されているだろう。
その日の休日には、メイはイクと共に町にある教会でのバザーにボランティアとして参加していた。売上金は教会と教会が運営する養護施設への寄付になる。
時折、ボランティアには参加していたメイではあったが、正直に言えばイクが参加している事に少し驚いていた。
「島原さん、折角の休みに、本当に良かったの?私としては話し相手が居て嬉しいし、バザーの品を寄付してくれて、とてもありがたいけれど」
「んー?ああ、別に気にしないで。本当にただの気まぐれの類だから。暇だったし、姉さんからも一回ぐらいは体験しておくように言われていたから」
イクの姉も母親も祖母も母校という、半ば伝統と化しているが、イク自身が宗教を信仰しているわけではない。祖母はそれなりに熱心な信者ではあるそうだが、それを家族に強制したりはしないと、イクから聞き及んでいる。
「うちの方針で、面倒だと思う事も、一回ぐらいは経験しておくようにって。授業の一環で老人ホームに行った事はあるけれど、任意での参加もしておいた方がいいって言われたから」
イクはバザーの話を聞いて、実家に使っていない、今後も使用しない新品の品は何かあるかと連絡を入れてくれた。勝手知ったる彼女の姉や母親が、親戚にも尋ねてくれたおかげで、貰い物のタオルや石鹸、乾物や缶詰などの贈答品が集まった。
明らかにお中元やお歳暮い貰いはしたが、忙しかったり好みでなかったり。親戚にも尋ねてみたが皆が似たり寄ったりの物を貰っていたために、消費しきれそうになく持て余していた品々を、紙の箱から開封してテーブルの上に置いておく。
バザーは教会の前庭で行われており、花壇に囲まれた広場を利用して、机とパイプ椅子に日よけの簡易テントを張り、そこにに商品を並べて、それぞれに値札をつけていく。
商品の値段設定は決められており、値段が書かれた看板が立てられている。それぞれ定価より三割ほど安い値段を設定されている。定価の分からないものは類似品の値段を参考に決められており、もちろん食品に関しては、消費期限によってはさらに安くなっている。
実際に、物によっては定価の半分の値段で手に入る事もあり、隣の町から足を延ばしてくる人もいるぐらいには、毎回賑わいを見せていた。
この商品の仕分けが地味に難しく、人手が必要なので、生徒達はもっぱらそちらの手伝いに回されている。数日前に寄付されていた品はすでに仕分けされているが、当日に持ってこられた品も多数あるため、皆が忙しなく動いている。
少し離れた場所ではコンロが設置されており、アルコールを飛ばしたホットワインやジュースやお茶、手作りの豚汁などが売られている。洋風建築に和食なのはご愛敬だ。
別の場所ではシスター達が作って袋詰めされたクッキーや、信者が作った手芸品なども売られている。
様々な品が色とりどり並んでいる光景は、眺めているだけでも十分に心が躍る。女性はウィンドウショッピングが好きだというが、やはりこういった催しは自ら足を運んで参加するものだと、メイは綺麗に陳列されている品々を見て思った。
「すごいねー。遠目だけど、あの辺のぬいぐるみとか手提げかばんとか、手作りには見えないね。私、大雑把な性格だから、ああいう、ちまちました作業は苦手。素直に尊敬する」
イクが一週間ほど前に教会に寄付した品々の陳列が終わり、用意していた手製のポップを添える。昨日の晩に、メイとイクで作ったものだ。画用紙を二つ折りにして、表面には文字や簡単な絵を描き、それを正面に向けて立てる。
「天草さん、いつもありがとう。島原さんも、今日は参加してくれて本当に助かりました。沢山のバザーの品を寄付をして下さり、本当に感謝しています」
一通りの準備が終わった所で、教会のシスターたちが順番に回り、ボランティアに参加してくれた事への感謝を伝えていく。
「いえ、私が望んでしている事ですから。何事も経験だと思っています」
「私も、興味本位での参加なので、至らない所はあるかとは思いますが、誠心誠意努めたいと思います」
メイとイクはシスターに頭を下げる。メイは少しどきどきと鼓動が大きくなるのを感じながら、微笑みを浮かべて対応をする。イクは人付き合いになれているおかげで、お辞儀の仕方も丁寧で綺麗だ。
二人は学校の活動の一環という事で、制服を着用している。
十二月という事もあって、午前十時前と言ってもそれなりに気温は低い。幸いにも天気予報通りに、澄んだ空気の冬の空は晴れ、薄い水色が広がっている。
制服の上からコートを羽織り、制服の下はヒートテックのシャツを身につけているし、首には淡い白色のふわふわのマフラーを巻いている。手には滑りにくい性質の手袋、足には黒いタイツを履いて、外気温と直接接している肌は顔ぐらいだ。もちろんお腹や腰回り、そして靴の中には張るカイロを仕込んでいる。
イクも似たり寄ったりな事は、寮で確認し合ったのでお互いに知れている。
おしゃれは我慢だとは言うが、それは常時発動する物ではないと、メイは思っている。もちろんカガリとのデートともなれば、心構えとして、気合を入れて雰囲気を大切にするために、カイロはせいぜい張らないタイプを上着のポケットに忍ばせる程度だろう。
けれどボランティアに大切なのは、行動力と仕事を全うする心構えと愛想笑いだと、メイとイクは心を同じくしている。
バザーで稼いだ寄付金は、養護施設の子供たちのクリスマスのご馳走とプレゼントへと変わる事が決まっている。さらに余剰が出れば、新しい石油ストーブを購入するのだと、手伝いの最中にシスターたちが嬉しそうに話してくれた。
シスターたちがその話をする際の微笑みは、見ている側がほっとするような優しい物で、それが彼女たちの心からの笑みなのだと、人生経験の浅いメイにも分かった。
そんな風に赤の他人のために、心から努力して行動して、誰かの幸せを嬉しいと喜べる彼女たちの事が、メイは尊敬をしていたし、とても好意的に思っている。
それは自分が『天国へ行くための善行』を行うために、積極的にボランティアに参加している事への後ろめたさが起因していると、メイ自身気が付いていた。
イクはその辺りは割り切っていて、人生経験と姉からのお達しという理由があり、参加して働く事に意義があると断言していた。
「やらぬ善より、やる偽善て、結構いい言葉だと思うんだよね。テレビの向こうの外国での内戦を嘆いて神に祈るよりも、ちゃんとした機関に義援金を託す方が、ずっと生産的だし、向こうの人達も喜ぶに決まっていると思う」
そう言い切って笑っているイクには、後ろめたさなど一切感じ取れず、心からそう思っているのが感じ取れた。
メイにはそこまで割り切って考えて、動くことは出来ない。イクの意見は同感だし、偽善であろうと人助けをする人間の方がいいに決まっている。
……そう思ってはいるのだが、メイの中にある信仰心がそれを咎めてくるのだ。自分の利益のために、誰かを助ける行為を善行と呼んでいいのだろうかと。
「島原さんは、本当に達観していて大人だね。そういう所、私はとても尊敬している」
素直に褒め言葉を口にしたメイに、イクは気恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべていて、その姿は年相応にとても可愛らしかった。
……さすがにそれを本人には言わなかったが。
バザーは開始時間直前には短いが入場を待つ列ができていて、開始と共に客がお目当ての品を探して、各ブースへと散らばっていた。
メイとイクは保存のきく、賞味期限が数か月先の食料品を担当していて、目の前に陳列されている品を客が吟味している様子を見ながら、時折来入するお客さんの対応をする。
商品の並んでいる長机の後ろには、休憩用のパイプ椅子と保温機能の付いた水筒、そして商品の数や売れ行きを記録するための書類と、小ぶりの簡易的な金庫とおつりが用意されている。
基本的にはブースごとに数人があてがわれてて、一人が休憩などで抜けても、もう一人が商品と金庫の番をする事になっている。前半と後半で交代要員が用意されているので、前半の部が終われば、後半はバザーを見て回るなり、教会の中で時間を潰すなり、先に帰宅したりと、そこは各々に任されている。
メイ達はあくまで中学生という事で、長時間の労働での拘束は良くないと、シスターたちが気を付けているらしい。本格的に手伝いをしている大人のボランティアたちは、基本的には休憩を挟みながらも、最初から最後まで参加する事になっている。
時間が決まっていれば、それを目標に頑張る事が出来るから、子供である自分達にはやりやすいと、イクは短期集中で頑張ると気合を入れていた。そこは商売人の血筋なのか、ボランティアといえど出来るだけ売り切りたいらしく、イクははきはきと明るい声で愛想のいい笑顔で接客をしている。
メイは元より人見知りの気があるので、微笑みを浮かべながらも、尋ねられた時の説明と、商品の代金を受け取る際だけの会話に注視していた。売れた商品はすぐに紙に記録して在庫管理をする。これは主にメイの役目で、客の相手はイクが率先して引き受けてくれている。
彼女曰く適材適所で、細かい在庫管理はメイの方が向いていると言ってくれた。メイは彼女の心遣いに感謝の言葉を述べると、こういうのはお互い様だと軽く口調で微笑んでくれた。
こういう所はやはり実家の影響で、教育がしっかりと行き届いているのだろうと、メイは感心してしまった。メイ自身大人びているとはよく言われるが、彼女から言わせれば、人見知りと感情を表に出すのが苦手なため、前以って争い事を避けて、出来る範囲での妥協をしているだけだ。
本当の意味での大人びているとは、イクの様な出来た人間の事を指すのだと、メイは心の底から思っている。
——何より、イクと友人となれた事に、心からの感謝をしている。
午前中の混雑する時間を終え、客足が落ち着いた頃に交代の生徒やってきた。彼女らもメイ達と同じボランティアで、学校の制服の上からコートとマフラー手袋と、防寒対策はばっちりだ。
交代要員の生徒達は頻繁にボランティアに参加しているため、メイとも顔見知りで、日曜の礼拝にも頻繁に参加している。首からはチェーンを通したロザリオをかけており、寮生活でもないのに、日曜日の礼拝のために学校に通っている様子から、敬虔な信者なのが伺い知れる。
メイは彼女達に挨拶を交わし、イクの事を友人だと紹介する。イクも人好きのする笑顔で丁寧なあいさつをした。
正直な所、イクを彼女たちに紹介するのは少し勇気が必要で、メイの心臓はいつもより早く脈打っている。
「友人」と自分で言い切るのは、とても勇気のいる事だと、メイは昔から思っている。「友人」というカテゴリーは、酷く曖昧で定義をするのが難しい。学校で暇な時間は共に居て、休みの日には町へと遊びに行き、寮での自由時間では相談事や愚痴を言い合い、とりとめのない雑談や世間話をする。
メイがイクと知り合ってから積み重ねてきた日常が、彼女達をゆったりと「友人」へと変化させていった。
メイは他人が思うほど、自分自身を信用していないし、自信も持ってはいない。いつも足元がふわふわしていて、自分の選択はこれで良かったのだろうか?間違ってはいないだろうか?誰かに迷惑を掛けてはいないだろうか?
——自分は善人だろうか?
……いつもいつも、目には見えない誰かに問いかけ続けている。
……けれど、答えが返ってくることはない。
メイとイクは役目を終えて、シスターたちに挨拶をしてから、折角なのでバザーを見て回っていた。
生憎と生徒たちの持ち寄りの品には興味がないし、さんざん検品の際に眺めていたので、それ以外のブースへと繰り出した二人は、真っ先に手芸が販売されている個所へと向かった。
「うわー、凄く良くできてる。これ、細かい網目で、市販品と遜色ないかも。私には絶対無理」
イクは机の上に並べられた見本品を手に取って確認すると、素直な賞賛の声を上げた。
購入する物に、不特定多数の人間が触れる事は好ましくないだろうと、商品の中から適当なものを選んで見本品として、前の方に並べている。基本的には全て類似品で違いは色ぐらいなため、客には購入した際に最終確認をしてもらい、紙袋に入れて手渡す事にしている。
少々手間がかかるが、商品を不特定多数の他人に触られるのは、購入する側からしても良く思わないだろし、汚してしまったりほつれてしまう可能性もある。
見本で凡その情報を確認して、最終確認で来入するかどうかを決めて貰っている。
バザーの最後には、見本品は半額程度の値段で販売され、それでも売れ残った場合は、大概の場合はボランティアの誰かが購入していく。
とはいっても、イクが口にした通り、かなりいい出来をしているため、毎回すべて売れてしまうのが常だ。
「……島原さんは、人からプレゼントをもらうなら、観賞用と実用とどちらの物が良い?」
メイは目の前に並んでいる、チェック柄の布を組み合わせて作られたクマのぬいぐるみを観察しながら、隣で見本のマフラーを確かめているイクに尋ねてみた。
「——んー。私はよほどぶっ飛んだ品だったり、趣味とかけ離れていない限りはある程度は傍に置いておくかな。その相手は性別、年齢、性格で、結構変わってくると思う。若い人なら、ある程度見た目重視の物でも良いとは思うけど、ある程度年齢がいったら、やっぱり実用性じゃないかな」
メイがこういう質問の仕方をしてくる時は、誰かの意見を参考にしたい時だと、付き合いの中で把握しているイクは、出来るだけ短くまとめて自分の意見を口にした。
もし、メイがイクへのプレゼントを贈ろうとしている時は、単刀直入にプレゼントはどういった物が良いか?と尋ねてくる。イクの趣味趣向を把握して、今必要としている物の中から、メイ自分の感性と値段と相談した品を送ってくれる。
「……年上の男性、かな。感謝……を、伝えたい」
言葉を選びながら返事をするメイの様子に、イクは少し意外に思いながら、自分の身近にいる年上の男性にプレゼントを贈るならと、頭の中でシュミレーションをしてみた。
「まあ、親族なら多少のチャレンジは許されるかな。後、あまり高い物でなくてもある程度は許容してくれるだろうし。それ以外の恩人とかに送るなら、使える物の方が喜ばれるだろうとは思う。無難なのは、形が残らない食べ物とか消耗品の類。それ以外は場所をとるから。人からのプレゼントって、基本的には捨てるのは忍びないし、ある程度の顔を合わせる相手なら、一切使っていないとなると、それはそれで……」
やはり無難なのは形も残らない、市販の普段は食べない高級な値段な食料品。それはメイも真っ先に思いついた。けれど、同時にカガリの手元に何も残らないのは、メイ自身が凄く寂しいと思ってしまった。
以前に、ハロウィンの時にカガリから送られてきた、綺麗な硝子の入れ物に入った、色とりどりの飴たちが脳裏をよぎる。中の飴を食べ終わったとしても、外側の硝子の容器は、普段使いが出来るように作られていた。
もし、食べ物を送るなら、そういう風に、少しでもいいから形をカガリの手元に残したいと思うのは、自分の我儘なのだろうかと、メイは思い悩んでしまう。
メイ自身、自分が重く、面倒な人間性をしている事はよく理解しているつもりだ。分かっていても、どうしようもないし、自分ではすぐに変える事は不可能だという事も分かっている。
——そして、同じぐらいカガリも面倒くさい人間だろうという事も察している。
面倒くさい人間が二人そろえば、それはそれは面倒くさい事態になるのは致し方が無い事だ。
メイは連想であらぬ方向へと向かっていた思考を本筋へと戻し、俯けていた顔の前で、手を前にたらして座っているクマのぬいぐるみを見つめる。
「手作りは論外だし、かといって実用的過ぎる物は印象に残りづらいし……」
「ああ——、うん。付き合っている相手でも、手作りのプレゼントは重いっていうしね」
メイは相手の情報を口にはしないが、おそらくはそこまでの関係性だとは思えないので、イクは友人がはっちゃけてしまわぬように、冷静に意見に相槌を入れた。
イクからメイへと最初の印象は、儚げで少女らしい美しさと可愛らしさが同居している。そして、少々失礼ではあるが、幸が薄そうだ。
メイは生命力の様なものを他者に感じさせない。
話しかければちゃんと話すし、自分の意見も持っているし、相手との関係性を考えて妥協したり曖昧に濁したりと、それなりに空気を読む事も出来る。読書家で、責任感もあるし、しっかり者。
興味ある話も、基本的な価値観も、お互いの距離感も、同じ空気感を共有できる。
けれど、生きていて、確かにそこに居るというのに、ふわふわとしていてどことなく不安定。静かに生きている。けれど、周りからの干渉で、簡単に散ってしまいそうな危なさ。
……まるで花の様。
そんな感想を生きている人間に対して、ましてや自分と同年代の少女にそんな感想を持ったことに驚いた。本来であれば、一番生命力に溢れている頃の筈だ。
だからこそ、心配になった。確かに年頃の少年少女には色々あるだろうが、メイのそれは別種の様なものに感じ取れる。
年頃の悩み、友人関係だとか、進路だとか、家族関係だとか、そういった類のものではない気がした。
メイはの瞳は、時折、あらぬ所を見ている気がするのだ。どこか遠く、きっとそれは形のない、曖昧なモノなのだろう。
だからこそ、イクにははっきりとは分からない。きっと、それは自分自身で答えを見つけて、納得しなければならない事なのだろう。
——それでも、友人として積み重ねた思い出が、彼女の足を地につけるための重しの足しになればいいと思うのだ。
「天草さんは、持ち合わせに余裕はある?」
見本のクマのぬいぐるみを手に取り、見つめ合っていたメイは、イクの声で我に返った。
カガリへのクリスマスプレゼントを考えながら、可愛らしいぬいぐるみだと思って手に取ってみたのだが、気が付けば思考に没頭してしまっていたらしい事に、メイはイクに申し訳なく思ってしまう。
「……ごめんなさい。少し、考え込んでいたみたい。持ち合わせなら、ある程度あるけれど……」
来るべきクリスマスに向けて、お小遣いを溜めているメイではあったが、生活費と学費はお小遣いは別会計だし、元より物持ちも良く、物欲は少ない方だ。そのおかげもあって、友人との遊興費ぐらいは捻出できる。
「せっかくだし、そのクマのぬいぐるみをお揃いで買わない?デザイン自体はよくあるモノだし、私も結構可愛らしいと思うし、まあ、折角のバザーなんだから」
温かい飲み物や昼食は、ボランティアにはただで配られるので、今の所はこれといったお金の捻出はない。
イクの台詞に、メイは少し逡巡してから、手の中にあるパッチワークのように色々な布が組み合わされたクマのぬいぐるみと見つめ合った。おそらくは手芸品の残りの布を再利用して作られた物なのだろう。
きっと物を大切にする人が作ったのではないかと、メイは漠然と考えながら、そのぬいぐるみのふわりとした感触を確かめる。
……友人との思い出の品。
メイは顔をイクの方に向けて、こくんと頷いて、蕾が綻ぶように嬉しそうに笑った。
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