第13話 除霊と愉快な仲間たち
遠藤くんと私(と碧子様)が大和さんにタクシーで連れてこられたのは、先ほどの駅前カラオケボックスから15分ほどの総合病院だった。
私と遠藤くんはその立派な建物を見上げて、首を傾げた。
「……やっぱり私、あちこちおかしいから病院で診てもらえってことかな?」
「お姉さんの言い分をまるっと信じた俺もおかしいから診てもらうのかな?」
遠藤くんは大和さんのことを卜部さん、私ことをお姉さんと呼ぶようになった。
「二人とも、まだ先があるんだからめんどくさいこと言ってないで行くよ!」
タクシーにお金を払い、スタスタと院内に入っていく大和さんの後ろを慌てて追いかける。
エレベーターに乗った大和さんは最上階のボタンを押した。30階までぐんぐんと登っていく。チンと鳴って扉があくと、そこはラグジュアリーな病院の展望ルームだった。
立派なソファーなどをキョロキョロと眺めながら早足で大和さんについていくと、彼は非常扉を開けた。ちょっと湿った外気が押し寄せる。
そこからさらに一階分、白い非常階段を上り、終点のドアを開けた。
轟音と、暴風が私たちを覆い尽くす。
そこには白に青のライン一本入った没個性的な小型ヘリコプターが、既に翼を回転させて待ち構えていた。
「ヘリポートってこと?」
遠藤くんが少しうわずった声で尋ねた。
「そ、時間が限られているからね。さあ乗って?」
追い立てられるように私と遠藤くんは後部座席に乗り込み、大和さんにシートベルトをつけられた。大和さんはパイロットの隣に座った。身振りで指示されかたわらの大きなヘッドホンをつけると、爆音が静かになった。
「俺、ヘリなんて生まれて初めてなんだけど」
「私もだよ」
「離陸するよ!」
このヘッドホン、マイク付きだったようだ。そうして話しているうちに、機体はふわんと浮かび上がり病院を離れ、高度を上げ、徐々にスピードを上げて進みはじめた。
「す、すごい……」
昨日宿泊した海を望むホテルが遠くに見える。下には大きな幹線道路。
「ね、ねえ。写真撮ってもいい?」
「どーぞー」
遠藤くんが許可を得て、スマホでパシャパシャとシャッターを切る。
「何が見えるの?」
「ん? 俺の学校」
「いいね」
たしかに、休み明けに学校の友達に見せたら盛り上がるだろう。しかしあっというまに景色は森一色になった。
「大和さん、どこに向かってるの?」
「東京。いつも使ってるうちの私有地で済ませるよ。それが終わったら、遠藤くんはまたヘリで送る。俺となっちゃんは羽田から最終便で九州に戻る」
その儀式? が終わったら、碧子様はどこに行くのだろう? とちらっと思いながら、珍しいヘリからの地上の光景を眺めた。
東京の高層ビル群を遠くに眺めながら、私たちはまた森の上を飛び、やがて変わり映えしない山の景色のど真ん中に、ポッカリ空き地が見え、ヘリは高度を下げ、ゆっくりと着地した。
先に降りた大和さんの手を借りて私と遠藤くんが地面に足を付けると、ヘリはまるで慌てるように飛び去ってしまった。
「え? 待っててくれないの? 置き去り?」
「ははは、なっちゃん、ちゃんと迎えにくるって!」
私と遠藤くんにはその確信は伝わらない。もうすぐ日が暮れる。秋の虫が既に鳴いている。
「さてと、ちゃんと準備はしてくれたようだね」
大和さんの言葉に改めて周囲を見渡すと、テニスコートよりも広い敷地をぐるりと松明が囲み、地面を見ると、一面に浅く何か幾何学模様のようなものが掘られていた。
「碧子様、出てきてくれる?」
私にとっては馴染みのゾクっとした悪寒が走り、碧子様が頭上に現れた。今日は……気合いの十二単衣姿だ。
「うそ、うそ、うそ、俺にも見える! なんなの? カラーなの? こんなに鮮やかなもんなの?」
遠藤くんが思わずといった感じで私の背中にまわり、肩にしがみついた。
「遠藤くん、見えるの?」
「今更だけど碧子様、相当強い霊なんだよ。なんせ1,000年越えで想いを残してるからねえ。碧子様が本気になれば、実体化なんてわけないよ。やり方知らないだけ」
『え?』
『碧子さまよう……お前、わかってなかったんかい……』
大和さんの言葉に驚いた顔の碧子様の正面に、それこそ実体化中の加賀さんが一瞬で現れた。
そして、私が初めてお会いする、青い小紋のような着物を着た女性と、キツネの面を被った大柄な男性が、加賀さんの向こうからのんびりと歩み寄る。
ひっと息を呑んだ様子から、後ろの遠藤くんにも、彼らは見えているようだ。
「お、お姉さん、ひょっとして……この人たちも?」
加賀さんは普段から、人とそう変わりない姿形だ。そんな加賀さんと、ほぼ同じ雰囲気の皆さん……。
でも、
「私にはわからない。憶測で言っていいことじゃないもの。後で大和さんに聞こう?」
『ふーん、ボンと加賀のお気に入りを見に来てみれば……高山の巫女姫ね……なるほど。懐かしや……うふふ』
着物の女性から高山と名を呼ばれ、慌てて頭を下げると、艶やかな笑みを向けられた。この世のものとは思えない、美貌だった……この世のものでないのはきっと間違ってない。
『高山のお人好しは……1,000年も怨念を背負っていたのか? 理解できん……』
キツネの面のせいで表情はわからないけれど、この大きな男性にどうやら我が一族はディスられているようだ。
『大和、暇そうだったから連れてきた。なっちゃんになんかあれば困っちまうだろう?』
どうやらこの初対面の二人は、本日の助っ人として加賀さんが連れてきてくれたようだ。
「この程度、仕損じるつもりはないけれど……、でもありがたくお力をお借りしますよ。なっちゃんと……俺のためにね」
『変な意地を張らないところがボンのいいところだねえ。やっぱり鐵中には卜部の当主は無理だって。ボンじゃなきゃ』
『青磁、それは今話すことではない』
「ねえ……内容はわかんないけど、言葉そのものは理解できるんだけど?」
「遠藤くん、私もそうだよ……」
私と遠藤くんはこの中で同類なのは互いだけと正しく認識し、頷きあった。
「ハイハイ、じゃあ時間も限られてるからさっさとはじめるよ。じゃあまずなっちゃんから呪いを外すから、この地面の模様の真ん中の右手に立ってね」
大和さんはそう言って、私の肩にかかっていた遠藤くんの手をさりげなく外し、私の背を押して、所定? の位置に立たせた。
「大和さん、この儀式、痛みとかあるの?」
「うーん、長距離走の後の脱力感って感じになると思う。辛かったら座るんだよ。先日の加賀さんの護りがあるから、大きく体調を崩すことはないからね」
「ま、待って! じゃあ遠藤くんは? 遠藤くんにはなんの護りもないよ? 無理を言って引き受けてもらったのに」
「彼は大丈夫。呪いが染み付いていないからね。一瞬触った程度の呪いを除くのと、1,000年もの長きに渡って高山に取り憑いている呪いを引き剥がすのでは訳が違うんだ」
そういうものらしい。私は離された遠藤くんに振り返ると、彼も今の話に首を傾げながらも頷いた。
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