裕福な家族

 しかし裕福な家族はそんな自分にも贅沢をした。毎日だ。

 特に昨日は夕食で手巻き寿司を食べた。家族四人で九千円はかかっていたらしい。父がいつも魚を買ってきて、母が酢飯や食器などの準備をするのだ。

 僕は手伝わず、ベッドでずっとスマホをいじっていた。母に、出来たよー、と言われて二階に上がた。

 食べている時、何気ない夏休みの日になぜこんな贅沢をするのか。そして自分は何もしていないのに何で贅沢をさせるのか、などと思った。

 そしてそんな家族を改めて尊敬し、申し訳ないと思った。


「家は裕福だよね」


 夕食を食べ終わって家族がゆっくりしている時に、母にこう聞いた。

 食卓の周りにある椅子に座りながら新聞を読んでいた母は、新聞から何かに動かされるかのように自然と目を離し、ソファーに寝っ転がっている僕に嫌そうな目を向けて、


「普通だよ」


と言った。

 今となっては恐ろしい見解だが、父と母は僕にとっては欲張りに見えた。過去の栄光や努力に囚われているように思っていた。

 今のようにすぐに自分の事を否定する所もわざと威張っているように見せないことで人から嫌われないようにしていると思っていた。つまり心の奥では母や父が自分は周りの人よりも優れている、そんな考えがあるのではないかと僕は思っていた。

 そう思うのは他の日常生活の中にもあった。

 例えば僕が髪を切りに行かないと言ったときも、切りに行きなさいと何度も怒鳴ったり、生活習慣が昼夜逆転してしまって乱れた時も昼に寝ている時、わざと電気をつけてドアを開けっぱなしにして出て行ったりした。

 勿論こういった事をするのは彼らが意地を張って挑戦して失敗した、生活習慣が乱れて嫌な思いをした、成績が落ちたなどといったことを経験してきたから子供には同じ思いをして欲しくないと思うためだと思うが、だとしても少しでも自分の思い通りに行かないことがあるだけでこんなにも怒るのは、それまである程度は自分の思い通りに行っていたという過去があるからこそだと思っていた。

 だからそういった意味で、彼らをあまりよく思っていないというのがあった。

 何か痛みを本当のものとして知っていないような気がしてしまっていた。いや、今振り返るともっと辛い人もいるが。

 だから今回の件でその事に対する確信が増した。僕は前よりも強い妬みを持って寝た。

 そしたら不思議な夢を見た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る