汐風は止まない

だから、彼女が事故で死んだと聞いた時、クラス中が大騒ぎになって、それから少し、変わっていった。


明るくて、馬鹿で、人気者だった彼女が居なくなると、まるで、教室の光の当たる部分みたいなところが半分くらい、すっかり無くなってしまったようだった。


彼女のことをとりわけ好きだったわけじゃない子達も、良くも悪くも目立っていた彼女に対して、まるっきり無関心でいられた訳じゃなかったんだと思う。


だからきっと、みんなあの子のことを、心のどこかに取り留めていて。私たちはみんな、大きさは違えど同じように持っていたそんな何かに、ぽっかりと大きな穴を開けられた。


だからたぶん、なんだかんだでみんな、汐ちゃんが死んで、なんとも言えない喪失感を同じように感じていた。きっとみんな、本当に

悲しかったんだと思う。





だけどやっぱり汐ちゃんは、空気が読めない馬鹿だった。


かつて自分がいた教室に、

どんなに重たくて気まずい空気が流れているかなんて知る由もなかった汐ちゃんは、

いつもと同じように、私を揶揄うように、

にやーっと笑いながら、再び私の前に姿を見せた。





とはいえ、別に感動的な再会でもなかった。


場所は、観光客なんて一人も来やしない、私たちの家のすぐ近くにある、狭くてしょぼい、見慣れた海岸。


しかも、あれから割とすぐ、何日もたたないうちに、彼女は緊張感なんてかけらも持ち合わせていないみたいな様子で現れた。そんなんだから、私は逆に拍子抜けして、


(ああ、なんだ。汐ちゃん、凄い普通に生きてんじゃん)


なんて、思わされた。

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