第31話
「ちょっとばかし暴れるぜーーーー目醒めろ【獄獣剣ケルベロス】!」
ロッドの叫びと共に、銃剣オルトロスは名を【ケルベロス】と改めその姿を著しく変化させた。
銃の先端の中心から伸びた剣、それを囲う様に狼の頭を模した銃口が三つ備わっている。全体の色合いも赤黒く変化し、立髪に相当する部位は金色の光を放っていた。
「オラオラオラオラぁ! 根刮ぎ砕けちまえッ!」
ロッドは勢い良く地を蹴り、空中で身を翻して体勢を変えた。よく見れば魔法陣が展開されており、それを足場にして移動を可能としている。
少女は外殻を伸ばして攻撃を加えてくるが、ロッドは身軽な動きで足場を利用しつつ、隙を縫って空中を移動し続けた。少女の放つ斬撃と槍は地を裂くほどの威力だが、それらは直撃する事なく空を切るばかり。
やがて攻撃の手が止むと、ロッドはすかさず攻勢に転じた。ケルベロスから炎の魔弾を射出し、外殻で形成された刃物と槍を燃やし貫く。
「はっはーッ! どうだ俺の【魔弾・炎牙(ブレイズ)三咬弾(ヴァイトヴァレット)】の味は!」
銃口の数だけ同時に放たれる炎弾。
それらは魔法の弾丸の為、リロードが不要であり有り得ない速度の連射を可能としている。少女は自らを覆う様に新たな外殻を生み出すが、ロッドはそれを上回る火力で外殻を撃ち砕き続けた。
「あんの馬鹿ッ! さっきは我慢するみたいな空気出してた癖にケルベロスまで発動させてるじゃない!」
「……なんだアレは?」
オルクスはロッドから絶え間なく溢れる炎に目を細める。
よく見れば魔法陣らしきものが足元に展開されており、逆巻く熱風の中で淡く光を放っていた。
「あれはオルトロスの真の姿。ロッドは生まれつき炎に愛された人間で、無意識に大気中に存在するマナを蓄積させる潜在能力を持っている。蓄積されたマナは行き場を無くしてロッドの中で肥大化し、ああやって解放する事によって放出させてるんだ」とガルドは続ける。
「しかもただ解放するだけに留まらず、あの特殊な銃剣にも姿を変えるほどの影響を与えるの。普通なら有り得ない現象だけれども、流石はあの名工トバルカインのヨルズ作って感じね」
「ヨルズさんの作った武器だと?」
「なんだ知り合いか。なら分かるだろう、あれは見た通り普通の武器じゃない」
「私達に出来るのは、せいぜい巻き込まれない様に頑張るってことよ。貴方も分かったわかしら?」
だがしかし、エドナの言葉にオルクスは頑なに首を横に振った。
「俺は……この戦いを止める」
「はあ!? あの化け物同志の戦いを止められる訳ないでしょ」
「それでも、止めなければいけない……気がするんだ」
「どういう意味だ?」
「自分でも分からない……だが、あの少女は敵じゃない」
「……詮索はしないがやめておけ。ああなってロッドは俺でも骨が折れるぞ。それでもやると言うのなら、健闘くらいは祈ろう」
「ああ、行ってくる」
追撃による追撃、繰り返される弾丸の雨。瞬く間に刃物と槍状の両腕に相当する部位は再生も虚しく破壊され、やがて少女本来の腕らしきものが見えた。
やがて少女はガクリと体勢を崩し、力無く地面に落ちる。小刻みに震えて顔を上げるが、その表情は困惑と悲壮感を浮かべている。
あれだけ暴れてなんのつもりだと、ロッドは鼻で笑いつつケルベロスを構えた。
あと一撃通れば勝ちだ。
ロッドがそう確信した刹那、最後の弾丸が飛来する先で光が爆ぜた。
「!?」
「これ以上は攻撃するな」
気が付けばオルクスが二人の間に割って入り、フランベルジュでロッドの炎弾を切り裂いていた。炎が消えた先に見えたロッドの表情には怒りを帯びた笑みが張り付いている。
「オルクス、これは俺の喧嘩だ……邪魔するのは野暮ってモンだぜ?」
「こいつは敵じゃない」
「敵じゃない? 馬鹿か、どう見ても化け物だろうが」
「化け物じゃない。上手く説明できないかも知れないが……まずは俺の話を聞いてくれ」
「おいおいおい、ここまで解放して俺が止まると思うかよ」
「…………なら、仕方がない」
フランベルジュの輝きが強くなる。
赤い炎が白くなるまで発光したかと思うと、やや長いロングソード程に刀身を伸ばした。
「んだよ、さっきの腕試しより本気って訳か」
「口で言っても駄目なら、力ずくで抑え込む」
「俺をか? 笑わせんじゃねぇよ」
カッと笑い、ロッドは目の前に数え切れない小型の魔法陣を生成する。それを足場にしてオルクスの上空に抜けると、ケルベロスに炎を纏わせ、空中から回転を加えた斬撃を放った。
「加減は不要だよな? ーーーー【天下絶絞(てんげぜっこう)】!」
加速度を増した鋭い炎の斬撃。
フランベルジュの炎とぶつかり、白と赤の光が爆ぜて交わる。爆風が吹き荒れる中、ロッドは即座に新たな足場を蹴ってオルクスの背後に回った。
軽快なステップと勘の鋭さ、攻撃後に全くの後隙が無い。
数々の魔物の相手をしてきたが、それを含めてもロッドの戦闘力の高さは群を抜いている。昇格の権利を一時的に剥奪されていると聞いたが、その実力はSランク以上だと確信した。
「……まるで獣だな」
「獣上等、こっちは生半可な生き方して来なかったんでな」
眼帯に手を掛けると潰れた目の跡を露出させた。全身の傷もそうだが、ロッドに刻まれた戦いの痕跡は、そのまま口から吐かれる言葉に重みを与えている。
「俺は餓鬼の頃から死と隣り合わせで生きてきた。そこのガルドもエドナもそうだ。ウチの連中は皆、死地で産声を上げて育ってきたんだよ」
ウォオオオオオ。
低く重低音で鳴り響く雄叫び。
見ればケルベロスの銃口が真っ赤に染まり、振動を帯びながら脈動している。
「てめぇだったら死にはしねぇと踏んだ。だから俺は渾身の一発を叩き込むと決めたぜ」
唸る獣は、獲物を捕らえる為だけにその全てを捧げる。
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