像
ビッティが帰った後、ドノバンは預かった像を詳しく調べてみた。
金属製の像の、台座と膝から下の部位である。
最初に見たときは、青銅製だと思った。やや青みがかった色合いがそう見えたのである。
だがよくよく見てみると、どうも青銅とは違うようだ。これまでに見たことのあるどんな金属とも少し違うようで、結局、材質はわからずじまいだった。
円盤型の台座は直径約四十センチ、厚さ約十センチ。先述したように、非常に良い出来栄えである。
足のほうは、筋肉質な男性と思われた。サンダルを履いている姿だ。英雄の像なのか、あるいは神像なのか。さすがに膝から下だけでは、はかりかねた。製造年や製作者、像の名前などがないか調べてみたが、なにも彫られていない。
膝のあたり、切断された部分を見てみる。
台座部分は中身が詰まっているようだが、足の部分は空洞になっている。青みがかった外面とは対照的に、内側は赤黒い。赤い染料のようなものを流し込んだらしい。
内部の色は像の見た目とは関係ないはずである。それをわざわざ着色してあるということは、まじない的な要素だろうか。これは、なにかの儀式にでも使われた像なのかもしれない。
切断面は、もっと不可解だった。
恐ろしく鋭利な刃物で、素早く切断したものと思われる。
遺跡から発掘された品は、どんなものであっても完品はまれで、破損していることが多い。むしろ、そのほうが一般的だ。年月による劣化、人為的な破壊など理由はさまざまであり、壊れ方もさまざまである。
ドノバンは仕事がら多くの遺物と対面してきたわけだが、この像のような「美しい壊れ方」をした品は見たことがなかったという。
たとえるなら、腕のいい料理人が切れ味の良い包丁で肉や野菜を切るように、「すっぱりと」切られた切断面だったそうである。ましてや、食材ではなく金属である。
剣や斧で叩き斬られた場合には、そうはならない。切断面が、特に切断面のへりの部分が欠け落ちたり、ひしゃげたりするのが普通である。ノコギリのようなものなら引き斬った跡が残る。この像には、そんな痕跡がいっさいない。
南西州の砂漠の民は戦いのとき、刃の薄い曲刀を好んで用いる。ドノバンは得意客に頼まれて彼らの曲刀を仕入れたことがあるそうだが、あの薄刃の刀でも、これほどの切れ味は無いだろうと言っていた。
つまるところ、この像はどうにも不可解なところが多く、謎めいていたのである。
それから一か月余りが過ぎたころである。ビッティが、ふたたびドノバンの店へとやってきた。
なんと、彼女は像のふたつめの
ドノバンは少なからず驚いた。全部揃ったら買い取ってやると約束はしたものの、見つかることはないだろうと考えていたのだ。そもそも無名王国の遺跡という話を信じていなかったから、どこで拾ってきたにせよ、探すこと自体が難しいだろうと思っていた。
ふたつめは腕だった。上腕部の中ほどで切断された右腕である。手には、長柄の武器を握っている。武器の先端部も切断されているが、おそらく槍か斧か、そういった武器だろう。
写実的で、みごとな出来である。内側の赤黒い彩色も同じであるし、サイズ的にもひとつめの脚部とバランスが取れている。同じ像とみて間違いなかろう。
これで、はっきりした。無名王国のものかどうかはさておき、少なくともビッティには探すあてがあるのだ。
ドノバンは、がぜん商売気を出した。一回目よりも二、三枚多めに銅貨を渡し、すばらしい、次もよろしく頼むぞとビッティを大いに持ち上げ、けしかけたのである。
するとビッティは気を良くしたのか、さらに一か月ばかりしたころ、三つめの部位を持ち込んだ。今度は下半身、膝上から腰のあたりまでの部位である。ひとつめと合わせてみると、果たせるかな、膝の切断面がぴたりと一致した。
こうして、一か月に一度か二か月に一度くらいの頻度で、ビッティは新しい部位を見つけては、店に持ち込むようになった。
ドノバンもこの謎めいた像に好奇心をくすぐられ、ちょっとしたコレクション収集のような気分で部位集めを楽しんだ。ドノバンはビッティが店に来るたびに発見場所を聞き出そうとしたが、それだけは絶対に明かさなかったという。
やがて一年ほどが経過し、次の春を迎えるころ、ついにすべての部位が揃った。
部位は全部で八つに切断されていた。
最初の三つは、すでに述べたとおりである。
四番目は、斧頭。右手の武器は大斧だった。
五番目と六番目は、胸部。胸部は左肩から右脇腹にかけて、ちょうど剣術でいうところの
七番目は、左腕。左手には魔術師の杖を携えている。
最後の八番目は、頭部。なんとも異様な頭部であった。
最後の頭部を見たとき、ドノバンは少し落胆した。この像が、見たこともない怪物の像だとわかったからである。歴史上の英雄ならよかったのだが、いくらものが良くても、怪物像では買い手がつきにくい。
とはいえ約束は約束である。それに商売は別にして、ドノバンもこの像について時代背景や製作者など知りたいと思うようになっていた。
ドノバンは
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