第7話 交渉決裂。

話は案外難航した。

ただの保護なら良かったが原因の大神茜に他言無用を誓って従わなければならない事に坂佐間や日影は不満を持ち、倉本は条件を良くしたいと言い出していた。


「ゴリさんは何をしたいの?」

「…ここでは全て大神に聞かれるから言えないがこの事態の収束を考えている」


「私はゴリさんを助けるよ」

「坂佐間…」


「ほら、お父さんお母さんが無事かわからないしさ…、一度おかしくなったルロロが何をするかとかどうなるかはわからないしさ」

「それは一応結果としては出ていて、チルドレンは一定範囲に敵が居なくなれば大人しくなる」


「でも…さ」

「俺は五里裏さんより勇太くんのご両親が心配です」


そんな話をしていて中々話が進まない。

時刻は16時30分になっていた。

ここで有原有子は早々に保護を願い出た。


「ごめんねぇ、私お酒切れ」

そう言った彼女は五里裏にエスコートを頼んで地下まで行く。


地下通路では黒服に囲まれた大神茜が「いらっしゃい有原有子さん。会えて嬉しいわ」と言って連れて行く。

連れて行く途中、大神茜は「五里裏?早く他の連中と投降しなさい」と言っていた。


次に名乗り出たのは倉本で先程までの条件を良くしたいと散々言っていたのにそれが、なりを潜めていて、さっさと「俺も行く」と言って大神のところに行ってしまった。



あっという間にまた4人に逆戻りをしてしまう。


「済まない。日影は勇太くんに懐かれている。先に投降をしてくれないかな?」

五里裏にそう言われた日影は五里裏に何をするのかを聞く。


五里裏は「大神に見られるし聞かれるから」と言って監視カメラを背にして薄くえんぴつで「役所を占拠してアナウンスを使って島民を解放したい」と書いた。



確かにそれを行うには夢野勇太の存在は危険に晒す可能性があるし邪魔になる。


「日影は投降の何が嫌なんだ?」

「…俺はハートフルランドでイジメを受けました。それなのにこれからもハートフルランドで生きるなんて地獄です」


「…わかった。では俺と大神のところに行こう。大神を説得する」


五里裏は夢野勇太と日影一太郎を連れて地下へと行く。


地下に降りた五里裏達を待つ大神には今までのような余裕が無かった。

あの軽口も何もなく「五里裏、早く説得をしなさい。日影一太郎、キミの境遇を聞きました。でも甘んじて受け入れなさい」と言う。


その声はとても怖いものだった。


「大神!話を聞いてやってくれ!他言無用さえしなければハートフルランドを捨てても問題無いはずだ!」

「あるのよ大馬鹿、全部アンタのせいよ」


大神は厳しい眼差しで五里裏を睨む。

一瞬五里裏がたじろいだ所で日影が「大神さん、俺の話を聞いてください。俺の願いは…」と口を開く。


大神は慌てた声で「やめなさい!日影一太郎!」と止めるが日影は「俺は夢野勇太くんの幸せ…」と続けた時、「パン!」という乾いた音が地下通路に鳴り響いた。


そして直後に「え?」と言って倒れ込む日影と「あ?」と言って崩れ落ちる日影を見る五里裏。



「対象3、要求をしたために射殺」

大神の左側にいた黒服がそういうと機械の向こうから「了解、対象2は?」と聞こえてくる。


「お…おい!日影!!」

五里裏が呼びかけても日影は動かない。

日影の場所には血溜まりが出来ていて、それでも倒れる時に夢野勇太を気遣ったのだろう。


勇太は怪我もなく泣いているだけだった。

愕然とする五里裏に大神が「アンタのせいよゴリラ」と言った。


「アンタが説明に資料なんて使うから、アンタが有原有子をこっちに連れてきている時に倉本勝雄は資料を中抜きしていた。その資料を持ってこっちに来て無謀にも交渉を試みたわ。「センターランドに住めて、割の良い仕事を与えてくれたら何も言わない、でもそうならなかったら資料は外部に流出する」…そう言ってきた。初めはこっちも止めていたけど本部の決定で最後勧告を聞いても交渉する物は有無を言わさずに射殺するように命令が出たのよ」


「そんな…。だが…日影の提案は至極真っ当なもの…」

「そんなの通じるわけないでしょ?」


「有原と倉本は?」

「有原有子さんは至って従順。これからもお酒さえ有れば構わないそうよ」


「倉持は?」

「言わせる気?」


これにより倉本がもうこの世にいない事が証明されてしまった。


「後はこの子と上の坂佐間舞さんだけよ。説得をしてきなさい。まあアンタからしたら余計な話だろうけど、私もアンタ達を説得できない場合には責任を取らされる事になったわ。もう後はない。一応言うわ、この先の交渉材料よ。アンタはきっとここを抜け出して役所の占拠に乗り出す。そしてアナウンスで洗脳状態を解いて今も恐怖の中にいる不適合者を助けようとする。

でもそれはお見通し、特殊部隊を向かわせたからアンタ1人じゃ占拠は無理。

そしてタイムリミットの18時59分に間に合わなければ島民全てにジェノサイドモード、目に映る全てを殺すように指示を出す話になったわ。これはお人好しのアンタに効果的よね?」


どうする事もできない。

手は全て封じられた。

だが五里裏はこの状況でも別の手を思いつく。

それは非人道的な手段だった。


「…説得をしてくる」

そう言って泣く夢野勇太を抱き抱えて上に帰ろうとする。


「ゴリラ?夢野くんは置いていきなさい」

「いや、この子まで居ないと説得が難航する。大神は日影を休ませてやってくれ。後見てるのは構わないが聞き耳は立てるな」


そう言って五里裏は夢野勇太を連れて坂佐間の元に帰る。

日影の血がついた夢野勇太を見た坂佐間は怪我を心配して飛んできた。



五里裏は下での出来事を全て話した。

「え?一太郎くん…」

「嘘じゃない。倉本が資料を持っていって大神に交渉を持ちかけて失敗した…」


夢野勇太は泣いていたがなんとか大人しくなっていた。


その間に「打ちたかった手は全て封殺された。俺はそれでもひとつ手を思いついた。それは悪魔の所業だ」と言い、説明をすると坂佐間は「やろうよゴリさん」と言った。


これにより五里裏は坂佐間と夢野勇太を連れて大神に投降をした。


坂佐間舞は決して余計な事を言わずに大人しくしていた。

大神茜は自身も助かった事でホッと胸を撫で下ろしていた。

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