第5話 五里裏という男。

4時間かかって五里裏の家を見つけた。

五里裏の家があったのはセンターランドの一等地で、坂佐間は「わぁ…電車で窓から見るお屋敷がゴリさんのお家なんだ」と驚きを口にする。


家の前で五里裏は「鍵がない」と困って立ち尽くすと、呆れるように日影が「鍵は緊急用で普段は指紋認証のオートロックだと思いますよ?あなたが本物の五里裏さんなら開きますよ。それより早く入りましょうよ。またいつ襲われるか心配です」と言った。


その日影は赤ん坊を抱いている。

赤ん坊は何故か五里裏や坂佐間ではダメで、日影が抱くとスヤスヤと眠りについていた。


「確かに…先ほどもミルクとオムツを確保する時にこの子が泣いて大変だったな」

五里裏達は病院前を抜けてセンターランドに入った辺りでルロロに遭遇した。

だがそのルロロは五里裏達に気付いてではなく、泣き叫ぶ赤ん坊に狙いを定めていた。


見た感じと繋がりはわからないがベビーカーで泣く赤ん坊はルロロではなく周りの連中はルロロで殺そうと武器を構えていた。


五里裏は無我夢中で赤ん坊を救うために身近なルロロに殴りかかると女型のルロロは簡単にきりもみして飛んでいく。


「わ!ゴリさん強い!赤ちゃん確保して逃げよう!」

坂佐間の言葉に従って赤ん坊を救出すると今度はおしめとミルクの問題に直面したし、何故か赤ん坊は五里裏と坂佐間では泣いて話にならず、ダメ元で抱き上げた日影だとスヤスヤと眠ってくれた。


この赤ん坊が泣かないというのは重要で、ルロロ達は赤ん坊の鳴き声にも反応してきた。


そして食事問題になりドラッグストアに赴き、店員や客達が襲いかかってくるものを五里裏が全て倒してから商品を選びセルフレジでキチンと支払いを済ませた。


それには坂佐間が「わ、ゴリさん真面目〜」と笑う。


こうして坂佐間が荷物持ちで日影が子守、五里裏が防衛の形でようやく五里裏の家に到着をした。

家はマンションの最上階、メゾネットタイプの部屋が五里裏の家だった。

住人との戦いも覚悟したがマンションはもぬけの殻で、五里裏に関しては妻帯者で妻達がルロロになっていたらと身構えたがそれも無かった。


「お邪魔しまーす」

「お邪魔します」


五里裏の家は生活感の無いがインテリアなんかはキチンと整っていた。


「わー…ゴリさんお金持ちさんだ」

「なんでわざわざエンドランドから始発なんかに乗ったんですかね?」


日影と坂佐間がキョロキョロと辺りを見回していて、五里裏も一緒に見回したかったが「知らないな。とりあえず俺の部屋ならいいだろ。日影は赤ん坊が寝てる間に風呂入って肩に湿布貼ろうぜ?坂佐間は買ってきた物で腹を満たそう」と言って用意を始めた。



こうしてようやく落ち着けた3人は食後に「ゴリさんの事がわからないから家の中を探そうか?」と言った坂佐間の言葉に従って家の中を探すと、五里裏のスーツから水道管理局特別研究員の名札とカードキーが出てきた。


「ゴリさん…ハートフルランド側の人だったんだ」

「そうみたいだな」


ここで日影があることに気付く。


「五里裏さん、話では水道管理局なんかのインフラに携わっている所には特別な非常用回線があるって聞きましたよ?それがあれば本土に連絡が取れて皆助かりませんか?」

この言葉は確かに願ったり叶ったりだった。


だが、それにはリスクが伴う。

五里裏はその気持ちで「だが、ここで救助を待つと言う手もある。仮にすぐ救助がくれば水道局まで危険を犯す必要はない」と言う。


とにかく五里裏は疲れていた。

自分が何者かわからないことも拍車をかけていて疲れ切っていて一度眠りたかった。



だが、それは許されなかった。圏外で連絡の取れない坂佐間達のスマホや受信しないテレビは変わらないが五里裏のスマートフォンには「水道管理局…地下一階で待つ」とメッセージが入ってきた。



突如光ったスマートフォンを見て坂佐間が「え!?ゴリさんのスマホ動いてるよ?」と指を指し、日影が自身のスマートフォンを見て「全員圏外なのに…、五里裏さんのスマホはハートフルランド側の人だから緊急用とか繋がるのかな?」と言う。


画面を見て内容を伝えた五里裏は「俺だけ向かうのも手だな」と言ったが坂佐間と日影も「救助の人なら一緒に居ないと置いてかれちゃうよ」「五里裏さんと行きます」と反論されて五里裏は致し方ない気持ちの中でまた3人と赤ん坊で行動をした。



出発前、五里裏のスマートフォンには「カードキーを忘れるな」という言葉と共に水道管理局までの地図が届く。興味を持った日影があれこれ触ってみたが「ダメですね。向こうからは届くけどこちらからは何もできません」と言う。


五里裏の家から水道管理局までは徒歩15分の距離だった。

その道中、ルロロに襲われていた有原と言う女と倉本という男を保護した。


水道管理局はもぬけの殻で「普通、こう言うインフラ系は最後まで人が詰めるだろ?なんだこれ?」と日影がボヤくと「本当、訴訟ものだよね」と倉本が続き、有原は「君ぃ、賢いねぇ、若いのに子供もいるのぉ?」と言って酒臭い息を日影に吐いた。


確かに不在に対して呆れ、更に酒臭い有原や生き残るよりも生き残った先の訴訟を気にしている倉本に呆れている五里裏の元にまた次の指示が入ってきた。


「カウンター裏のスキャナーで全員をスキャンしろ」

五里裏は指示に従いスキャナーを手に取ると日影に「使うぞ?」と言いながら当てると液晶には日影の顔写真と共に「日影一太郎18歳」と出てきた。


「わ、これ凄いね。ゴリさん、私も」

坂佐間は「坂佐間舞17歳」と出てきた。


そのまま残り2人にもスキャナーを当てると、有原は有原有子30歳。倉本は倉本勝雄32歳と判明した。


「全員だからゴリさんもじゃない?」

坂佐間にスキャナーを渡すとすぐに「五里裏凱34歳」と表示された。


「それならこの子もですよ。名前が分かると助かりますね」

「あ、そうだね!」

この結果、赤ん坊は「夢野勇太11ヶ月」と表示された。

今も日影の胸で眠る夢野勇太に坂佐間が「君は勇太くんか。頑張って生きようね勇太くん」と声をかけて日影も「なんか赤ん坊より勇太くんの方が実感湧きますね」と言った。


五里裏は地下に進むと研究室の扉を見つける。

「ここ、ゴリさんの職場?」と坂佐間が思った事を口にした時、スマホには「今はそこじゃない。全員で前進しろ」と入っていてしばらく進むと通行止めのシャッターに塞がれた通路の先に黒服の人間を両側に従えた真っ赤なスーツ姿の女が立っていた。


「ふふふ。こんにちは。五里裏、記憶喪失の気分はいかが?」


女が突然そう言い出したがそれより先に倉本が「助けてくれ!ハートフルランドは変な奴らが溢れかえってるんだ!」と声をかける。


「ええ、倉本勝雄さん。助けたいんですけどそれには少しだけお話をする必要があるんです。黙っててくれますぅ?」

女は地味さと派手さが変に融合したファッションで、身体や髪型…素材は地味なのに服装や話し方は派手で違和感が凄い。


「五里裏?タイムリミットは18時59分よ。それまでに決めなさい。まあ今のあなたは記憶喪失だから何もわからないわよね?研究室のキーは持ってるわね?あれで中に入れる。

中に入ったらあなた宛のカプセルを用意したからそれを飲みなさい。そうすれば1時間で記憶は戻るわ、まあまだ治験だったから多少前後するしゴリラ相手の治験はしてないからもっとかかるかも」

「お前は何を言っている?俺よりもこの子達を助けてやってくれ!」


「ふふ、言うと思った。記憶が無くても五里裏は五里裏ね。だからこそ丁度いいのよその子達は人質よ。あなたが賢い選択を出来る為のね」

「まあ個人的には日影一太郎さんと有原有子さんに関しては検査したいし、なんであの時間まで夢野勇太くんが無事だったか知りたいから五里裏が賢い決断をするのを楽しみに待つわ」


そう言って女は立ち去って行った。

日影や坂佐間達は必死に「待って」「せめて勇太くんを保護して!」と女に声をかけたが「うふふ、五里裏次第よ。今はまだここも安全だから研究室にいなさぁい」とだけ聞こえてきた。

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