第4話 地産地消の人間牧場。
「人気のない所に行くぞ。奴らは目の前に俺たちが居なければ落ち着く!」
五里裏の声に少女が「頑張って!」と少年に声をかける。
後ろを振り返るとゾンビ映画のように迫ってきていた連中はあまり速く走らない為か一定の距離が開くからか追って来なくなる。
しばらく行くと橋の下に人気がない場所があったので逃げ込んで息を整えると「大丈夫か?」と五里裏が声をかける。
右肩を押さえながら「は…はい…っ」と答える少年を見て五里裏が「怪我してんのか、坂佐間?」と言うと少女が「うん。診てみる」と言って少し触った後で「折れてはないと思うよゴリさん」と言った。
ここでようやく自己紹介が出来て、五里裏が名乗り、少女は「はじめましてってのも変だけど、私は坂佐間舞です」と続く。少年はようやく「日影…日影一太郎です」と名乗った。
そしてお互いのこれまでを話す。
五里裏は始発列車の事故に巻き込まれて記憶を失っている事、何をしたら良いのかわからずにセンターランドの自宅を目指している事を話し、坂佐間は「朝起きたら親がルロロになってたの。それで逃げてたらゴリさんが通りかかって、まともそうだから声をかけて一緒にいることにしたの」と言う。
日影が「ルロロ?」と聞き返すと坂佐間は「アイツら名前がわかんないからそう呼ぶことにしたの。襲う時にアラームみたいにるろろろろって言うしさ」と笑う。
日影に何があったかを聞くと、日影も全く同じ状況で起きてリビングに顔を出したら襲われて、怪我をしたからドラッグストアを目指したら襲われたと説明をした。
「なんだろうねこれ?困っちゃうよ。お父さんとお母さんは元に戻るのかな?日本中こうなのかな?スマホが使えないから確認もできないよ」
坂佐間はそう言ってメソメソと泣いてしまう。
だがすぐに五里裏が「泣きたい気持ちはわかるが我慢だ坂佐間。俺たちは安全な所で救助を待つ必要がある」と言う。
坂佐間は「うん。頑張るねゴリさん」と言って涙を拭った後で日影に「一太郎くんはどうする?一人で逃げる?私達とゴリさんの家を目指す?」と聞く。
日影は「行って良いんですか?」と聞き返すと五里裏が「構わない。それに記憶のせいで土地勘がないから一人でも多く居てくれると助かる」と返す。
「そもそもセンターランドに住めるなんて金持ちなんですね?」
「それもわからない。俺を助けてくれた駅員にも言われた」
「駅員さんは?」
「俺が逃げ出してすぐ奴らが押し入っていたから恐らくは…」
恐らくはもう死んでいる。そこまで言う前に日影が「現実なんですよね?映画の撮影とか夢とか」と言って見たが五里裏は「それならいいんだがな、右肩は痛いんだろう?」と聞くと日影は肩をおさえて「そうですね。夢なら良かったです」と言ってため息をついた。
五里裏達はなるべく早くひと目につかないようにセンターランドを目指す。
坂佐間の家はエンドランドと病院前の間にあり、日影の家は病院前の側にあった。
それでも徒歩だとセンターランドまでは2時間くらいかかると言われた。
この時期に心配なのは脱水症状や熱中症だったがハートフルランドは一定間隔で自販機が設置されており、自販機は「ルロロロロ」とは言わないし襲いかかって来ない。
「お金は使えて良かったよ」
坂佐間は紅茶飲料を買って五里裏は烏龍茶を買って飲むが日影は顔をしかめて周りを探して別の自販機で水を買った。
不思議な光景に坂佐間は「一太郎くん?」と声をかける。日影は「それ、ハートフルランドカンパニー製の自販機と商品だから嫌いなんですよ」と睨みつけるように言った。
「なんだそれは?」
「記憶喪失だからですか?値段が全く違うんです。俺が飲んだ水は外国の水源地から汲んできた水ですよね?そっちはハートフルランドが手がける飲料部門の商品で値段は競合他社商品の半額以下だから人気ですけど、いくら地産地消を謳っていても原価やコストの問題でその値段は異常ですよ」
五里裏は話しながら日影の買った自販機の商品を見ると確かにペットボトルのお茶が160円で売られているのに、五里裏が買った烏龍茶は同量なのに50円で買えた。
五里裏が困惑していると坂佐間が「でもそれって国から補助が降りてるからやれるのと、島民がハートフルランドでお金を使うからやれているって言われてるよね?」と確認をする。
日影は「それも怪しいものですよ。ネットなんかは陰謀論にまみれていてこの島は人間牧場なんて言われてますからね?」と言って鼻で笑った。
「一太郎くんはハートフルランドが嫌いなの?」
「嫌いですね」
坂佐間はここで「私もなんだ、まあお金は使うし気にせず安いものを買うけど、友達達と離れ離れになった原因だから嫌かな」と言った。
平和な時間。
周りにルロロが居ないのでまるで白昼夢を見ていたと思えてしまう。
だが日影一太郎の身体を見れば怪我をしていてラフ過ぎるシャツ姿で非日常だった。
そしてそんな平和な時間は長くは続かなかった。
病院前という駅名の通り、病院が近づくと「ルロロロロ」と辺りから聞こえてきて病院の玄関で殴り殺されている中年男性や老婆なんかが居たりする。
初の死傷者に日影は吐き、坂佐間は崩れ落ちた、
「なんで病院で…?」
「恐らく日影みたいに襲われて病院に逃げ込んだんだ」
「でも病院もルロロが?」
「ああ。それでああなったのだろう。守衛も奴らだな。警棒が血に濡れてる」
「でもゾンビ映画とかなら死んだ人もルロロになりますよね?」
「ならない…ね」
「それは知らないが俺達には有利だ。数は増えない。今のうちに安全圏に避難するぞ」
五里裏の声で坂佐間と日影は足早に路地裏へと向かった。
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