第3話 少年の朝。
8月1日、午前10時。
少年はいつの間にか眠っていた。
大概は朝7時まではネットサーフィンやネットゲームに興じて、眠気の限界を迎えるか、外が賑やかになってくると嫌な気持ちの中眠りについた。
いつの間にか眠ると言うのは初めての事で自身の不調を疑った。
だが身体は健康そのものだった。
少年は所謂引きこもりだった。
それも引きこもり歴2年でハートフルランドに越してきてすぐに引きこもりになっていた。
監視社会、管理社会だとしても引きこもりは発生した。
特に少年の場合は親のワガママでハートフルランドに来ることになり、望んでいない新天地、急に与えられた新しい環境に馴染めずにイジメられた。
これだけ管理されていてもイジメはどうにもならなかった。
それどころかその次のアンケートに「人間関係の問題点が見受けられます」とあっただけで解決を促されるものでもなく、ただ「原因や解決策、思う所について意見を書くように解答欄が用意されているだけだった」絶望したのはイジメを行った相手にも注意をする訳でもなく今の気分と原因を求めただけだったとアンケートの後でイジメられた時に言われた事と健康診断でもスルーされた時だった。
健康診断時に痣が見えても職員達は無機質な機械のようにスルーする。
学校生活が見えているのに連携も何も無い事に更に絶望をした。
これにより少年は引きこもりになる。
親は手を尽くしたが少年は引きこもったままで遂にはアンケートと健康診断を拒否する。
両親はようやく住む事ができたハートフルランドから追い出される可能性に慌てたが、それすらアンケートに引き篭もっている事を書いて、食事の回数から部屋で何をしているのか、入浴や排泄の回数について可能な限りデータを提出すれば構わないと言われてしまいこの形が出来上がってしまった。
少年は基本的な食事はするが飲み水だけは親の居ない間に飲むだけでは足りずに島外からネットショッピングで買っていた。
「腹減った」
そう言った少年はスマートフォンで母親に「飯」と打った。
普段はこれをすると部屋の前に食事が置かれるがこの日は何分待っても親が持って来ない。
苛立ちながらパソコンを起動したがネットワークが検出できずただの箱になってしまっていた。
ルーターはリビングにあったので苛立ちながらリビングに顔を出して「飯!」と言った瞬間。
ソファに座り真っ暗なテレビを眺めてニヤニヤしていた父は灰皿に手を伸ばし、台所に居た母は包丁を持って「ルロロロロロロ!」と言いながら襲いかかってきた。
少年は右肩を灰皿で殴られ、痛みに蹲ったところを包丁で刺されかけた。
そのひと振りは本気だと少年にはわかった。
少年は恐怖にかられ逃げることにした。
どこを目指す?
風呂場?
トイレ?
外?
外はとても怖かった。
だが今も殺しに来ている親がいる。
躊躇は死につながる。
少年は意を決して赤く晴れた右肩を押さえながら外に出た。
外は平和そのものだったが、肩の薬と食べ物を求めに薬局を目指すと「ルロロロロロロ」と声を上げた通行人や薬局の店員に襲われた。
消火器を持ち上げた若い女。
傘を振り回す子供。
自転車で殴りかかってくる男。
消火器をよけた時に転んでしまう。
逃げ場はない。
自分が何をしたのかわからないまま殺されるのかと思った時、自転車を振り回していた男は吹き飛ばされていた。
「こっちだ!来い!」
「早く立って!」
それはひと組の男女。
男は五里裏凱、もう1人は起き抜けの父母に襲われた少女だった。
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