#05 つき合い
コンサート形式の収録は、盛況のうちに無事終了した。曲はモーツァルト、チャイコフスキー、グリーグ、ラフマニノフ、など。
幸樹は、酒は好きではない。いいイメージがない。できることなら飲みたくない。だがそうとばかりも言っていられない。逃げられない飲み会では1杯まで、2次会以降は絶対に行かない、とルールを決めていた。今日だって、野方やテレビ局や配信会社との付き合い、碧衣の参加、それがなければさっさと帰っていたつもりだった。八重樫もいるのだから。
そして思った通り、酒癖の悪い野方と、「人なつこい」と「ずうずうしい」の区分があいまいなテレビ局のプロデューサーとが、飲み会の騒音の約6割を生産する状態となっていた。
「
幸樹がどうにか、碧衣を含む女性多めの一群に混じって雑談しているところへ、いよいよ八重樫が、グラスを片手にドリルとなって食い込んできた。
「この後、ふたりで、どお?」
酒が入っているせいか、技巧もなにもない。始まった~、という苦笑をコンクリートに埋める女性陣の中で、KO-H-KIははっきりと言い放った。
「八重樫さぁん、アタシ、仕事の関係者とはそうならないって決めているんですぅ」
「いっつもそう言ってさあ、つれないなあ」
「八重樫さん、いい加減にしてくださいよ。KO-H-KIさん困ってるじゃないですか」
居合わせた男性のひとりが、見かねて抗議してくれたが、その程度で引っ込んでくれるなら幸樹も苦労はしない。
「あっちで話しましょうか、八重樫さん」
幸樹は立ち上がった。気はすすまないが、このまま八重樫を放置すれば、今度は碧衣たちが迷惑しかねない。女性を自分の盾に利用するのは、もっと気がすすまなかった。幸樹は、廊下に出るかのようなルートを通りつつ、会場の端を通って、騒音の爆心地、いや野方とプロデューサーに近づく。
「野方さぁん、プロデューサー、八重樫さんがぁ、今日の懺悔を聞いてほしいんですってぇ~」
「おおっ、来たか八重樫」
八重樫の顔色が赤から青に激変したがもう遅い。
「熱心だなおい、まあ座れ」
「KO-H-KIくんもここ……あれ、行っちゃった」
八重樫の投下に成功した幸樹は、ためらわず離脱した。
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