第七話 小泉沙百合の恋愛相談 PART2
「ちょっと放課後いい?」
呼び出されたことは何度もあったけれど、自分から人を呼び出すのは初めてだった。
場所は体育館裏。
呼び出しと言えば体育館裏、と考えてしまうのはなぜだろうか、とふと思う。
「
「いえ、そこまで待っていないわ」
私が呼び出したのは
相変わらず感情の読めない笑みを浮かべている。
「今日は急にどうしたの?」
「……ちょっとね。恋愛相談、かしら」
こんなことを言ってしまうのは、あの正直で素直な二人にあてられた所為なのかしらね。
「話が飛ぶのを覚悟で聞いてほしいわ。中学生二年生の時に付き合っていた人がいたの」
「へぇ」
「先輩だったんだけど、皆にやさしい、頼れる人でね――……」
その先輩に告白されて、付き合い始めた。
はじめは良かった。
しかし段々と一緒に過ごす時間が長くなると、相手の苦手なところにも気になるようになってくる。それは誰にでもよくある、当たり前のことだ。
しかし、それが私にとっては耐えられなかった。
「私……、その先輩のスキンシップが苦手だったの。普通の女の子なら愛を感じる程度だったのだと思うけどね」
「ま、誰にでも苦手なことはあるよね」
「私の父は医者なのだけれど、職業病というのかしら、極度の潔癖症なのよね。家でも何を始めるにもまず消毒、みたいな」
潔癖症の父は、娘にも清くあることを強要してくる人だ。
他人にベタベタ触れられるなどあり得ない、とよく言っていた。
今思えば親バカでもあったのかもしれない。
「そういう訳で先輩のスキンシップも好きになれなかったの」
その先輩は感情を行動に表す人だった。主にスキンシップに。
私はそのスキンシップを避け始め、ついにある時こう切り出された。
「別れようか」
なんとなく予感はしていたから、そうですね、と呟くと、先輩の表情が曇った。
なぜ振った側がそんな顔を、と思ったが、
「やっぱり、俺のことはもう好きじゃない、のか……」
「え? なんでそんな話になるんですか、私が振られてるところなんですよ?」
「振ったのは俺だけど、それは小泉が最近俺を避けてるのはわかったんだけど、何でか分かんなかったからどうにもできなくて、もう別れるしかないのかな、って思って……」
そうか、この人は。
私のために別れることを選んでくれたのだ。
だから私、先輩のことが――。
「……ごめんなさい、先輩。私、先輩のことを嫌いになったわけじゃないんです」
「じゃあ、何で避けてたのか教えてくれる?」
もうどうせ最後だしさ。
そんな諦めたような呟きに、罪悪感でいっぱいになる。
「スキンシップが、苦手だったんです」
「……そうなんだ。ごめん、気付かなくて」
先輩の所為ではない。私がきちんと言えなかっただけだ。
「そう言ってくれるのは嬉しいんだけど、ごめんね、それを聞いてまたやり直すことはできない」
「まあ、そうでしょうね……」
「よく知ってるだろうけど、俺さ、感情が全部行動に出ちゃうの。それでまた小泉を傷つけるようなことがあったら俺が嫌だ」
先輩は優しかった。最後まで私のことを考えてくれた。
「先輩、ありがとうございました。ごめんなさい」
「へぇ、小泉さんにそんなことがあったとはね……」
「それからね、自分の恋愛が面倒くさくなったのは」
先輩は自分が傷つくのが嫌だから、と言って別れてくれたが、私を振ること自体、心苦しかっただろう。
私と付き合っている、というだけで、他の誰かにそんな思いをさせるのは嫌だった。
「ところでさ、なんでその話を俺にしたの?」
「……」
「あっ、別に言いたくないならいいよ?」
「……私、
「……」
「二人は優しいから気にしないと思うけどね、私が気にするの。香鈴は相談に乗ってね、って笑ってくれたけど、自分のことになると何にもできない私が相談に乗るなんておかしいわ」
寺内君は黙ってしまった。
「ねえ、小泉さん」
「はい」
「僕、小泉さんのこと、好きだよ」
――……はい?
今、なんて言ったの――……?
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