第六話 俺はどうすればいいんだ?
もうすぐ体育祭があるわよね?
――
しっかし、どうすればいいんだ?小泉が俺にヒントらしきものをくれたのは確かだが……。
――よし、
その日の放課後、琉斗をゲーセンに誘った。琉斗はUFOキャッチャーの特徴とコツをマスターしており、琉人にかかればあのよくあるデカいぬいぐるみも景品取り出し口にすぐさま吸い込まれていく。
琉斗が景品を一個ゲットしてから言う。(コイツ、二百円でとりやがった……。)
「
勘のいい奴……。
「相談ってほどでもないんだけどさぁ?」
「……つまり相談なんでしょ」
……チッ。
「いいよ、聞いてあげる」
「ほんっとお前っていい奴だよな」
「僕、都合のいい時だけそう言う人、嫌いだから」
わざと冷たい声色を使っているのがわかる。
「悪い、でも本当にそう思ってるよ」
すると、琉斗は少し口元を緩めた。
「大丈夫、中学からの付き合いで陸也がそんな人じゃないってことはわかってるから」
なんとなく嬉しい。
「で、何の相談」
「あ――……。か、香鈴のことなんだけど?」
あー、体育祭ね。事も無げに言う琉斗。
……心を読むな、心を。コイツの前だと思っていることがダダ洩れで困る。
「んー、まあ、そう。そういうことで」
「えっ、何、丸投げ?」
―――そうとも言う。
「ひっどーい。陸也の香鈴ちゃんへの想いはそんなもんだったんだー?」
「ちっ、違う!」
赤面しながら全力で否定する俺。
「じゃあ、好きです、って言ってみて」
ニヤニヤしている琉斗。
―――言えるわけないだろ!
「残念だなー。陸也、本当に香鈴ちゃんのこと好きなの?」
「す、好きだけどっ?!」
琉斗はケラケラと笑う。
「なんだ、言えるんじゃん」
ゲーセンでは言いたくねーよ、誰だって。変な目で見られるぞ、普通。
で、体育祭の話だよねー、と琉斗が話を戻す。
「なんでそんなに張り切ってるの?」
「小泉さんに……協力を求めたら……」
「ヒントとして体育祭を出してくれた、と」
俺の言葉の続きを琉斗が引き取った。
「うんうん、やっぱり体育祭だよねー、特に今年は」
……? 今年?
「え、陸也、覚えてないの?」
何の話をしてるんだ。
「ほら、今年はさ、三年に一度の――……」
「あっ」
「「大借り物競争!!」」
綺麗にハモった。
なぜ「大」借り物競争かって?この「大」が大切なのだ。
説明しよう。大借り物競争とは、この種目のために実行委員会が結成され、実行委員が好きなお題を決めることができる。しかし、原則、実行委員は競技に出場できないため、借り物競争に出るか、実行委員としてお題を決めるのを楽しむか、毎回二つに分かれる。体育祭に出るのは任意だが、この種目に出ない者はほとんどいない。しかも、この競技のために湊高校に入学したものまでいる、という噂だ。
(流石にそれはないと思うんだが……)
「大借り物競争って、俺に出場しろってことか?」
「いやいや、借り物競争で〝好きな人♡〟みたいなお題を引くのって確率低いでしょ。きっと〝先生〟とかしか出ないよ」
「じゃあどうするんだ?」
「僕は実行委員になるのが手っ取り早いと思うんだけどな」
実行委員かぁ。面倒くさそうだが……。
「実行委員になったとして、何をすれば効果的なんだ?」
「ん――……。お題を超ラッブラブにするとか?」
それ、参加者減るぞ。
「分かんないよ? 意外と脳内桃色お花畑の人とか多かったりして」
もっと確実な案が欲しい。
「あっ、じゃあさ、実行委員の仕事を全部引き受ける、って先生に言ってみたらどう?そしたらお題とか他の人に干渉されずに作れるし」
……俺を過労死させる気か。
「大丈夫、僕も手伝うし」
いや……、普通十五人でやる仕事を二人でやるのはキツいと思うぞ?
「じゃあ最終手段!
「尚って……、
……っていうか三人でも無理だろ。一人が五人分働かなきゃいけないのか……。
「だいじょーぶ、だいじょーぶ」
どこがだ。
「終わらなかったら僕が責任取ってあげる」
「……委員長になってくれるのか?」
「うん、陸也が『お願いします、琉斗様』って見苦しく騒ぐからね☆」
……そんなこと一回も言ってないぞ。
まあ、委員長になってくれるのはありがたい。何かあった時に俺だと対処できないだろうしな。その点、コイツはコミュ力高め男子だから心配ない。
「よし、けってーい!じゃあ、明日保体のせんせーのとこに行こ―!」
体育祭の総責任者は体育教師だ。自分たちで企画したい競技がある者や、既に存在している実行委員に入りたい者は体育教師に申し出ることになっている。
陸也と琉斗は、体育祭の話をやめ、どうでもいい雑談を始めた。
――一方。その頃、夕日の差し込む空き教室。
「小泉さん! 去年の四月は断られたけど、俺、まだ小泉さんのことが好きなんだ! 今からじゃ……駄目かなっ?」
「あ、あの、菱川君」
「はいっ!何ですかっ」
沙百合はため息をつきながら言った。
「確かに私はあの時言ったわ。『入学したばっかりでそんなこと考えられない』って」
尚は、沙百合のその言葉を信じ、もう「一年生」という肩書が取れ、「先輩」と呼ばれることに慣れてきたこの時期に告白をし直したのだろう。
……なんていうか、素直すぎるのよね……、菱川君……。
「この際だから言っておくけど、私、好きな人いるから。何度告白されてもなびく気はないわ」
そう言い残し、沙百合はツカツカとその場を去った。
尚のもとを去った沙百合は、珍しく目に見えて動揺している。
――私、「好きな人がいる」って言った……わよね……?
沙百合は、実は中学の時のある経験から、色恋沙汰に自分が関わる気は全くなかったのだ。
私の好きな人って、誰なのかしら……。
そう自分に問いかけたときに浮かんできたのは、屈託のない
「――っ」
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